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さくらの熱量チャレンジ 第16回

”ピン”のDBとインフラで組みあげた「さくらのセールスアナリシス」の舞台裏

月額2万円で国産インメモリDB採用の高速BIを提供するさくらとアストロ数理

2017年05月22日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

提供: さくらインターネット

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さくらインターネットとアストロ数理ホールディングス(以下、アストロ数理)は、大規模な売り上げデータを高速に分析できる「さくらのセールスアナリシス powered by アストロ数理ホールディングス」を4月6日に開始した。パートナーとSaaSの拡充を進めるさくらインターネットとアルゴリズムのプロであるアストロ数理に今回の協業について聞いた。

月額2万円で始められるハイパフォーマンスなBIサービス

 さくらのセールスアナリシス powered by アストロ数理ホールディングス(以下、さくらのセールスアナリシス)は、店舗やPOSから集計される売り上げデータをインメモリDBで高速に分析するいわゆるBI(Business Intelligence)サービスになる。さくらのクラウド上にシステムは実装されているので、コントロールパネルからインスタンスを立ち上げ、さくらのセールスアナリシスにログイン。データをアップロードすれば、簡単にクロス集計やトレンド分析が可能になる。最大1000万レコードのプランでも月額2万円ということで、とにかく導入の敷居の低い思い切ったサービスに仕上がっている。

さまざまな販売情報を分析で使えるさくらのセールスアナリシス

 このサービスのコアとなるインメモリDBを開発しているのが、今回さくらインターネットと協業したアストロ数理ホールディングスだ。同社は2012年設立のコンサルティング会社であるアストロラボと、40年近い歴史を持つ老舗の開発会社である数理技研、運用管理・保守を手がけるINDEXの3つの会社のホールディング会社にあたる。

 両社が手を組むことになったのは、中堅中小企業への市場開拓を目指すアストロ数理と、他社との協業でSaaSを提供するXaaS(X as a Service)の取り組みを推進するさくらインターネットとの意図が一致したからにほかならない。このアライアンスを中心になって進めたのが、アストロ数理ホールディングス代表取締役社長の日下ヤスユキ氏と、さくらインターネット フェローの小笠原治氏の2人になる。

 2人の関係は簡単に言えば呑み友達。日下氏は、「当時、小笠原さんはawabarをまだ始めてなかった頃。呑みながら、なにやっている人なんだろうなあと思ってました」と振り返る。一方の小笠原氏は、「僕にとって日下さんはWebサービスのイメージが強い」と語る。両社の連携を語る前に、まずは日下氏が今に至るまでの経歴と、アストロ数理ホールディングスの事業について見ていこう。

コンサル畑出身の日下氏を変えた2つの出会い

 アストロラボを立ち上げ、現在はアストロ数理ホールディングスの代表を務めている日下氏は、外資系コンサルティング会社の出身。「要件定義、BPR、ベンダー選定、システム構築という流れになるのですが、業務のほとんどが提案ばかり。なんだか、自分で新しいサービスを立ち上げたいと思いました」ということで、自らWebサービス会社を立ち上げ、3年間で月間400万ユーザーの規模にまで成長させる。

アストロ数理ホールディングス 代表取締役社長 日下ヤスユキ氏

 その後、事業売却を経た後、久保信介氏(現、アストロ数理ホールディングス 取締役CDO)との出会いを経て、アストロラボを立ち上げる。日下氏は、「Webサービスやってたとき、僕が一番苦しんでたのがUX設計。その点、東京藝大出身の久保は、人を動かすデザインがしたいと、インターンで入ったオン・ザ・エッジ(現LINE)時代からUXを追求してきた人間。僕が企画をして、彼がUXを組み立てるという形で、受託開発をやっていたんです」と振り返る。その後、コンサル出身の日下氏が企画、デザイナーの久保氏が、アストロ・ラボでの受託案件の開発を数理技研に依頼することになった。久保氏との出会いに続き、この数理技研との出会いも、日下氏にとっては大きなターニングポイントだったという。

