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特別企画@プログラミング+第21回

国内外から約60名の登壇者が集結。多分野からの視点がはげしく交錯した国際シンポジウムの様子をお届け。

総務省主催『AIネットワーク社会推進フォーラム』レポート

2017年05月03日 00時00分更新

文● 窪木 淳子、編集● 杉本 敏則

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 人工知能 (AI: Artificial Intelligence) をテーマにした国際シンポジウムが、3月13日(月)と14日(火)に東京で開催された(会場は東京大学 伊藤謝恩ホール)。この2日間にわたる総務省主催の『AIネットワーク社会推進フォーラム』は、国内外から約60名の登壇者を招聘した大規模で密度の濃いものだった。

 講演者・登壇者には、国内からは総務省が開催している『AIネットワーク社会推進会議』メンバーが各分野から集まったほか、海外からは2017年1月にAppleの加盟も話題になった、世界の主要IT企業が名を連ねる研究団体『Partnership on AI』の評議会暫定議長や、OECD(経済協力開発機構)事務次長、Googleの主席研究員、イーロン・マスク氏やスティーブン・ホーキング博士が顧問を務めることでも知られる、AIや核兵器、バイオテクノロジーがもたらすリスク低減などについて研究を行う『FLI (Future of Life Institute)』の共同創設者などが参加。官民問わず多分野のエキスパートたちが文字通り世界中から集結した。その様子をレポートする。

"AIネットワーク"という言葉が意味するところ

 レポートの紹介を始める前に、そもそも、シンポジウムの名に掲げられている“AIネットワーク”という表現の意味だが、この言葉が意図する社会像をイメージするのはまだ難しいように思われる。本シンポジウム開催に関する報道資料によると、これは、近い将来、AIが発達することにより、AIが他のAIや情報システムなどと連携、ネットワーク化されていく社会を指している。その社会では、利便性が飛躍的に増大すると同時に、現在想定される以上のリスクが広範囲に波及してしまうことが考えられる。

 このAIネットワーク化によって、社会・経済にもたらされる影響やリスクを現段階から事前に検討、その課題を整理して、よりよい施策を国際的に展開していこうとするのが、総務省が開催している『AIネットワーク社会推進会議』の目的だ。

 こうした動きは、先進各国で同時に出現していて、国際協調の可能性や必要性を議論するために、今回のシンポジウムも開催されている。日本としては、総務省情報通信政策研究所が、昨年2月から6月まで『AIネットワーク化検討会議』を開催して、基礎的な評価や検討課題の整理を進めてきた。同年4月には、G7香川・高松情報通信大臣会合において、高市総務大臣が『AI開発原則』の策定に向けて、G7やOECD等において国際的な議論を進めるよう提案、参加各国から賛同を得ている。そして同年10月には『AIネットワーク社会推進会議』が立ち上げられ、『AI開発原則』の内容を具体化した『AI開発ガイドライン』の策定に向け、AIの活用の場面を想定してのより具体的な検討が進められているところだ。

『AIネットワーク社会推進会議』議長である須藤修氏による開会の辞

 プログラムの最初は、『AIネットワーク社会推進会議』議長である須藤修氏(東京大学大学院情報学環教授・東京大学総合教育研究センター長)の開会の辞から始まった。

須藤修氏(推進会議長、東京大学大学院情報学環教授・東京大学総合教育研究センター長)

須藤氏 「AIに関する研究開発の動向は、急速に発展している。AIの研究は古くから行われており、かつての第2次AIブームを基盤に、現在の第3次AIブームではクラウドコンピューティングによって大きな計算力をつかんだ。また、インターネットによってグローバルな広がりを見せている。したがってAIを社会のインフラとして考えなくてはならなくなっている。AIのR&D(研究開発)、イノベーション、安心・安全をベースにした利活用についてのコンセンサスを形成、国際的な発展を考えていくことは極めて重要である」

 シンポジウムの主旨が語られた後、議論が国際的に活発化している状況が説明された。各国の主要な動向をまとめると、以下のようになる。

AI(人工知能)にまつわる議論・各国の主要な動向

国際機関・政府関連

団体

日本

 須藤氏は、「人間とAIネットワークは共生していくことになるが、それは人間社会に資するものでなければならない。またこれは、当然ながら国内に留まるものではなく、国境を越えてグローバルに、国際的な協調によって作られる体制のもとで検討、議論されるものとなっていく。この検討と議論に必要なのは、人間の“包摂”、国境や立場を越えた多くの人々、研究開発者、企業、団体、行政、政府、一般市民などの参加により、ネットワーク化されたAIのシステムを発展させていくことだ。誰もが安心して利活用できる状況を、国際的な枠組みで形成していくための体制をこのシンポジウムで議論したい」と述べた。

 また、議論の起点としては、次の点が特に強調された。

イノベーティブな研究開発および公正な競争を確保する観点から、AIネットワーク化のガバナンスは、一般に、技術的特性およびステークホルダー(開発者、ブロバイダー、最終利用者、第三者)間の責任分担を勘案して、非規制的かつ非拘束的なものとすべき。

 そして、「あくまでも非規制的で、非拘束的なガバナンスのうえで、望ましい発展の方法を利用者も含めてフレームワーク作りしていく。そのために、こうした国際会議を繰り返し、コンセンサスを取っていく努力を続けていく」と、開会は宣言された。

特別講演『AIネットワーク化と智連社会』

濱田純一氏(推進会議顧問、東京大学名誉教授/前・東京大学総長)

 プログラムの2番目は、推進会議顧問の濱田純一氏(東京大学名誉教授)による『AIネットワーク化と智連社会』と題した特別講演。東大ロボットプロジェクトの紹介と、『AIネットワーク化検討会議 報告書2016』より、コミュニティの再活性化によって“智の連携と強調”をはかる“智連社会(WINS)”の概念紹介があった。

