今回のスーパーコンピューターの系譜は、Convex ComputerのCシリーズを解説しよう。
前回のCydra 5の目的は「手頃な価格で入手できる高機能なコンピューター」である。
1980年代前半というのは、数値演算を利用してさまざまな科学技術計算が行なわれ始めた時期にあたる。この分野におけるCRAYの貢献は間違いなく大きく、これまではできなかったような計算ができるようになったことで、急速に需要を喚起した功績は大きい。
その一方で、CRAYは性能も高かったが価格も高かった。CRAY-1の1号機が納入された価格は連載275回で紹介した通り790万ドルで、さらにストレージが100万ドルである。
1980年代といえば、そろそろCRAY X-MPが市場投入されていた時期だが、CRAY X-MPの価格は構成によってかなり変化するとは言え、絶対的に高価格帯である。 例えば1986年における、SCDへのX-MP/48の納入価格は本体だけで1460万ドル(関連リンク)。1985年におけるベル研究所へのX-MP/24の納入価格は本体だけで1050万ドルとされていた。
これをポンと支払える所は必ずしも多くないわけで、結果として「もう少し性能が低くてもいいから安いマシンを」というニーズが急速に高まっていた時期でもある。
Cydra 5はまさしくこうした市場に向けた製品だったわけだが、そこを狙っていたのはCydromeだけではなかった。ということで今回紹介するのは、やはりこの「CRAYのやや下」の市場を狙ったConvex Computerである。
「CRAYのやや下」の市場を狙った
Convex C1シリーズ
当初はParsecという社名で1982年に創業したが、製品出荷前にConvex Computerと名称を改めている。本社はテキサス州リチャードソンに置かれたが、同じテキサス州でもコンピューター企業が後に集中したオースティンからは300Kmほど離れた場所で、やや珍しい。
創業メンバーはBob Paluck氏とSteve Wallach氏で、Paluck氏がCEO、Wallach氏がCTOの役職を担った。
さて、Cydra 5は低価格でかつ高性能を実現するためにハードウェアアーキテクチャーの側を工夫したわけだが、これに比べるとConvexのアーキテクチャーはそれほど凝ってない。Convexの最初の製品であるCの基本的なアーキテクチャーはCRAYと同様のベクトルである。
下の画像は、最初の製品であるC1xxシリーズに利用されたC1コアの概略であるが、基本は32bitの仮想アドレスをサポートした、ごく一般的なプロセッサー構成である。
※画像の出典は、"THE CONVEX C240 ARCHITECTURE"。
スカラー演算ユニットは整数演算、アドレス生成、ロードストア、浮動小数点の加算、乗算、除算/平方根と合計6つのパイプラインが別々に用意される。
これとは別にロードストア、加算、乗除/平方根という3つのベクトルパイプラインが用意されており、演算のメインとなるのはこちらである。
このC1コアをベースとした最初の製品であるConvex C120がリリースされたのは1985年のことである。
ちなみに回路はCMOSベースで動作周波数は10MHzとなっており、演算性能は単精度で40MFLOPS、倍精度で20MFLOPSでしかない。
CRAY-1と比べてもかなり低い(CRAY-1は80MHz動作だった)性能ではあるが、CRAY-1と比較すると、例えばVector Registerの数が倍(CRAY-1は64bit×64個のVector Registerが8群だったが、C1は64bit×128個のVector Registerが8群)、メモリーが最大1GB搭載できる(CRAY-1は16MB、CRAY-1Sでも32MBだった)など、性能を落とさない工夫がいろいろ施されており、実効性能で言うとおおむねCRAY-1の5分の1程度、という評価であった。
→次のページヘ続く (高速化しつつ安価に抑えたConvex C2シリーズ)
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