 1979年創業の数理技研は人工衛星の軌道制御やロケットの構造解析などを行なう宇宙工学や、原子力分野のプラズマシミュレーションからスタートした開発会社。いわば筋金入りのエンジニア企業だ。「1980年頃、ハレー彗星が到来するにあたって、軌道観測する仕事を請け負うべく、東京大学の理系学生同士で立ち上げたのが数理技研。計算プログラムを書くのに当たって、OSの構造がわからないと困ると言うことで、日本企業ではかなり早い段階でAT&TからUNIXのソースコードを買った会社です」(日下氏)。

 現在、同社は信用リスクを解析する金融工学や自動車産業向けの構造解析、製造業の生産管理の最適化問題などの科学技術系のみならず、グリッドコンピューティングや移動体通信、メッセージング・ミドルウェア、流通や金融などの民需案件にシフトしている。とはいえ、「新人研修ではLinuxのソースコードを読むところから始めるし、50代以上の技術者でもスーパーコンピューターのグリッドのファイリングシステムや、新幹線で通信が切れないようにする通信制御を作っていたりします」とのことで、今もまだ尖り続けている。

Core Saverで基幹システムを作ってみたかった

 今回さくらのサービスで利用しているインメモリDB「Core Saver」も、もともとは1990年代に大手通信事業者の受託開発で手がけたものをベースとする。「発注当時、アナログ専用線の障害対策を予測するシミュレーションは百何十時間以上かかっていたそうです。それを1時間以内まで短縮するため、1990年に作ったのがUNIXの最高パフォーマンスを出せるインメモリDB。当時はメモリも1MBで100万円以上していたので、お客様は限られますが、とにかく圧倒的な性能を実現していました」(日下氏)という。

 一般的なデータベース(DBMS)の場合、インデックスなしに検索やテーブルの結合を行なうと性能が劣化するため、バッチ処理を挟むことが多い。しかし、こうするとバッチの方に処理をとられてしまうほか、バッチ自体の機能開発や中間データのメンテナンスにも手間がかかることになる。これに対してCoreServerはバッチ処理や中間データも不要で、インデックスなしのフルスキャンでも、1億レコードを1秒で集計してしまう。そのため、投入されたデータはただちに参照でき、リアルタイムで演算処理が可能だ。

 そんなCore Saverについて日下氏は、「基本的には生データを大福帳のように保持し、業務システムが直接見ているだけなんです。だから、集計データはなく、マスタとトランザクションのデータしか持っていません。データは1箇所にあるだけで、他のシステムもそれを参照します。こうなると普通は遅くなるのですが、インメモリDBなので性能が劣化しない。機能追加もめちゃくちゃ簡単で、僕らからすると要件定義の手間がないんです」と説明する。

 日下氏がCore Saverに出会ったのは、コンサル時代の12年前。当時クライアントだった商業施設のデータ分析は24時間以上かかっていたため、これを高速化できるインメモリDBとしてこのCore Saverに行き着いた。「当時で1000万レコードが1秒です。CPUとメモリが高速化している今では、同じ機構にもかかわらず、1億レコードでも1秒で済みます。これで基幹システムを作ってみたいというのが、僕の10年来の夢だったんです」と日下氏は語る。そして、この夢はアストロラボと数理技研の事業統合という形で奇しくもかなうことになる。

高嶺の花だったBIを「安く」「速く」「簡単に」

 そんな話を久しぶりに出会った日下氏に聞いた小笠原氏は、さっそくアライアンスの話を持ちかける。「さくらのインフラにアプリケーションとサービスを載せて、SaaS化するというアライアンスの取り組みを進めているので、日下さんに載せません?と提案したんです」(小笠原氏)。これを日下氏も快諾し、昨年からサービス化がスタートしたわけだ。今までさくらはネットワーク、ストレージ、プロセッシングの3軸でコンピューティングを提供してきた。しかし、今後は他社のサービスやアプリケーションを加えた4軸で、価値を提供していきたいという。こうした戦略の1つが今回のアストロ数理との協業だ。

