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麻倉怜士がソニー平井社長をインタビュー

ラスト・ワンインチは、すべてソニーが押さえるべきです

2016年08月12日 09時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●ASCII 写真●神田喜和

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平井さんとの単独インタビューは、2015年のCES以来だ。その時は、あまり業績がはっきりとしない時期だったが、ソニーらしいものづくりに賭ける平井さんの姿勢が印象的だった。今回も話は「新時代のものづくりについて」だ。

平井一夫氏

ソニーが自信を取り戻してきた

麻倉 ソニーは最近、結構、自信を回復してきたたのではないかと、見ています。新しい分野もいろいろと出てきています。液晶テレビのハイ・ダイナミックレンジのバックライトマスタードライブのような新しい技術もしかり、ホームシアターのプロジェクターでは、ハイエンドが登場しました。

平井 フラグシップ系の製品で言うと、LifeSpace UXで出した4Kの超短焦点のプロジェクターがありますね。500万円という価格でした。それから数年が経ちました。当時は事業部からそういう商用企画は出てこなかったので、私のTS事業準備室から出したのですが、次のハイエンドなテレビはSVP(ソニービジュアルプロダクツ)から、直接出します。つまり、事業としてきちんとこういう製品を出していくことになりました。考え方が前向きになったというか、フラッグシップが必要になったのですね。

麻倉 下から順番に製品の品格を上げるボトムアップという考え方がありますが、いまソニーが追求している“高付加価値化”のためには、もっともっと、ハイエンドの製品によって上から全体を引っ張り上げることが必要だと思いますね。

平井 ソニーというブランドには、技術力があり、差異化された商品をすばらしいUIとデザインでお届けするバリューがあります。感性価値と機能価値が合わさったものとなればおのずと、ハイエンドの市場を狙った商品となります。そこで勝負していくのがソニーらしい商品を作っていく原動力になるはずです。

感性を刺激するプロダクトという基本姿勢は変わらない

 2013年のIFAでのハイレゾ発進のインタビューが今でも記憶に鮮明だ。

「やはり、長い間やってきている中で培われた、人の五感にアピールするところの技術力の高さ、音のこだわり、絵に対するこだわり、デザインのこだわりは、他のメーカーさんと比べてもかなり資産があります。ややもすると、埋もれた時代はありましたが、それをうまく新しい商品にもってくるのが、とても重要だと思っています。なんでもかんでもクラウドに持っていけちゃう昨今だからこそ、人間の五感に触れるところは大事にしなければなりません。音の良いヘッドホン、音の良いウォークマン、音の良いスピーカー、絵の良いテレビ、音の良いテレビ……など、音が良い、絵が良い、手触りが気持ち良い、質感・デザインが素敵……などの感覚はクラウドに持っていけません。それこそソニーのDNAそのものです。五感部分を、ソニーがやらないでどうするのか。そこで勝たなくてどうするんですかというこだわりを私は常に持っています。クラウドの時代だからこそ、ソニーは五感を中心にした感動を提案したいです」

 その姿勢は、言い方は変わったが、今でも基本はまったく変っていない。

麻倉怜士氏

麻倉 最近、ぐっときたのは“ラスト・ワンインチ”という言葉です。“ラスト・ワンマイル”という言葉を、かつてよく聞きましたが、“ラスト・ワンインチ”とはどういう概念なのでしょうか?

平井 今までもいろいろな形で、私たちソニーのエレキのビジネスを語ってきました。世の中では、価値がクラウドなどに向かっていると言われる中で、最終的にはお客様に情報を入力してもらうだとか、コンテンツを楽しんでもらうだとか必ず商品=デバイスが必要になるわけですね。どんなにクラウドが進化しようと、クラウドから降ってくる映像をきれいに見たいだとか、音質よく聴きたいといったときには、必ず人間の五感に触れる。これは永遠に変わらないなと思っています。

麻倉 クラウドから直接、脳に届くわけではないですからね。

平井 そうです。テレパシーで届くわけではない。入力する商品、出力する商品……様々な商品が介在するのです。……という言い方は以前からしていました。しかし、説明する相応の時間がかってしまうんですよね。

 商品に価値があるんだという意図を伝えられる、もっとストレートな、いい表現はないかと思っていました。

 ある時、経営方針説明会の打ち合わせをしている際に、急にひらめいたのが“ラスト・ワンインチ”という言葉でした。最初はみんな「う~ん」と考え込んで、次に「……いいかも知れないですね」という反応でした。であれば使ってみようと思ったのが、きっかけです。ラスト・ワンマイルはかつてよく耳にした言葉であり、“ラスト・ワンインチ”も心に残るかもしれないとは思ってはいたのですが、予想以上に反響がありましたね。

コンテンツと人間の最後の接点、それが“ラスト・ワンインチ”

麻倉 ラスト・ワンマイルはかつての通信用語のひとつでした。インフラを整備した後で、個々の家庭にどのように届かせるかということでした。そのメタファーからすると、ラスト・ワンインチは人間とメディアやコンテンツの関わり合いを示すんだという意図が伝わってきますね。

ラスト・ワンインチ

平井 そこがまさにコンテンツと人間の最後の接点です。この最後の1インチはちゃんとソニーがビジネスとして守るし、新しいイノベーションを起こしていくんだ!という強い気持ちを示しているのです。

麻倉 目で見るインチ、耳で聴くインチ。例えばヘッドフォンはまさにそうです。VRもあてはまるでしょう。テレビもきっとそうなるはずです。

平井 テレビについては、離れて視聴しますが、インターフェースであるリモコンがあります。それは人間が触る。声で操作する際にも、テレビに向かってではなくリモコンに向かって話すことになる。これもラスト・ワンインチです。そこはすべてソニーが押さえるべきです。

麻倉 これまでも感動と感性という言葉を使われていましたが、おそらくラスト・ワンインチという言葉も同じことを伝えたいのだと受け取っています。そこに感動がないといけない。となると面白いのはVRとロボットです。VRを体験すると、3Dの映像のときに感じていた不満がすっかりなくなって、画質はそこそこでも世界に取り込まれる感覚がありました。新しいエンターテインメントだし、ソニーに向いた切り口なんじゃないかと思いました。

平井 向いていると思います。そう思ったのは、3Dもそうだったかもしれませんが、ゲームでスタートして、市場にうまく入っていければ、コンテンツの撮影・撮像から編集、記録などすべてのバリューチェーンでビジネスさせていただけます。これはソニーグループとしてとても大きなチャンスだと思います。

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