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IDFのインテルはVRやIoTについての取り組みを公開

2016年08月19日 09時00分更新

文● 塩田紳二 編集●ASCII編集部

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インテルが発表した「Project Alloy」。PC同等の機能を内蔵するHMDで、RealSenseで位置や向きを推定することができるため、外部にセンサーが不要になる

 8月16日、インテルは米国サンフランシスコ市で開発者向けのイベントIntel Developer Forum(IDF)を開催した。初日最初には、同社CEOのブライアン・クルザニッチ氏の基調講演が行なわれている。

基調講演を行なったインテル社CEOのブライアン・クルザニッチ氏

 この基調講演では以下の4つのテーマについて語られた。

今回の基調講演のテーマは4つがあげられた

●Redefinng The Experience of Computing
 コンピューティングの経験を再定義する

●Building a world of visual Intelligence
 視覚的知性の世界を作る

●A Cloud designed for innovation
 イノベーションのためのクラウドデザイン

●Empowering the next generation of innovators
 次世代のイノベーターに活力を提供する

インテルが考えるWindowsベースのVRHMDを公開した

 最初の「Redefinng The Experience of Computing」では、インテルの「マージドリアリティ(Merged Reality)」デバイス「Project Alloy」が紹介されている。これは、コンピュータ一体型のVRデバイスで、リアルセンスカメラを本体正面に装備するVRデバイスだ(記事冒頭の写真)。

 「マージドリアリティ(Merged Reality)」というのは、カメラからの外界映像とコンピュータ映像を「マージ」して表示できるという意味だ。透明なバイザーの上にコンピューター画像を重ねるマイクロソフトのHololensに搭載されているWindows Holographicは、「ミックスドリアリティ(Mixed Reality)」と自称しているが、それに対して、インテルのやり方は「マージド」なのだということなのだろう。

Merged Realityでは、RealSenseカメラから取り込んだ現実画像とコンピュータ画像を組みあわせて表示でき、どちらを表示するかをコンピューター側で判断できるのが特徴

 今のところ一般的に定着した分類があるわけではないが、ヘッドマウントディスプレイ(HMD。Head Mount Display)にコンピューター画像のみを表示するものを「バーチャルリアリティ(Virtual Reality、VR、仮想現実)」と呼ぶのに対して、現実を見せることができるものを「ミックスドリアリティ」とか「マージドリアリティ」といった呼称が使われているようだ。また、VRに対してAR(Augmented Reality、強化現実)という表現もある。

 Project Alloyの特徴は、カメラにRealSenseを使っていて、現実世界をコンピューターが認識できる点だ。これにより、頭部の位置や向きの追跡(ヘッドトラッキング)に、外界の情報を使うことができる。また、RealSenceではカメラから物体までの距離情報を得ることもできるため、物体を認識し、コンピュータ画像と協調して表示させることができる。たとえば、テーブルの上にものがあるように見えるといった表示だ。

 また、内蔵されているプロセッサやグラフィックスはPCクラスのものとされている。簡単にいうとノートPC相当の機能がHMDになっているわけだ。ただし、センサーなどの処理を行なう「コプロセッサー」も内蔵されているという。

 このAlloyは、オープンプラットフォームとして提供される。Alloy自体はあくまでもプロトタイプで、PCと同じくインテルはAlloyと同等のデバイスを開発するための部品や基本的なソフトウェアなどを提供するのだと思われる。その意味でいえばAlloyは新しいPCの形なのだ。

 さらに、基調講演では、マイクロソフトのテリー・マイヤーソン氏(Windows and Devices事業部 代表取締役副社長)が登場。開発者向けのプロトタイプであるHololensとWindows Holographicの説明をした。

