会社を辞めたプログラマーが
WordStarより優れたワープロを開発
こうした会社のドタバタに嫌気が差して辞め、自身で会社を興したのがPeter Mierau氏とその同僚だったStan Reynolds氏とRichard Post氏という3人のプログラマーである(Reynolds氏とPost氏は単純に解雇されたらしい)。
彼らが立ち上げたのがNewStarという会社であり、WordStar互換のNewWordというワープロを立ち上げる。NewWord 1は1983年9月に発売されたが、これはおおむねWordStarのサブセット、といった程度だった。
ところが1984年8月に発売されたNewWord 2ではアンイレースやレーザープリンターサポート、スペルチェックなどを搭載し、しかもWordStarより高速だった。
1986年2月にリリースされたNewWord 3ではマクロ機能や数式記述、文章入力をしている最中の単語チェックやサジェスチョンといった機能を備え、従来のWordStarユーザーがMicroProに求めていた機能をすべて兼ね備えていた。
これが完成した時点で、NewStarは再びMicroProと接触し、会社ごとNewWordを購入しないかと持ちかける。売買契約は成立し、NewStarは300万ドルでMicroProに買収され、NewWord 3にちょっとした機能追加を施したものがWordStar 4として改めて発売される。
出荷されたのは1987年2月で、まずMS-DOS版が発売され、CP/M版が続いた。NewWordをベースにしたことで、古いWordStarのコードはすべて破棄され、この後はこれをベースにWordStar 2000で追加された機能を改めて盛り込む形でWordStar 5.0/5.5/6.0/7.0が発売される。6.5というリリースもあったが、これは古いコードをベースにしたもので、最終的には発売されずに破棄されることになった。賢明な判断だったとは思う。
ただ、こうした正常路線に戻るまでの時間がやや長すぎた。1985年に一度発売されたWordStar 4をなかったことにすると(実際ユーザーからも無視された)、1983年のWordStar 3.3から1987年の4.0まで4年間アップデートもなにもなし、というのはいくらなんでも放置しすぎであった。
この間にWordPerfectが少なからず市場を奪っており、巻き返しには時間がかかった。しかも1991年にWindows 3.0が発売され、マイクロソフトが1991年にWordを投入したことで、Windows環境におけるワープロのシェアは最終的にマイクロソフトがゴソっと持っていくことになった。
MicroProはNBI Inc.という会社からLegacyという名前のワープロソフトのソースコードを買収し、これをWordStar for Windows 1.0として1991年中に投入する。これは悪いソフトではなかったのだが、機能面ではいくつか足りない部分もあり、これを補うべくWordStar for Windows 1.5を1992年8月に、2.0を1994年に発売するが、もうこの頃には劣勢は明らかであった。
遅すぎたバージョンアップ
経営判断のミスが尾を引き会社が消滅
こうした製品の混乱にも増して、経営陣はさらに混乱していた。Haney氏はWordStar 2000の低迷による、1985年度の4四半期連続減益の責任を取って1986年8月に辞任する。1985年度の第3四半期だけで240万ドルの営業損失を出していれば、致し方ない。
後任はMcGraw-HillからやってきたLeon Williams氏であったが、彼は1988年10月に「一身上の理由で」辞任。Gary Grimm氏が後任となる。
Grimm氏は改めて製品ラインを整理しなおすとともにブランドを再構築する意味で、1989年6月に社名をWordStar Internationalに改める。ただこれは遅すぎた変更であり、もはやこの時点でWordStarのブランドは昔日の威光を失っていた。結局ずるずると売上げ/利益が落ちる一方であった。
会社を存続させる目的でか、1994年2月に同社とSpinnaker Software Corporation、SoftKey Software Products Inc.という3社が合併。合併後の社名はSoftKey International Inc.となる。先に少し触れたWordStar for Windows 2.0は、このSoftKey Internationalからの発売となった。
ただこれで旧MicroProの製品ラインの開発は事実上終息する。WordStar for Windows Version 2.0は開発が90%終わった段階で一度プロジェクトが止まり、これ以上の開発はしないという条件で再開したというものだった。
そしてこのWordStar関連の資産一式は、Corel Corporationに売却されてしまう。当時Corelは自社でOffice Suiteを提供する予定で、そこでWordStarの資産を生かそうと考えたのだが、このプランはその後中止され、WordStarの資産は宙に浮いたままとなる。
Corelはこの資産を1997年にXoomというスタートアップ会社(主要メンバーはもともとWordStar International/SoftKey Internationalのエンジニアだった模様)に売却。これをベースにXoom Word Proという製品をリリースするものの、この時点でまだWin16ベース(!)だったことが致命的で、結局同社もWordStarの資産の再利用を放棄する。
SoftKeyもその後紆余曲折があるのだが、もうこのあたりになるとオリジナルのMicroProと全然違う話になるので今回は割愛する。なんというか、1984年の新規株式公開がすべての失敗の原因だった、としか言いようがない。それに輪をかけたのがWordStar 2000だったというあたりだろうか。
ちなみに前回紹介した“In Search of Stupidity: Over Twenty Years of High Tech Marketing Disasters”の第4章がまさにWordStarの話を取り扱っている。
サブタイトルは“POSITIONING PUZZLERS”で、扉のイラストはWordStarとWordStar 2000がお互いの頭に銃を向け合ってる光景を、WordやDisplay Writer、MultiMate、WordPerfectが笑っているというもの。
その笑っているソフトたちに対してWordStar達が言い放ってる言葉が“WHAR ARE YOU LAUGHING AT? YOU'RE NEXT”(なに笑ってるんだよ? 次はお前らの番だぞ)というあたりがなんとも。これも結局のところ、マネジメントの問題だったということだろう。
この連載の記事
-
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