特別遠隔講演『AIの人間及び社会への影響』

 続く3番目は、Partnership on AI評議員会暫定議長のエリック・ホロヴィッツ氏(Microsoftフェロー)による講演。Amazon、Google(ディープマインド)、Facebook、IBM、MicrosoftがAI研究と開発のために結成した非営利団体Partnership on AIは、今もっとも動向が注目される組織だ。

エリック・ホロヴィッツ氏(Partnership on AI評議員会暫定議長、米国マイクロソフト・コーポレーション技術フェロー、元・米国人工知能学会長)

 Skypeによる遠隔で実施された講演では、まず、Partnership on AIの3つの目標(ベストプラクティスのサポート、理解の促進、議論と参画のためのオープンプラットフォームの創出)などが解説された。また、サイバーセキュリティーの専門家や政策関係者ら40名が、攻撃チーム(赤チーム)と守備チーム(青チーム)に分かれ、有害なAIを想定しての対処法を議論したワークショップの様子などが報告された。

 Partnership on AIの評議員会は定期的に開催され、報告書が出されていく予定で、議論の柱としては、次のようなことが挙がっている。

  1. AI開発における安全性
    • たとえば医療や交通。安全性のためにステップを踏みながら、最適な事例を構築していかなくてはならない。
  2. 公正で説明責任や透明性があるAI
    • 差別やバイアスがないか、また機械学習におけるデータは最新であるかなどを含め、公平で平等なAIを目指していかなくてはならない。
  3. 人間とAIシステムの連携
    • 人間とAIの協調はあくまでスムーズでなくてはならない。
  4. 労働および経済への影響
    • AIのよって雇用が失われる可能性、AIの振興によって生まれる巨富、格差の是正と富の分配は大きなテーマである。
  5. 社会への広範な影響
    • 人々に対する影響も、犯罪性のあるものも含めて、大きなものとなっていくことを考慮しなければならない。
  6. 社会的な善のために
    • AIのプロジェクトやプログラムは創造や熱意に作用するようにものでなければならない。
  7. 特別な取り組み
    • 上記以外の特別なプロジェクト。特にデータの扱いや研究開発側面における課題解決など。

 国際的な協調については、「日本、中国、EUの企業のパートナー加入も、おそらく近々あるだろう。日本のパートナーにはロボティクス分野やIoTにおいてリーダーシップを発揮してもらいたい」と述べた。

基調講演『人工知能の未来に備えて』

エドワード・フェルテン氏(前・ホワイトハウス科学技術政策局CTO補佐官、プリンストン大学教授)

 次の登壇者も海外からで、前・ホワイトハウス科学技術政策局CTO補佐官であるエドワード・フェルテン氏(プリンストン大学教授)。オバマ政権時にホワイトハウスが公開した報告書『人工知能の未来に備えて』『AI、自動化および経済』についての報告がなされた。

 以下、1日目の政策関係の講演から、トピックスをまとめておこう。

講演『AIが提起する公共政策的考察』

 経済協力開発機構(OECD)の事務次長のダグラス・フランツ氏は、ビデオで講演。来日中の科学技術イノベーション局デジタル経済政策課長のアン・カブラン氏が、昨年11月にOECDパリ本部で行われた『技術予測フォーラム2016』を中心に報告をした。

ダグラス・フランツ氏(経済協力開発機構 事務次長)アン・カブラン氏(経済協力開発機構 科学技術イノベーション局デジタル経済政策課長)

 ダグラス・フランツ氏によると、「これまでは、例えば核兵器のリスクに関しては核拡散防止条約が締結され、原子力の平和利用が実施されてきた。AIのメリットを享受し悪用を制限するためには、国際条約が必要になっていくだろう。そのための枠組み作りを進めている」とのこと。国際機関であるOECDとしては、AIについても、核拡散防止条約、あるいは地球温暖化対策としての気候変動枠組条約のような国際条約を想定して動いている様子がうかがえた。

講演『AI・スマートロボットの開発及び利用に関する原則とルール』

ロバート・ブレイ氏(欧州議会法務委員会 事務局課長)

 EUからは、欧州議会法務委員会事務局課長のロバート・ブレイ氏。欧州議会では『ロボティクスに関する民事法的規制について委員会への勧告』(2017年2月)が行われている。これはロボティクス、AIに関するガイドライン策定に向けてのリサーチを提案したもの。欧州議会には、法務委員会において『ロボティクスと人工知能に関するワーキング・グループ』が設置されている。欧州議会としては、「国家単位ではなくEU全体、国際的な標準化の必要性を感じている」という。

イタリア経済財政大臣特別メッセージ『AIの機会に関する共通理解の形成に向けたG7の取組』

 今年のG7議長国であるイタリアからは、経済財政大臣顧問のベネデッタ・アレーゼ・ルチーニ氏が来日。経済財政大臣からの特別メッセージを伝えた。主要国首脳会議(イタリア・タオルミーナ、5月下旬)に併せて、2017年のG7情報通信大臣会合もイタリア・トリノで開催されることになっている。

講演『AIネットワーク時代を迎える国際社会の取組』

ウォンキ・ミン氏(経済協力開発機構 デジタル経済政策委員会議長、大韓民国未来創造科学部企画調整室長)

 OECDのデジタル経済政策委員会議長で、大韓民国未来創造科学部企画調整室長のウォンキ・ミン氏は、OECDの動きに加えて、韓国のAI開発状況と検討状況を報告した。

(次ページ、1日目のAI開発・情報工学研究者による講演/パネルディスカッション、2日目のレポートにつづく)

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