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特別企画@プログラミング+ 第48回

Quoraムック発売記念連載 「コロナ後の世界をどう生きるか」第2回

大混乱なのに株価はほぼ最高額のアメリカ。混迷の時代を書き残そう。

2020年06月05日 09時00分更新

文● Kenn Ejima

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 いま、この原稿を執筆している時点(6月2日)で、アメリカでは大変なことが起きています。

 「夜間外出禁止令」の「Curfew」は、もともとは古フランス語で「火を覆う」を意味し、消灯令の鐘が鳴れば明かりや火を消し、木造の住居区へ火事が広がらないようにと、イギリス王室の開祖であるウィリアム征服王によって定められた法でした。

 そんな法が、いま全米の25都市で施行されています。そのなかにはQuora本社のあるシリコンバレーやニューヨークなどの主要都市も含まれています。そしてこれは、新型コロナ対策の屋内退避命令とはまったく別の理由により、行われているのです。

Quoraには世界中で起こっていることが回答としてリアルタイムでアップされている

BLM(ブラック・ライヴズ・マター)という運動が再燃

 ことの発端は、ミネソタ州ミネアポリスで警官が黒人を取り押さえるときに首を膝で押さえつけ、呼吸ができないという訴えを無視して窒息死させてしまった事件から、白人警官による黒人への暴力や殺害など犯罪者に対する不平等な取り扱いへの不満を訴えるBLM(ブラック・ライヴズ・マター)という運動が再燃し、一気に全米へと飛び火しました。

 そしてコロナの感染拡大からわずか2カ月半で4000万人が職を失ったアメリカ(5月末時点)の国民の怒りが爆発し、正義をもとめる抗議活動から略奪や放火といった無秩序な暴動へと急展開していきました。

 武器をもった殺人鬼が外を歩いているときには、自宅に引きこもり、明かりを消して息を潜め、気配を消しておくことが身を守ることにつながります。そのような法令を出動せねばならないほど、いまアメリカで起きている暴動は差し迫った脅威となっています。

 トランプ大統領はといえば、「ゴロツキには軍隊を送る。略奪が始まったら発砲が始まる」と、自国民に向けての武力行使をほのめかしました。これは1967年の公民権運動に対して残酷な強攻策を示唆したマイアミ市警と同じセリフで、ツイッターに「暴力賛美」という規定違反の警告をつけられました。

「暴力賛美」とされた、トランプ大領領のツイート

 大統領は、そのことに対する露骨な報復措置としてツイッターなどのネット企業に付与されている権利をとりあげるという大統領令に署名し、ついでにANTIFAという極左勢力を「テロ組織として指定する」と、これまた特定の自国民を封殺する違憲のおそれのある発言をし、混乱をますます助長しています。

 さらには、WHOからの脱退、香港への優遇措置の停止を含む、徹底した中国への攻撃と強硬な外交。新型コロナでは世界最大の犠牲者を出したアメリカですが、それすら忘れてしまうほどの大混乱がリアルタイムで進行しています。

『Quora 世界最大級の知識共有プラットフォーム』には、コロナウイルスの影響やWHOに関するQ&Aも掲載している(同書より)

ギャップが広がる世界で高まる質問の価値

 ところがダウ平均株価は3月下旬に底値をつけたあと、急速に盛り返し、史上最高額まであと一歩というところまで来ています。これだけ消費と経済の基礎体力が落ちているところに、CARES ActやHEROES Actといった補償の「打ち出の小槌」を振りつづけ、FRB(連邦準備制度理事会)にはジャンク債まで買わせ、カンフル剤を浴びるようにガブ飲みすることで、重傷だったはずの経済はゾンビのように起き上がりました。実態経済に対する消費者感覚とのズレは拡大し、投資家とそれ以外の人たちとの格差は埋まりそうもありません。

 アメリカの世相と、緊急事態宣言も解除されて、落ち着きを取り戻しつつある平和な日本とのギャップは大きく、新型コロナのパンデミックで一体になったかに思えた世界は、ふたたび別々の道を歩み始めました。

 そんな激動の時代、不可解なことに満ちていると思いませんか? 頭に浮かぶのはクエスチョンにつぐクエスチョンです。

 知らない言葉、知らない概念、知らない世の中のメカニズム。それらを理解するのに、かつてならば学術書を紐解く必要がありました。

 それがインターネットの時代になり、好奇心のおもむくままに検索すれば、専門的な情報も手に入るようになりました。しかし、前提知識を持たない人にとっては、そうした専門的な情報というのは外国語のようなものです。声に出して読むことはできても、意味はわからないのです。

 そういうとき、QuoraのようなQ&A形式のプラットフォームが役に立ちます。わからないことを質問することで、専門家、あるいは「教えるのが上手な玄人はだし」が、わかりやすい言葉に翻訳してくれます。さらにはコメント欄でさらに細かいところまで突っ込んだ議論を行い、理解を深めることもできます。

 いま、この時代、この瞬間、リアルタイムで見聞きし、考えたことを、記憶の生々しいうちに書き残しておくことには、未来の人たちにとって人類学的な資料価値を持ちます。それを風化させないためにも、質問や回答という形を通じて思考の履歴を残しておくのは、誰にでも始められる社会貢献のひとつの形といえるかもしれません。
 

Kenn Ejima

ソフトウェアエンジニア。香川県生まれ。小学生時代よりBASICおよびアセンブラでパソコンゲームを開発。京都大学工学部卒業。シリコンバレーやニューヨークで起業したのち帰国。現在、Quoraエバンジェリストとして日本進出を担当。

Quora: Kenn Ejima / Twitter:@kenn / GitHub:@kenn

『Quora 世界最大級の知識共有プラットホーム-ビジネスと人生の課題をすべて解決する-』

24カ国、月間3億人が利用し、質の高い知識が集まるQuora。本書はその膨大な情報の中から、オバマ元大統領やポール・クルーグマン(ノーベル賞受賞エコノミスト)といった著名人のQ&A、若い創業者が起こす間違い、一流シェフと超一流シェフの違いなど、示唆に富むQ&Aを厳選してジャンル別に111本掲載。ビジネスと人生に役立つヒントがきっと見つかります。

・発行: 株式会社角川アスキー総合研究所
・発売: 株式会社KADOKAWA
・定価:1,650円(本体1,500円+税)
・発売日:2020年5月21日/電子版2020年5月28日
・判型:A4変形判
・商品形態:ムック/電子版
・総ページ数:144ページ
・ご購入はこちらまで

〈主な内容〉
・野口悠紀雄氏インタビュー「“いい質問”の重要性」 
・Quoraの高品質を支える4つの要素  
・アダム・ディアンジェロQuora CEOインタビュー「知の共有と、テクノロジーの進化」 
・「まつもとゆきひろさん、Quoraをどんなふうに使っていますか?」
・Quoraの教科書:ユーザー登録の方法、回答の評価、質問のフォロー、スペースの使い方、統計のチェックなど
・Quoraからピックアップ 111のQ&A:ビジネス/起業、デザイン、エンタメ/旅行、グローバル/日本、マーケティング、世界はどう変わるか、環境/科学、人間関係/人生、テクノロジー、経済/働き方、人材/教育


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