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日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第20回

リブートの原動力はIoTのワクワク感と指にとまった仲間たち

コミュニティ発のIoTで関西を沸かすJAWS-UG京都の辻さん

2016年04月08日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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停滞していたJAWS-UG京都を仲間と共にリビルドしたAWS Samurai 2015の辻一郎さん。自社で立ち上げたIoTの見える化サービスをコミュニティにも還元し、いまだに未知の存在であるIoTビジネスを具現化する流れを作りたいという。JAWS DAYSの会場でその思いを聞いた。

本連載は、日本のITを変えようとしているAWSのユーザーコミュニティ「JAWS-UG」のメンバーやAWS関係者に、自身の経験やクラウドビジネスへの目覚めを聞き、新しいエンジニア像を描いていきます。連載内では、AWSの普及に尽力した個人に送られる「AWS SAMURAI」という認定制度にちなみ、基本侍の衣装に身を包み、取材に望んでもらっています。過去の記事目次はこちらになります。

塾講師からITエンジニアへ!そして新規事業開発へ

 大学時代は電子情報を専攻して、ソニーのNEWSやワークステーションをばりばり使っていた辻さんだが、コーディングは向いてないなと感じ、社会人になってからは塾講師など、大学時代の専攻とはまったく関係ない職業についていたという。「京都は難関校が多いので、地元の塾で小学校の算数と理科を教えてました」(辻さん)。

 しかし、IT業界への未練があり、20代後半に海外での武者修行を経て、2008年頃にIT業界に舞い戻った。「もともとITは好きだったし、大学時代もITをやってた。地元でSIerに入って、メーカーさんに常駐させてもらい、システムの保守運用をやらせてもらっていた」とのことで、そこからインフラ寄りに近いエンジニアになった。いくつかの会社を経て、現在は大手メーカーのシステムの運用・開発を行なう京都のKYOSOで働いており、辻さん自体は新規開発事業を担当している。

KYOSO主事 ソリューションアーキテクトの辻一郎さん

 辻さんのいる京都は圧倒的にメーカー系が多く、大手と零細の両極端だ。KYOSOでは単なるシステムのお守りだけではなく、システム刷新や最適化の提案も経験できたという。「8ラックくらいある業務システムのサーバーを仮想化で4Uくらいに統合するプロジェクトとか、やってました。予算もつけてもらったし、新しいこともやらせてもらった。その経験が(新規事業開発をやっている)今に活きている感じがしますね」と辻さんは振り返る。

クラウドの便利さは仮想化と次元が違う

 辻さんが初めてAWSに触れたのは、クラウドを使いたいユーザーからのリクエストがあったからだ。さっそく試した辻さんは、自身の仕事もなくなるという危機感を感じたという。「仮想化も相当便利でしたが、クラウドは正直次元が違うと感じた。これはえらいことになると思いました」(辻さん)。

 とはいえ、クラウドでの仮想マシンはルート権限がもらえるくらいで、正直レンタルサーバーやVPSとそれほど変わらないという感想。辻さんにとってむしろ大きかったのは、ロードバランサーが安価に利用できる点だった。「リージョンまたいだ仮想マシンにロードバランシングするなんて、オンプレでやったら、いくらかかんねんという話ですから、この値段で利用できることが衝撃でした」と辻さんは語る。インフラエンジニアとしては、可用性を担保する部分がマネージドサービスで提供されている点にありがたみを感じるという。

 客先への常駐エンジニアから新規事業開発へと異動した辻さん。しかし、社内では「クラウドなんてセキュリティ危なくて使えんだろう」という空気だったため、辻さんのクラウド活動も細々としたものだった。そこで、まずは開発環境やデモ環境をクラウド化し、低廉な価格や使い勝手を認知してもらい、自社のBIサービスや顧客のシステムもクラウドでやるように拡大していった。「最近は、お客様からもAWSでやってくれという指名が多いので、今では基本的にクラウド。オンプレの案件は一切やってないです」(辻さん)というところまで来たという。

 最近、注目しているのはやはりサーバーレス。「現状、Web ScoketなどEC2でないとできないこともまだまだ多いけど、可能な限りEC2は使いたくない。サーバー上でなにか作るというのはある程度標準化されているので、付加価値が出にくい。その点、マネージドサービスであれば、いろいろ組み合わせて、新しい価値が出せる。LambdaがEC2を早く駆逐して欲しいと思います(笑)」と語る。

IoTを手軽に可視化できるIoT.kyotoデビュー

 そして、もう1つ辻さんが大きな興味を持っているのはIoTだ。現在、辻さんがKYOSOで手がけているのが、先日のCloud Days 2016大阪で発表された「IoT.kyoto VIS」になる。IoTデバイスから収集したデータを手軽に可視化できるサービスで、「自分がハンズオンとかで使いたいから作ったというのが大きいです」(辻さん)という。

 サービスは無料で提供し、可視化の先にあるカスタマイズやシステム構築をメインのビジネスに据える。「他社にもこういったサービスはあるんですけど、1分に一度更新とか、わりと粒度が荒い。毎秒1回ずつデータとれたらおもしろいよねということで、サービスを構築した」(辻さん)。

 ストリーミングで流れてくるデータをリアルタイムに解析するため、データストアにはNoSQLのDynamoDBを採用する。ユーザーから提供されたIAMの鍵を元にデータを取得するため、データ自体はKYOSO側で保有しない。DynamoDBからデータを取り出して、わかりやすい可視化のビューを提供する。「2~3日で集まった数十万件のデータをグラフ化するのはSQL系では無理で、DynamoDBでもけっこう難しい。それを可能にするのはやはりノウハウだし、勉強が必要。大変だけどすごいおもしろいですね」と辻さんは語る。

 クラウドが登場して、こうした新規サービスは圧倒的なスピードとコストで実現できるようになったという。「お客様のIoT案件でも、デバイス作って、データを送って、受け取れる容れ物を作って、可視化の画面作るまで2ヶ月足らずでやってる。しかもインフラ側のコストはミニマム構成であれば月数十ドルで済む。このスピード感やコストはオンプレでは絶対無理」(辻さん)とのことで、新規事業の構築にやはりクラウドは向くという感想だ。

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