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持ち帰り残業も多発、日本企業は「とりあえず残業時間短縮」から先の改革へ進めるか

「働き方改革」の実情、「ICTの取り組みはまだ10%程度」IDC調査

2018年01月19日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 IDC Japanは1月17日、2016~2021年における国内の「働き方改革ICT市場」について詳細な成長予測を発表した。市場全体の動向は昨年12月に発表済みだが、今回は同市場を構成するハードウェア/ソフトウェア/サービスといった分野別の規模および成長率の予測データを示している。

 これに加えて同日の記者説明会では、国内企業における「働き方改革」への取り組み内容や進捗段階、さらに「持ち帰り残業」の実態調査結果も明らかにしている。

 本稿では、特に注目すべき結果を示した後者の調査結果を中心にお伝えする。高い市場成長率が予測されている前者については、記事後半にまとめた。

IDC Japan PC,携帯端末&クライアントソリューション グループマネージャーの市川和子氏

「働き方改革」の具体的施策では「残業時間の短縮」だけが突出

 記者説明会ではIDC アナリストの市川和子氏が、「働き方改革」を実施中/実施検討中の国内企業に対して行ったアンケート調査結果を明らかにした。

 それによると、「働き方改革」の実施目的としては「残業時間の短縮」と「労働生産性」の2つが上位に挙がっている。ただし、具体的に実施している内容を見ると「残業時間の短縮」だけが突出して多い(およそ50%)。以下も労務/人事制度面での施策が続き、ICTが直接的に資する施策となると、その実施率はいずれも10%前後の実施率にとどまる。

 「残業時間の短縮の取り組みは50%近くが実施しているが、対照的に、ICTツールを活用/導入する取り組みにはまだまだ企業のリソースが向けられていない」(市川氏)

「働き方改革」で実施している取り組みの内容(Source:IDC Japan、以下同様)

 リモートワークなどの柔軟な働き方を可能にするうえで必須となる、社外からの業務アプリケーション利用がどの程度可能になっているか(または今後可能にするか)の調査では、最も割合の高い「Eメール」ですら60%程度にとどまり、「会議システム」や「スケジューラー」は40%程度という調査結果となっている。

 「企業の頭には『柔軟な働き方を実現する』という目標はあるものの、それを実現するための具体的なステップにはまだ踏み込めていない」(市川氏)

社外から利用できる業務アプリケーションの導入率

 それを裏付けるのが、企業IT部門の決定権者に対する「業務PCの持ち出しルール」に関するアンケート調査結果だ。

 同調査では、60%以上の企業において、PCの持ち出しを原則禁止する/制限するルールが敷かれているという結果が出ている。特に大企業(従業員500人以上規模)においてその傾向が強く、80%近くの大企業で原則禁止/制限されている。

業務PCの持ち出しに関する運用ルールの状況(グラフは上から大企業、中小企業、総計)

 ただし市川氏は、この調査結果には複雑な背景もあると説明した。従来は情報セキュリティリスクが主な禁止理由だと考えられてきたが、市川氏が企業CIOに話を聞くと、労務管理上の問題を指摘する声が多く挙がったという。

 「持ち出しPCを自由にすると、自宅での仕事(持ち帰り残業)がコントロールできず、残業時間が増えてしまい、結果として労務管理上で煩雑な問題が出てくる可能性がある。これを防ぐためにPC持ち出しを禁止しているというCIOの話を聞いた。これはなかなか根深い問題。法改定によって裁量労働制の拡大などが実現すれば、持ち出しを禁止している企業も許可に向かうのではないか」(市川氏)

たとえPC持ち出しを禁止しても「持ち帰り残業」は多発している

 もっとも、上述したCIOの見解は経営側の視点であり、必ずしも現場の実情に即しているとも言えないようだ。現場のユーザー(ワーカー)に対する別のアンケート調査では、PC持ち出しの可否に関係なく、持ち帰り残業が多発している現状も明らかになっている。

 ノートPCを中心に利用する企業ユーザーへのアンケート調査によると、月に1回以上、自宅で会社の業務を行うとした回答者は50%を超えている。そのうち、「会社支給のPC」ではなく「自宅のPC」「会社でも利用している自分のPC」で業務を行うとしたユーザーは65%以上に及ぶ。

企業ユーザーに聞いた「持ち帰り残業」の現状。月1回以上という回答が過半数を占める

 さらに、持ち帰り残業で自分のPCを使う理由については、40%以上のユーザーが「会社のPCが持ち出し禁止であるため」と回答している。PC持ち出しを禁止しても結果的に持ち帰り残業は発生しており、むしろ個人管理のPCが使われることでセキュリティリスクの増大が懸念される。

月に数回以上持ち帰り残業をするユーザーが、会社貸与のPCを利用しない理由。「PC持ち出し禁止のため」が4割強

 市川氏は「持ち帰りの仕事、その数字の高さに驚いた」と述べたうえで、この調査結果からうかがえる企業の現状を次のように説明した。

 「2017年には、ただ単に残業時間をカットする、強制的に帰らせるということが頻繁に行われた。特に大企業では、そうした(残業抑制の)ルールがほぼほぼ作られているようだ。だが、実際には仕事の量は変わっておらず、労働生産性も向上していないために、ワーカーは自宅で仕事をせざるを得ない。そうした実態が浮かび上がった」(市川氏)

「働き方改革」だけでなく、高度なICT戦略実行のための“試金石”になる

 まとめとして市川氏は、現状ではほとんどの企業が「残業時間の短縮」という目標への取り組みに終始しており、まだ「柔軟な働き方」や「生産性向上」を実現するための、ICT導入も含む抜本的な取り組みの段階には至っていないと語った。

「働き方改革」の「目標」としては柔軟な働き方、生産性向上なども挙がっているが、具体的な取り組みは遅れている

 定量的に実施効果の測りやすい残業時間短縮の取り組みと比較して、特に生産性向上の成果は可視化しにくい。そのため、予算を確保したり社内の広範な協力を得たりするうえで障壁があることが、その理由のひとつだという。

 それに加え、企業が残業時間短縮の目標達成後、次の段階である生産性向上のためのICT導入に進むかどうかについて「不安もある」と語った。残業時間の短縮は社会的な要請であり、必須かつ緊急の取り組みとなったが、ICT導入による生産性向上は長期的な視点が求められ、成果も予測しづらいからだ。

 そのためにもICTベンダーは今後、働き方改革のユースケースを積極的に公表して継続的に啓蒙を図るとともに、期待できる成果を数字として提示していく必要があると、市川氏は指摘した。同時に、企業においてはICT導入/活用以外の取り組み、具体的には企業文化や人材、評価制度、勤務形態など広範な領域での改革も視野に入れる必要があるとしている。

 最後に市川氏は、企業がICT導入によって働き方改革を進められるかどうかは、その企業がデジタルトランスフォーメーションなど、今後求められる新しいICT戦略を実現できるかどうかの試金石にもなることを指摘した。

 「余談だが、この4、5年の“ITレボリューション”はすごい勢いで進んでいる。ICT導入による働き方改革、生産性向上の取り組みを実行できるかどうかは、これからさらに加速するITレボリューションについていけるかどうかの試金石にもなる。それに気づき、しっかりと理念を持って(働き方改革を)やっていければよいのだが、理念という土台がなく、たとえばAIソリューションを単体で持ってきてそのポテンシャルを使い切れるかと言われると、難しいだろう」(市川氏)

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