基調講演には、マイクロソフトのテリー・マイヤーソン氏も登場。Windows HolographicをメインストリームPCに提供することを発表した

 その後、メインストリームクラスのPCとHMDの組合せに対してHolographicを提供することを発表した。まずは、今年の12月にHolograhicに対応可能なスペックリリース1を発表する。Project Alloyは、この仕様をターゲットにしていて、2017年下期にパートナーへの提供開始を予定しているという。

マイクロソフトによるHolographic実行可能システムのスペック公開が今年12月。インテルのAlloyがパートナーで利用可能になるのは来年後半

 つまり2017年には、一定以上のスペックのPCとHMDの組合せ、あるいはProject Alloyのようにプロセッサと一体型のハードウェアでWindows Holographicが使えるようになる。なお、マイクロソフトが公開したHolographic対応PCは、ガイコツの図案が描かれており、ゲーム用PCを想像させ、とても業務用には見えない。

マイクロソフトが公開したHolographic対応PC。業務用という雰囲気がなく、ゲーム用PCのように見えるのだが?

 マイクロソフトの提唱するMixed Realityでは、実用途以外に、ゲームやエンターティメント的な要素も大きいのかもしれない。あるいは、Windows Holographicの一般向け普及には、こうした分野に重点的にアピールする方向性もうかがわれる。

 この次には、登場が近い「第7世代Coreプロセッサ」の紹介があった(写真08#%7G%#)。といっても、詳細な話はなく、搭載マシンで4Kビデオの再生を見せるといった程度だった。

第7世代Coreプロセッサについて言及があったものの、4Kビデオの再生デモが行われた程度。4Kビデオへの対応が言及された程度で、ほとんど情報公開はなかった

 次の「Building a world of visual Intelligence」では、RealSense関連の製品を発表している。まずは、インテルが今年春に中国で開催したIDFで発表したAero Platform for UAVsを搭載したドローン製品Yuneec Typhoon H dronを紹介、今日IDF会場のIntelショップで購入が可能になったとした。

ドローン用のAero Platform for UAVsは、今年春のIDFで発表され、今回は、これを搭載するドローン製品が出荷されたことを発表

 次に紹介したのは、リアルセンスとAtomプロセッサを搭載し、机や椅子といったオブジェクトを認識する「Euclid」モジュールだ。これは、ロボットの「目」にあたるモジュールで、内部に深層学習を使った物体の認識機能があり、視野正面にある物体がなんであるかを認識することができる。

深層学習による物体認識機能とRealSenseカメラを組みあわせたEuclidモジュール。「ロボットの目」などの用途を想定する

 これをロボットの頭脳にあたるコンピュータとUSB接続することで、部屋の中で物体を認識しつつぶつからないらないように移動。部屋と物体の3次元マップを作ることが可能だ。インテルでは、まずはEuclid Developer Kitという形で提供を行なう。基調講演では、ロボットに接続し、人を認識してそのあとをついていく動作をデモした。

 インテルは、PCやスマートフォンに組み込むためのRealSenseモジュールを販売していくが、今回RealSense Camera 400として大幅に小型化、薄型化した製品も発表した。

小型化、薄型化されたRealSense Camera 400。クルザニッチ氏も薄さを強調

 実は、これまでのRealSense製品は、日本のメーカーには受けが悪かった。というのも、ノートPCが薄型化、軽量化する中で、RealSenseカメラは厚さ方向が大きく、薄くなった液晶側に組み込むのがかなり難しかったからだ。また、こうしたカメラをモジュールとして提供しているのは設計にいろいろとノウハウがあり、独自の要素を出すことができず、同等のものをメーカーが独自に作ることもできなかった。

 またインテルは、自動運転分野への進出も狙っており、すでにBMWと自動運転分野での提携を行っている。基調講演では、BMWの自動運転車が登場、提携の内容などについて説明が行なわれた。

