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躍進するAlibaba Cloud ― 第2回

杭州で開催された「The Computing Conference 2018」現地レポート

データセンター間の量子通信、サーバー液浸冷却、AIチップ――Alibaba Cloudが自社開発技術を披露

2018年09月27日 10時30分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp

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 中国アリババグループは2018年9月19日から4日間、ホームタウンの浙江省杭州市でAlibaba Cloudの年次イベント「The Computing Conference 2018」を開催した。基調講演には、来年2019年9月をもって退任することが発表されたアリババ共同創業者で現会長のジャック・マー氏が登壇。イベント会場のCloud Town(雲栖小鎮)には200社以上のパートナー企業が出展し、4日間で約12万人(登録者数)が来場した。

杭州市のCloud Town「The Computing Conference 2018」の会場の様子

SAP、VMwareとのパートナーシップを発表

基調講演に登壇したアリババグループのジャック・マー会長

 Alibaba Cloudは、中国のIaaS市場で47%のシェアを持ち、中国全土の37%のWebサイトをホストするパブリッククラウドサービス。中国のほかに、日本を含むアジア地域、米国、ヨーロッパ、中東、インド、オーストラリアに合計18のリージョンを展開しており、グローバルでの課金ユーザー数は150万人以上、グローバルのIaaS市場シェアはAWS、Azureに次いで3位(ガートナー調べ)だ。

 中国トップ500企業の3分の1以上が利用し、中国各都市の公共サービスやスマートシティ、交通機関のインフラとしても大規模に活用されているAlibaba Cloudは、欧米のエンタープライズITベンダーにとって魅力的なパートナーだ。

 今回のThe Computing Conference 2018では、独SAPが、PaaS型ERP「SAP S/4 HANA Cloud」および「SAP Cloud Platform」の中国市場向けサービスを、Alibaba Cloudをプラットフォームとして提供する計画を発表した。アリババとSAPは2016年に業務提携しており、これまでもAlibaba CloudのVMインスタンスでSAP製品が利用可能だった。今回2社は提携を拡大し、SAPのPaaS型ERPの基盤にAlibaba Cloudを採用するとともに、小売りや製造業向けのソリューション開発で協力していくとする。

基調講演に登壇したSAP CEOのBill MacDermott氏並んで座るJack Ma会長とSAPの MacDermott CEO

 米VMwareも、今回のイベントでAlibaba Cloudとハイブリッドクラウド分野でのパートナーシップを発表した。Alibaba CloudのベアメタルインスタンスにVMware環境を構築し、オンプレミスで稼働するVMwareワークロードをAlibaba Cloudへ拡張できるようにする。このハイブリッドクラウドソリューションは、当初は中国とアジア地域でのみ提供するという。

東京五輪の放送システムのフル機能をAlibaba Cloud上に構築

 Alibaba Cloudは、アリババグループのEC/小売り、決済サービス、物流など、すべての事業のインフラでもある。アリババグループは映像コンテンツ製作やインターネット動画配信サービスも手掛けており、Alibaba Cloudのライブストリーミングサービスや中国全土に1000以上の配信ノードを展開するCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)を利用して映像コンテンツを配信している。

 この大規模な映像配信サービスの運用実績を踏まえて、今回、オリンピック放送機構(OBS)は、2020年東京オリンピックの放送システムのフル機能をAlibaba Cloud上に構築することを発表した。

基調講演で握手するオリンピック放送機構CEOのYiannis Exarchos氏(左)とアリババグループCEOのZhang Yong氏(右)

 OBSは、オリンピックとパラリンピックの放送の国際信号を制作して、世界各国の放送事業者に配信する組織。これまで、OBSは大会ごとにホスト都市に国際放送センター(IBC)を構築し、オンプレミスの放送システムをセットアップしていた。次の東京オリンピックでは初の試みとして、IBCの放送システムのすべてをAlibaba Cloud上に構築する。併せて、各国の放送事業者向けの放送環境もAlibaba Cloud上に用意し、インタラクティブなブロードキャストや大会用アプリケーションの開発、サンドボックス環境でプログラムのテストなどができるようにする。

 IBCの放送システムはAlibaba Cloud上のインテルXeonスケーラブルプロセッサで実行され、各国の放送事業者のシステムとは専用線で接続する。テレビ、ラジオ向けの映像や音声だけでなく、特にデジタルとソーシャルメディア配信の機能を強化した設計にするとしている。さらに、OBSはアリババと協力し、VR技術を使った映像コンテンツの配信について技術協力する。

自社開発の推論用AIチップ「AliNPU」を2019年後半にリリース

 昨年のThe Computing Conference 2017でジャック・マー会長は、同社の研究機関「達磨院(DAMOアカデミー)」における先端技術の基礎研究に今後3年で1.5兆円規模の投資を行い、AIや量子コンピューティング、ブロックチェーンなどの開発を推進すると述べていた。今回のイベントでは、AIチップと量子コンピューティングの具体的な開発ロードマップが示された。

The Computing Conference 2018展示会場の達磨院(DAMOアカデミー)コーナー

 DAMOアカデミーが開発した画像認識や音声認識、OCR、自然言語処理などのAIテクノロジーは、Alibaba CloudのAI APIサービスとして提供されており、アリババのスマートスピーカー「Tmall Genie」や、開発中の自動運転車にも実装されている。

