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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み ― 第8回

後編 ~レコードの功罪と音楽にまつわるあいまいな値段~

なぜ音楽は売れない――その本質と「お布施」による打開策

2016年01月05日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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この記事は「なぜ音楽は無料が当たり前になってしまったのか」の続きです。合わせてご覧ください。

Photo by Rachel Kramer

レコードの録音時間がポピュラーミュージックを決定づけた

 前回から「音楽はなぜこれほどまでに無料が当たり前になってしまったのか?」という、これまでずっと書かずに避けてきた難題について考察をめぐらせているわけだが、繰り返し述べるように、これはそうたやすく答えが出せるような問題ではない。

 したがって、筆者がおぼろげに感じているいくつかの糸口を提示するにとどまるほかないだろう。しかし、その作業が複雑に絡み合った問題の幾筋かは解きほぐす契機になるのではないかと信じて、今回も論の続きを展開していきたいと思う。

 前回は音楽家(作曲者や演奏家)に対する崇拝の消失を、アナログメディアからデジタルメディアへの転換の際に進行した、楽曲の「全体性」「世界観」の解体とともに論じた(「パッケージ化」から「モジュール化」へ)。

 同時に音楽における制作者と聴取者との関係は、技術の進化の影響を受けながら、かなり劇的に変異するものであると述べた。音楽の生産/消費の様式はその時代その時代における歴史的な産物なのだ。だから、特定の音楽産業の形態が長期に渡って有効性を持ち続けることなどあり得ない。

 今回はまず音楽と技術との関係をもう少し深く掘り下げてみよう。

 前回「テクノロジー(特に録音技術)によって音楽はときに可能性を開かれ、ときに可能性を閉ざされてきた」と書いた。この二律背反というか表裏一体の光の面を指摘すれば、現在のポピュラーミュージックにおける楽曲構成は、SP盤に源流を持つシングルレコードの約3分という技術的制限の中で開発された。イントロがありAメロBメロがあり、さらにAメロBメロを繰り返したあとにサビ、間奏、再び前半部を盛り上げながらリフレインしつつフェードアウト……という一般的なパターンである。

アメリカが誇る稀代のメロディーメーカーであるバート・バカラックの往年のヒット曲を見てみよう。「The Look of Love」(2分42秒)、「I'll Never Fall in Love Again」(3分12秒)、「Alfie」(3分4秒)、「Close to You」(3分15秒)といった具合である。3分前後というシングルレコードの録音時間がいかにポピュラーミュージックの定型に影響を及ぼしていたかがわかる

 私たちはこうしたポピュラーミュージックの構造にあまりにも慣れ親しんでしまったため、“音楽とはこういうものだ”と思い込んでしまっている。だが、現在の記録メディアの多様性、柔軟性、大容量化を考えれば、何も上述した楽曲構成を必ずしも継承しなくてもいいわけである。

 もちろん、現代音楽などのジャンルではこうした目に見えないくびきからの逸脱を目指した音楽も存在する。しかし、多くの音楽はその歴史性=“たまたまそうなってしまった形式”に対してあまりにも無自覚だ。

 結果として、アーティストによって“パッケージ化”された音楽はユーザーによって“モジュール化”され、DJをはじめとするトラックメーカーたちによって現代にふさわしい形態に組み替えられる。もはや音楽ビジネスにおける生産の様態よりも、ユーザーによる改変の様態のほうが時代の気分や要求を確実に反映しているのだ。お察しかもしれないが、それを可能にしたのはデジタルテクノロジーにほかならない。

(次ページでは、『レコード産業が確立した「ジャンル」という名の光と影』)

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