インテルは7月にBMWとの自動運転分野での提携を発表しており、BMWの役員が基調講演に登場

 もっとも最近の自動車メーカーは、現在のところ、提携を拒まずというスタンスで、半導体メーカーやIT関係から「モテモテ」の八方美人状態。必ずしもインテルが一生のパートナーと決まったわけでもない。今後、自動車メーカーが自動運転車やITや半導体ビジネスについての理解がすすめば、明暗がはっきりしてくるだろう。インテルとしては、PCのようにプラットフォームを定義し、さまざまなサードパーティが参入するPC型の市場形成を狙っているようだ。

次世代開発者向けの組み込み用モジュールの新モデルは
大幅な処理性能の向上

 次の「A Cloud designed for innovation」は、IoT関係の話で、GE社の公共IoTなどが紹介された。これは、街路灯に車や人を検出するセンサーを付け、人や車などの動きを継続的に調査し、交通情報などを高精度化するもの。

GEのCurrentでは、街路灯にセンサーを組み込み人や車の動きを検出、スマートシティの実現を目指す

 「Empowering the next generation of innovators」は、雑誌MAKERのイベントなどに参加する「次世代」のハードウェア開発者をターゲットにしたもの。インテルは、すでにGalileo(ガリレオ)、Edison(エディソン)など組み込み用を想定したボードキットなどを製品化している。こうした製品は、組み込み機器開発時の評価ボードという性格もあるが、インテルはMAKERイベントなどの参加者向けをターゲットにプロモーション活動などを行なっている。

 実際、MAKERイベントやあるいはクラウドファウンディングなどから、製品を販売するビジネスを起業した例もある。インテルは、IoTビジネスの立ち上げに、まだ企業化されていない「次世代」の人々もターゲットにしている。

 Galileo、Edisonに続く製品として今回新たに「Joule」(ジュール)を発表した。Jouleは、Atomプロセッサを搭載し、IEEE 802.11acにも対応。Joule 570x、550xの2つのモデルがある。それぞれ64bit対応のAtom T5700、T5500プロセッサを利用し、メインメモリ、ストレージなどもモジュールに内蔵する。

PCに相当する機能をコンパクトにまとめた組み込み用コンピューターモジュールJoule

 このプロセッサはIntel HD GraphicsやカメラインターフェースやUSB 3.0なども内蔵する。無線LANは、802.11ac MIMOに対応するほか、メインメモリは4GB(550xは3GB)、ストレージ16GB(eMMCで550xは8GB)と、ほぼ低価格PC並のスペックを持つ。

 LinuxベースのOSの利用が想定されており、PCで実行するようなアプリケーションを超小型モジュールで実行が可能だ。また、RealSenseの接続も可能で、インテルからライブラリが提供され、物体認識などが可能になる。すでにロボット組み込み、ハイウェイ警察官用ヘルメットディスプレイなどでの採用例があり、マイクロソフトやUbuntuのロボットプラットフォームに対応するほか、Windows IoT Coreも動作するという。

IoTに寄った内容の基調講演
VRも最近になって取り組みを始めた!?

 クルザニッチCEOの時代になり、インテルの経営陣も大きく変わり、数年前のIDFとも違った雰囲気がある。今回の基調講演は、全体として、IoTにかなり寄った内容の基調講演で、インテルの方向転換が見て取れる。

 AlloyでVR分野への進出も狙うが、Oculus(Facebook)、HCTなどが参入済みであり、簡易なものならGoogleのCardboardやスマートフォンを格納するタイプのゴーグルなども数多く出ている。Project Alloyは、来年後半の出荷とされているが、いつものインテルから見ると少し動きが遅いようにも思える。

 外から見る感じ、VRに関してはこれまで準備していた感じがなく、最近立ち上がった方向性のようにも見える。VRにはすでに多くのプレーヤーが参入していることから、Alloyが出る来年後半には、市場もかなり固定化している可能性もある。クルザニッチCEOになりAtom系のプロジェクト中止など、方向転換の行なわれたインテルだが、基調講演で語られたような未来が来るかのかどうか。

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