アリババのスマートスピーカー「Tmall Genie」

 今回、AIの精度に大きく影響するニューラルネットワークの計算処理性能を高めることを目的に、DAMOアカデミーでニューラルネットワークの推論に特化したAIチップ「AliNPU」を独自開発し、2019年後半にAlibaba Cloudのデータセンターで稼働させることを発表した。

 併せて、カスタムAIチップと組み込みプロセッサの開発に特化したチップ会社をアリババグループ傘下に設立。将来的には、企業のデータセンターやIoTソリューションにAIチップの計算リソースを提供していくことを目標に掲げており、AliNPUのクラウドサービス化や、IoTエッジ向けのAIチップの開発を目指すとみられる。

 別のアプローチとして、DAMOアカデミーではFPGA上にディープラーニングに特化したプロセッサをソフトウェア的に実装し、画像認識などの計算でレイテンシとパフォーマンスのバランスを取ることにも取り組んでいる。

クラウド向け量子プロセッサの開発に着手

 DAMOアカデミーは予てから量子コンピューティングの基礎研究に取り組んでおり、すでにAlibaba Cloudの古典コンピュータ上で量子コンピュータの振る舞いを再現した量子回路シミュレータ「Taizhang」をリリースしている。

Alibaba Cloudの量子回路シミュレータ「Taizhang」

 今回、DAMOアカデミーが独自の量子プロセッサの開発に着手していることが発表された。量子プロセッサのハードウェアについては、Alibaba Cloudのハードウェアチームが開発をリードし、DAMOアカデミーはクラウドサービスとして量子コンピューティングのパワーを提供するための技術や、古典コンピュータと量子コンピュータをハイブリッドで利用するためのアルゴリズムなどを開発しているという。

 Alibaba Cloudのサービスとして量子コンピュータが登場する時期は明らかにされていないが、先行して、量子回路シミュレータ上で実際の量子コンピュータでも動作可能な量子アプリケーションを開発できるツールがTaizhangの拡張版として間もなくリリースされる予定だ。さらに、EC、ロジスティクス、金融、材料開発、医薬品開発など分野で量子コンピューティングを活用するために、ソリューションパートナーのネットワーク拡大に努めるとしている。

自社開発技術満載のAlibaba Cloudデータセンター、量子通信を実用化

 アリババは、クラウドデータセンターのサーバー仕様をオープンソース化するコミュニティOpen Compute Project(OCP)に参加しており、Alibaba Cloudデータセンターで使っている自社開発サーバーの仕様や冷却技術を公開している。The Computing Conference 2018の展示会場では、Alibaba Cloudデータセンターの物理インフラが紹介されていた。

 Alibaba Cloudは、世界10カ国に18カ所のリージョン、44カ所のアベイラビリティゾーン(AZ)を展開する。AZを構成するデータセンターではアリババが自社開発したブレードサーバーやスイッチが使われており、サーバーに載せるチップやFPGAにも自社開発技術を搭載している。

Alibaba Cloudデータセンターに実装されているチップの展示。上段左がインテルと共同開発した汎用計算向けチップ、上段右がストレージサーバー専用に自社開発したチップ、下段は自社開発のFPGA

 次の写真はAlibaba Cloudデータセンターに最初に実装された第1世代のサーバー。自社開発したものであることを示す「Alibaba」ロゴがついている。アリババがインテルと共同開発した汎用的な計算を行うチップが搭載されており、今も現役で稼働している。

第1世代のブレードサーバー、「Alibaba」ロゴがついている

 次の写真は最新の第2世代のサーバー。

第2世代のサーバー。左のラックがVMなど汎用的な用途で使うブレードサーバー(ラック上段)とストレージサーバー(ラック下段)、右のラックがAIなどの大量計算用途で使うサーバーだ。ストレージサーバーにはストレージ専用に自社開発したチップを搭載する
第2世代の汎用ブレードサーバー第2世代の大量計算用ブレードサーバー

 データセンターの冷却には、空冷や、湖の深いところから引き上げた冷水を使った水冷を採用している。Alibaba Cloudはまた、次世代のデータセンター冷却技術として液浸冷却「Kylin Immersion」を開発した。液浸冷却を採用することで、データセンターのPUEを限りなく1.0に近づけることができるとする。

液浸冷却技術「Kylin Immersion」サーバーを液体に浸けて冷却

 Alibaba Cloudのデータセンター間ネットワークの一部では、DAMOアカデミーが開発した量子通信の技術が実用化されている。量子通信は、暗号方式に量子暗号化を用いるVPN接続の一種。光ファイバー網を利用する光通信において光子の量子的性質を用いて秘密鍵暗号の鍵データを符号する。鍵データを第三者が途中で観測すると量子的性質が崩れて送信できなくなるので、原理的にネットワーク侵害が不可能な通信方式とされている。

 Alibaba Cloudでは、北京と上海のデータセンターをつなぐ2032キロメートルの200Gbps自社ネットワークで量子通信技術を採用し、金融機関向けに極めて高度なネットワークセキュリティを提供している。

Alibaba Cloudの北京と上海のデータセンター間ネットワークで量子通信技術を採用している

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 特集「躍進するAlibaba Cloud」、第2回目はAlibaba Cloudの年次イベント「The Computing Conference 2018」の様子を紹介した。次回は、アリババグループがAlibaba Cloudの大規模リソースとAIテクノロジーを駆使して取り組んでいる「New Retail」を取り上げる。

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