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視覚障がい者を音声でガイド、ホロレンズの意外な使い道

2018年06月15日 11時57分更新

文● Rachel Metz

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カリフォルニア工科大学の研究者たちが、AR(拡張現実)ヘッドセットの画期的な使い方を見つけた。ヘッドセットが備える空間マッピング機能と3次元音響を利用して、視覚に障がいがある人を道案内する装置を作ったのだ。バーチャルなガイドが装着者の前方から声で誘導してくれる。

マイクロソフトの高価なコンピューターである「ホロレンズ(HoloLens)」は、デジタル画像を現実世界と重ね合わせて見せることが可能なAR(拡張現実)ヘッドセットである。しかし、ある科学者グループがホロレンズの画期的な使い方を見つけた。視覚に障がいのある人が建物を通り抜け、周囲の物体の位置をより正確に感知するのに役立てようというのだ。

カリフォルニア工科大学の研究者らが開発したのが、ホロレンズ向けの新しい道案内アプリである。ホロレンズが備える、空間と物体をリアルタイムでマッピングする機能や、3次元空間内の特定の方向から聞こえてくる音声を作り出すスピーカーといった特徴を活用したのだ。バイオーアーカイブ(bioRvix)のWebサイトで最近発表された記事によると、研究チームはこれらの機能を用いて、大学の建物の込み入った経路をマッピングし、視覚障がいのある人が通り抜けていくのを手助けするバーチャルな道案内を開発した。利用者には、1メートルほど前にいる人が「私についてきてください」のように進む方向を声で教えてくれているように聞こえる。

記事に添付されている映像を見ると、道案内アプリが実際にどう使われるのか分かる。ホロレンズを着用した被験者である視覚障がいのある人に、女性の声が「両サイドに手すり」「階段を上って」「右折です」などといった具合に道案内をする。男性は指示に従うことで、やすやすと1階のロビーから階段を上がり、角をいくつか曲がり、2、3の出入り口も通過し、2階の部屋に到着する。

映像の男性は、このアプリを試した7名の被験者の一人だ。被験者全員が1回目の実験で目的地にたどり着けたが、うち1人は途中で経路から少し外れた。研究論文の共同執筆者であるカリフォルニア工科大のマークス・マイスター教授は、研究を続ければ、ホテルやショッピングモールといった馴染みのない場所で視覚に障がいのある人がより容易に移動できるように手助けする機器を作れると考えている。屋外でそうした使い方ができるツールはすでにいくつかある。ターンバイターン(どこで曲がったらいいかを教えてくれる)のマッピング・アプリのようなものだ。しかし、マイスター教授が述べるように、屋内向けにはあまり選択肢がない。

世界保健機関(WHO)の推計では、世界で約2億5300万人が、全盲あるいは視覚に何らかの障がいをもっている。今回のようなアプリの潜在的市場は巨大な可能性がある。しかし、課題はまだ多い。現在のところ、ある地点からある地点へ行く場合の道順を全て、事前にスキャンしておかねばならない。ホロレンズを装着した人が通っている場所を他の人も通っているかもしれないので、そうした人々を追跡する仕組みも必要になるだろう。

しかし映像を見ると、被験者は少なくともこれまでのところ、今回のデバイスの働きに感銘を受けたようだ。映像の最後で男性は満足げに笑いながら、「かなり良かったですよ」と言っている。


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