さくらインターネット フェロー 小笠原治氏

 サービスのコモディティ化を進めるアストロ数理としても、今回の協業は大きい。日下氏は、「僕らはやはり大量データの処理に強みを持っているのですが、今までは数億件のデータを扱う大企業や特殊環境にしか提供してこなかった。もちろん、いろんなお客様に使ってもらいたいのですが、営業のリソースも足りないし、毎回要件定義するのは難かった。でも、さくらのセールスアナリシスであれば、中小規模の方でも使っていただける」と語る。今までコスト的に見合わなかったお客様を開拓できる武器として、さくらのセールズアナリシスが位置づけられるという。

 両社が狙うのは、圧倒的な価格、性能、使いやすさを備えることでBIの民主化を実現することだ。1990年台からBIツールは戦略分析の切り札としてもてはやされてきたが、性能面のボトルネックに悩まされてきたのも事実だ。「2000年当時、業務コンサルやっていて、いろんなところでBIツールを入れてきましたけど、本当にレスポンスが返ってこなかった。今となってはお客様に申し訳ない気持ちでいっぱいですけど、当時のスペックではどうしようもない限界だったんです」と日下氏は語る。

 その点、最高のインフラとツールを具備し、圧倒的に低廉な価格で利用できるさくらのセールスアナリシスであれば、その言葉にリアリティがある。潤沢なリソースを持つさくらのクラウドでまさにその真価を発揮する。リソースが確保できなかった20年前からキンキンにチューニングされたCore Saverがバックエンドで動いているため、処理は超高速。「当たり前に使ってもらうためには、根本であるデータベースの速さが重要」(小笠原氏)。実際、2億5000万件のクロス集計が目の前であっという間にグラフ化されるのは圧巻の一言だ。今後はiPad系のPOSを展開しているところと提携し、データ投入をシームレスに、リアルタイムで使えるようにしたいという。

勢いだけの小売り事業者・飲食店をデータドリブンな世界に導きたい

 両社はさくらのセールスアナリシスでどこまでの民主化を目指すのか。小笠原氏は、極端な話、数店舗を抱える飲食店のオーナーが使うくらいのレベルを目指すという。「私もawabarというスタンディングバーを経営していますが、本当は1店舗からでもこういう分析やったほうがいいんですよ。理想は1店舗からできるくらいの価格にしたいですけど、月々2万円で10店舗、過去3年間のデータの売り上げ分析をできるんだったら、まあお安いですよね。飲食店オーナーとしては、データドリブンに持って行って、都市伝説的な回転率崇拝を打破していきたいなと思いますよね(笑)」と小笠原氏は語る。

レシートから手軽にデータ分析できるさくらのセールスアナリシス

 日下氏は想定ターゲットを「今までのBIツールでは費用対効果が見合わなかったような年商10~100億円くらいの小売事業者、10~20店舗を抱える飲食店」と見積もる。データ分析ではなく、勢いでビジネスを伸ばしてきた事業者。彼らをデータドリブンな世界に導き、最終的に日本の国力を上げたいというのが日下氏の野望だ。

 ビジネスに直接価値を生み出すデータ分析の分野は、多くのクラウド事業者もサービス拡充をしている最中。「個人的にはIoTの分野も見ているので、データを分析する人がどんどん増えていくというのは見えているんです。レベル感としてはC++とかじゃなく、JavaScript書けるくらいのエンジニアが手軽にデータ分析できる環境を提供したい」と小笠原氏は語る。一方の日下氏は、データ分析の価値を再認識してもらいたいと訴える。「今はIoTでビッグデータが集まって、そこから一気にAIにまで話が飛んでしまう(笑)。個人的には、AIに飛ぶ前にやることがあると気づく時代がそろそろ来ると思っています」と語る。

 売り上げ分析を提供するさくらのセールスアナリシスからスタートし、今後はデータ収集に役立つようなセンサーの投入まで手がけたいというのが、小笠原氏のもくろみだ。会計レスを実現したAmazon Goのような店舗が登場した現在では、この話は決して絵に描いた餅とは思えない。「先日、コンビニ大手が店舗の無人化計画を発表しましたので、これで商品のRFID化が進みます。裏を返すと、コンビニじゃないところも恩恵を受けられると思うんですよ。そうなると、今まで受発注や在庫、販売などの管理をシステム化してこなかったところも、導入が進むはずです。そこをクラウドで担って、データ分析できるようになったらいいなと思いますね」(日下氏)。

(提供:さくらインターネット)

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