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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第61回

ざっくりと、いまどきの仮想通貨のスペックを考える

2018年02月13日 17時00分更新

文● 前田知洋

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 このところ、ニュースを賑わす、仮装通貨取引所、コインチェックで580億円の不正引き出しで「仮想通貨の価値」が再検証されております。

 仮想通貨は、もともと「非中央監視で規制にとらわれない」「プライバシーが守られる」「手数料がかからない」など、未来の通貨として登場しました。しかし、そうしたユニークさが、事件をキッカケに「決済に5時間かかった…」とか「投資したら、〇〇円目減りした…」など切実な叫びと共に姿が変貌してきている気がするのは筆者だけではないかもしれません。

 また、ネット上には「夢で未来の仮装通貨」なハッピーで古めな煽り記事と、「仮想通貨ヤバイんじゃね」「税金が半分!」みたいなネガティブな話、さらにハッシュ関数が登場する「ブロックチェーンのしくみ」などが混在する玉石混交、底なし沼の様相です。

 そんな夢の通貨のビフォーアフターさえ記録されてしまうのがネットの懐の深さでもあるわけです。今回の件を、決して対岸の火事とは考えす、このあたりで「仮想通貨の価値を再認識するタイミングでは…」と筆者は勝手に思っております。

浮き彫りになりつつある、新たな仮想通貨のボトルネック

 今回の事件、「580億円が不正送金されて口座が凍結された…」なんてケースは別にしても、仮想通貨は「価格が乱高下して通貨として使いにくい」「送金手数料が銀行より高いことがある」「決済に30時間かかった」など、不満の声も少なくありません。いわゆる、ボトルネックとよばれる現象です。

 たとえば、電気量販店など決済できるようなりましたが、スムーズに会計ができるのは、同じ取引所の口座間の決済の場合など。もし、ウォレットのアプリが店のアプリと違ったり、取引所が異なると、決済に数時間かかる(そのため、決済不可でクレジットカードか現金で代用…)なんてケースもよく聞きます。

 それもそのはず、仮想通貨はブロックチェーンに記録される決済(トランザクション)を誰かが承認してブロックチェーンに書き込まなければなりません。下のサイトで「トランザクションの待ち状況」が確認できますが、この原稿の執筆時(平日の11:24)で3万人くらいがトランザクションを待っています。(ピーク時には10万人ほど待つこともあるそう…)。

「トランザクションの待ち状況」(https://blockchain.info/ja/unconfirmed-transactions/)

 実況状況には、3.8(トランザクション/秒)と表示されているので、いま送金しても単純計算で30時間ほどかかることに…。これだったら、クレジット決済とかPaypalのほうが、送金が早い気がします…。

 価格の乱高下も仮想通貨を使いにくい要因の一つですが、さらに問題を複雑化しているのは新たな仮想通貨の税制です。たとえば、買い物に仮想通貨を使うと「仮想通貨から日本円に換金」と見なされます。新しい税制では「仮想通貨の売却、商品購入、交換」に課税されるため、仮想通貨が値上がりしていれば使用した仮想通貨のうちの利益分に課税がされます。

 例として、1BTCを80万円で購入→1BTCが160万円に値上がり→0.2BTCで32万円のパソコンを購入した場合を考えてみます。仮想通貨購入時の0.2BTCの価値は16万円ですから、パソコンの価格32万円の差額16万円が雑収入として課税の対象になり、最高税額55%なら8万8千円を税金として収めるケースも考えられます。ウォレットに残った仮想通貨も使うごとに課税されるのがつらいところ…。(その年の所得額にもよりますので、詳細は税理士や税務署にお問い合わせを)。

 さらに次のように、仮想通貨の理想すら壊してしまう恐れもあります。

伝家の宝刀、ハードフォークとは…

 ハードフォークとは、ブロックチェーンを分岐させ、仮想通貨の大幅なバージョンアップやトランザクション履歴修正のために使われます。たとえば2016年6月に、仮想通貨 Ethereumで集まったファンド資金、約65億円が盗まれたとき、それを取り戻すために使われました。(詳しくは「The DAO事件」で検索)。

 本来、仮想通貨は誰も管理者がいない「非中央管理」がメリットでした。そのため、上記のハードフォーク行使(盗難履歴修正)は、通貨所有者の多数決で決定されました。しかし考えてみれば、仮想通貨を提唱した「satoshi nakamoto」氏によれば、「誰も改変できない」ことが「非中央管理」であり、それこそが「未来の通貨」の絶対要因だったはず。

 ゲスの勘ぐりかもしれませんが、もし今後このようなハードフォークがさらに行使されるのであれば、「(マイニングによる)仮想通貨量の上限が決まっている」など、もう一つメリットが消えてしまうかもしれません。

 でも、よく考えてみれば、不正請求や盗難をキャンセル、保証したり、送り先の口座を凍結できるって、もう既存のクレジットカードや銀行口座の機能で、もうすでにあった気が…。

それでも仮想通貨には可能性が…

 いろいろなネガティブな事件があったとしても、それは取引所のセキュリティの甘さや内部の犯行など、「人災」によるものと分析することも可能です。仮想通貨のシステムやアルゴリズムが原因ではありません。

 現状のように、仮想通貨を投機としてだけではなく、たとえばICO(仮想通貨経由による事業資金調達)など、さまざまな規制に阻まれない柔軟さに可能性を筆者は感じています。さらに、ブロックチェーンの技術が食品やプロダクトのトレーサビリティの役に立つでしょう。

 しかし、ICOが詐欺の温床になりつつあること、投資家保護を理由に、各国政府がICOにも有価証券と同じような規制を進めるのもまた自然なことです。

 僕らは「新しく、革命的なテクノロジーが誕生する(かもしれない)…」そんな時代を目の当たりできることを、欲望を捨てて眺めるべきなのかもしれません。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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