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国産クラウドのチャレンジ!「IDCFクラウド」徹底解剖 第6回

「ハコモノ」と「ソフト力」でイノベーションを現実に

地元密着型R&Dを手がけるIDCFの大屋氏が福岡で考えたこと

2016年04月20日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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北九州の巨大なデータセンターを抱えるIDCフロンティア。こうした「ハコモノ」や「サービス」のみならず、需要を創出する「ソフト」の面でも新しい試みを進めている。九州に根付いて新規事業やクラウドの利用促進を進める同社の大屋誠氏にも話を聞いた。

地元課題の解決やスタートアップ支援も展開

 IDCフロンティアの九州での活動の先兵になっているのが、R&Dを担っている大屋誠氏だ。福岡出身の大屋氏は、東京のメンバーとIoTプラットフォームの開発を進めると共に、地方で働くという新しいワークスタイルを実践している。「会社の仕組みもR&Dしようという感じ。データセンターは東西にあり、クラウドも西にできた。でも、開発体制自体は東京に寄っているし、東京中心でビジネスや採用が動いている。そんな中、西でも東京レベルの仕事をやりたいと思った。西日本という地域にはけっこうこだわりを持ってやっている」と大屋氏は語る。

IDCフロンティア 技術開発本部 R&D室長 大屋誠氏

 R&D業務とあわせて、IDCFクラウドの認知向上やYahoo! JAPANのmyThingsの利用促進も担当しており、最初の半年はとにかくたくさんの人に会って九州の状況や抱える課題などを聞きまくった。「福岡は私ひとりで、同業他社と同じことをやってもしょうがないので、自分や会社の特徴を生かして行きたいと考えました。そんな中、IoTやクラウドに可能性を感じる方と、企画や試作をともに行ないながら、社会の課題解決やビジネス開発に関わる形ができてきました」と語る大屋氏。具体的にはmyThingsと自作のデバイスをつなげるためのDockerイメージを作り、ハッカソンやmyThings連携のプロトタイプができる仕組みを展開した。 「地元IT企業やスタートアップ、農業や漁業、また福祉関係の方、自治体関係の方など、ほんとたくさんの方と情報を交換してもらいました。 営業マンでもないのに、この時期社内で一番名刺受け取っていたのが私ですね(笑)」(大屋氏)。

 そして、R&Dとともに大屋氏が推進しているのが、CivicTech推進担当として、地域やコミュニティの課題解決にICTを活用する活動の支援活動だ。岐阜県の限界集落でのIoTを活用した課題解決のワークショップを開催したり、福岡市から始めたアカデミックプログラムでは学生向けに無償でのクラウド利用プログラムを開発などしている。「CSR活動と理解されるケースが多いですが、IoTなどの分野が普及するにつれ、いままでITが課題解決に貢献しにくかった分野もビジネスの対象となってきました。地域コミュニティの方との接点は、日本にフォーカスしてビジネスをすすめている当社にとっては大変重要なリサーチ活動でもあるのです」と大屋氏は語る。

 とはいえ、R&Dの室長自体が福岡に来てしまって大丈夫なのかという素朴な疑問もある。これに対して、大屋氏は「ネットワーク会議1つとっても、遠隔の人から不都合を伝えるのはやりにくい。室長自体が地方にいることで、遠隔で仕事をしている人が感じる課題もすぐに対応でき、会社のダイバシティも拡がると思った」と語る。マネジメントが地方で働くことで、ワークスタイルも変わるのではないかという試みのようだ。

福岡は東京と異なる価値を提供してくれる

 北九州と福岡を行ったり来たりするなかで、知り合った企業間でビジネスが生まれたり、IDCフロンティアのパートナーとなるケースも増えてきた。「最初はハッカソンや知人の紹介などがきっかけなんです。みなさんフットワークが軽くて、とにかく一度やってみましょうみたいなやりとりでスピード感を感じます」と大屋氏は語る。

 こうした中、昨年やったのは、北九州市門司区の大手ハンガーメーカーの協力で行なったIoTのハッカソン「ハンガソン」。北九州市の外郭団体の主催で、地元のエンジニアやクリエイターが地元メーカーや大学などとコラボレーションすることで、ハンガーに臭いセンサーを付けてクリーニングに出した方がよい時期を通知するなどユニークな試みができた。「地元企業とIT企業を結びつけるということは特に意識している。北九州というと鉄の街というイメージがあると思いますが、国内有数の釣り具メーカー、ダンボールメーカーなどたくさんある。私自身学ぶことが多い」と大屋氏は語る。

門司で行なったハンガソンの模様

 IoTまで踏まえた新規事業の創出において、福岡は首都圏と異なった価値を提供してくれるという。「以前、人に言われたのは『GoProのような製品は東京では生まれない。あれは、身近に自然があるところだからこそ、生まれたんだ』という話を聞いて納得したことがあります」(大屋氏)。

 一方、北九州の工場地域にほど近い地域に”里山を考える会”というNPOがある。こちらでは急速な発展や公害なども克服してきた地で”里山”のような職住近接が実現できるような工業や暮らしのかたちを考えているという。「とてもユニークで北九州らしいと思いました。北九州はOECDの指定したアジアで唯一のグリーンシティで公害に向き合ってきた知見が世界でも認められています。また、政令市でもっとも高齢化が進んでいて課題意識も強いものを感じます」(大屋氏)。都内では健在化していない課題も地域だからこそチャレンジしやすい課題もあるというのが、大屋氏の論だ。「狩猟免許を持つ奥さんを手伝おうと、 仕掛けた網に獲物がかかった時にアラートを上げるIoTデバイスも趣味で試作したんです。こういう実験が週末にできるのも地域ならではですね」と大屋氏は語る。

 「僕らは、個別のシステムを作るというより、500円クラウドから大手のゲーム会社やエンタープライズまでスケールできる仕組みを作るのが得意。導入が手軽でスケールできるサービスを追求するのは今までと変わらない」と語る大屋氏。こうした規模の経済を求められるクラウドサービスだが、一方で地元ではミニマムな利用にこそ需要があったりする。「地元の開発会社がスモールスタートできるクラウドを使ってもらい、地域課題を解決するというモデルはけっこうあるんです。だから、500円クラウドも、今までと違う角度でも興味を持ってもらいたい」と大屋氏は語る。Webブラウザだけで開発からデプロイ、運用までできるクラウドのメリットを地域課題の解決で活かしてほしいというのが大屋氏の願いだ。

■関連サイト

(提供:IDCフロンティア)

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