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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第331回

スーパーコンピューターの系譜 ソフト開発に貢献した幻の超並列機GENESIS

2015年11月23日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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 前回はSUPRENUMを解説したが、このSUPRENUMと期間をオーバーラップさせながら、別の超並列システムの開発がヨーロッパで行なわれていた。

 この開発はEUのESPRIT(European Strategic Program for Research and Development in Information Technology:欧州情報技術研究開発戦略計画)という共同開発プロジェクトが主導していたものだ。

 名前の通りこれは特定の国ではなく、EUそのものの共同研究プロジェクトであり、プロジェクトそのものは1983年に発足、1998年にはIST計画(Information Society Technology)に吸収される。

 ISTはその後2007年にICT(Information and Communication Technology)に名前を変えて、現在も活発に作業を行なっているのだが、こちらの話は置いておく。

SUPRENUM-1の影響を多大に受けた
GENESIS

 ESPRITが1989年から1992年の3年間のプロジェクトとして開発したのが、GENESISである。時期的には、すでにSUPRENUM-1の1号機が稼動している状態であり、ここでさまざまなソフトウェアの移植や性能評価などが行なわれていた状態である。

 それもあって、GENESISのアーキテクチャーや実装にはSUPRENUM-1の影響が大きい。というよりプロジェクトの進行そのものにもSUPRENUMがかなり影響していた。

SUPRENUM-1

 GENESISの3年間の開発プロジェクトでは、初年度にアーキテクチャー設計、2年目にハードウェアとソフトウェア、3年目はソフトウェアのみ(ハードウェア開発は一切なし)というなかなか迅速なものだったが、初年度の開発に関する管理請負業者(Managing Contractor)はなんとSUPRENUM GmbHである。連載330回でも触れた、SUPRENUMの製造・販売を目的とした会社である。

 当たり前の話だが、新規に超並列システムの開発をゼロから始めるとなると、非常に多用多種の決めごとや契約、行なうべき作業が山積みとなる。幸いにもSUPRENUM GmbHはSUPRENUM-1の開発でこうしたことを一通り経験しているため、確かに最適である。

 もっともSUPRENUM GmbHが請け負ったのは初年度だけで、2年目以降はGENESISのプロジェクトリーダーを務めていたUlrich Trottenberg博士が設立したPallas GmbHが契約を引き継いだ。

 正確には、SUPRENUMのプロジェクトで開発されたさまざまなソフトウェアをPallas GmbHが引き継ぎ、これをGENESISに移植する作業を行なったことになる。

 特にSUPRENUMで開発されていた、PARMACSと呼ばれる超並列環境におけるメッセージ伝達機構(超並列を構成するノード間で同期やデータ転送を行なうための仕組み)を移植可能なものに変更し、これをGENESIS上で動かすという作業に関し、Pallas GmbHは大きな役割を果たしたようだ。このあたりが、GENESISがSUPRENUM-1の後継と言われる所以でもある。

 さてそのGENESISである。“The Architecture of the European MIMD Supercomputer GENESIS”という論文によれば、GENESISはCRAY-Y MPあるいはCRAY-2に匹敵するスーパーコンピューターを、超並列を利用して1MFLOPSあたり200ドル以下の価格で構築することにあった。

 同論文の中で、製品カテゴリーを3つに分けているが、GENESISはスーパーコンピューターの市場を狙うシステムとされた。

システムタイプ 性能レンジ 構成
Super Workstation 0.1~0.4GFLOPS 1~4プロセッサー・1ボード・タワーケース
Super CAD System 0.8~6.4GFLOPS 最大16ノードのクラスター・キャビネット
Super Computer 100~400GFLOPS 1024ノード

 もっとも、100GFLOPSを1024ノードとするとノードあたり100MFLOPS、400GFLOPSだと400MFLOPSがそれぞれ必要になる。SUPRENUMはノードあたり20MFLOPSだったので、5~20倍の性能引き上げが必要になる。

 そこでGENESISではインテルのi860とその後継のi870に目をつけた。ちなみにi870というのは当時「予想されていた」名称で実際の製品名ではない。Intel i860は連載116回で取り上げたRISCプロセッサーで、当初リリースされたN10コアのi860XRは25/33MHz動作であった。FPUは同時に2命令を実行できるので、33MHz動作なら66MFLOPSとなり、もう一息である。

 i860の後継であるN11コアは40/50MHz動作になってi860XPとしてリリースされた。i860XPを論文の中ではi870と称していたのだが、これを利用すれば50MHzで理論性能は100MFLOPSなので、1024ノードであれば100GFLOPSを越えることになる。

i860XP。画像はWikimedia Commonsより(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Intel_i860_XP_A80860XP-50_L4190197_top.jpg)

→次のページヘ続く (SUPERNUMを変形させたような構成

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