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“IBMのソーシャルおじさん”に聞いたメールの再定義と導入の顛末

40万のIBM社員をIBM Verseでソーシャル化してきた半年間

2015年10月30日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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IBMのエドワード・R・ブリル氏は、約40万のIBM社員を「IBM Verse」でソーシャル化するというプロジェクトを担当している。「人」中心のユーザーインターフェイス設計で新しいコミュニケーションの形を生み出すIBM Verseの実力と、導入プロジェクトの舞台裏を聞いた。(インタビュアー:TECH.ASCII.jp大谷イビサ 敬称略)

IBM ソーシャルビジネス トランスフォーメーション バイスプレジデント エドワード・R・ブリル氏

人中心のユーザーインターフェイスでメールは使いやすくなる

大谷:まずはブリルさんの現在の役割についてお聞かせください。

ブリル:私が現在担っているのは、IBMでのソーシャルアダプションだ。これはIBM全社で行なっているプロジェクトで、狙いとしてイノベーションを促進することにある。これを実現するため、今年から会社の新しいメールシステムとして、「IBM Verse」を導入するプロジェクトをスタートさせている。私の役割は、ソーシャルアダプションの基盤を形成するコンポーネントであるIBM VerseとIBM Connections Cloudの導入を進めること。コンサルティングや教育、さらには成功事例を語ることだ。

大谷:先日見せていただいたIBM Verseのユーザーインターフェイスには驚きました。今までドキュメント中心だったメールを、ユーザー中心に変えることでここまで使いやすくなるのかと思いました。ユーザーも同じ感想を持っているのでしょうか?

「人」を中心にし、さまざまなツールへの統合したインターフェイスを提供する「IBM Verse」

ブリル:社内で一番多いフィードバックは、やはりユーザーインターフェイスにまつわるものだ。特に画面の下にあるインタラクティブなカレンダーは評判が高い。そのほかにもユーザーに必要な情報をリスト化した「Waiting For」やユーザーの操作を促す「Needs Action」などのボタンがあり、メールとひも漬けしやすいタスク管理も用意されている。

私は特にスレッドメールが好きだ。Gmailなどで概念はあったが、構造自体が新しいので、大量のメールが見やすくなっている。あと、IBM社内で勧めたのは、メッセージを受け取った人がどの組織にいるのか、どのレポートラインにいるのかビジュアルで示される「Organized Navigation View」だ。非常によい評判を得られている。

組織構造を可視化する「Organized Navigation View」

大谷:ユーザーからのフィードバックもあるんですか?

ブリル:わかりやすい例を挙げよう。たとえば、メールの宛先を指定する際に、通常は名前とメールアドレスを見るが、組織の中には同じ名前・苗字の人間がいる。私の上司はジェフ・スミスだが、よくある名前なので、IBMの中には同姓・同名の人が9人もいるんだ(笑)。でも、リリースから4ヶ月後には、リアルタイムなディレクトリ検索の機能が追加された。これを使えば、最近やりとりした人を探して、肩書きも含めた名刺のように表示できる。

ディレクトリを検索し、ユーザーを名刺状に表示できる

IBM Verseで考えられた「メールの再定義」とは?

大谷:IBM Verseの導入はなぜ必要だったんでしょうか?

ブリル:メールはさまざまな目的で使われているが、必ずしも業務の文脈にあっていなかった。そのため、イノベーションのために、メールをもっと活かすことはできないのかと考えた。

この10年、企業の中でメールは重視されてこなかった。無視されて来た言ってもいいだろう。そのため、IBMのR&Dチームは2004年頃から、メールを再定義し、その在り方を変えようという考察を始めた。そして、IBM Verseの開発チームは、まったく新しいコラボレーション、そして会社で使える新しいメールの設計を行なってきた。社員のコラボレーションを促進し、明確な使い方をできる、そしてユーザー自身が使いたくなるようなメールの設計をやってきた。

大谷:その結果がIBM Verseなんですね。具体的にメールの再定義とはどういったものになるのでしょうか?

ブリル:メールはメインフレームの時代から30年に渡って、インボックスを代表する存在だった。これに対して、われわれはメールの構造自体を変えることはできないか考えた。今まではあくまでドキュメント中心だったが、人を中心にした構造に変えるということだ。

また、文脈に沿った設計にすることにすることで、よりコラボレーションが進むと考えた。たとえば、私がある会議に出席する場合、今までは準備のために受信箱やフォルダを検索する必要があった。しかし、それに関わる情報をあらかじめ入手でき、会議に臨めば、生産性が上がり、優位性を高めることができるだろう? 実際、Verseを使えば、会議をクリックすれば、それに関わる情報があらかじめ入っている。自ら情報を探すことなく、他の人の情報を広範に集めることもできる。

大谷:たとえば、Gmailは検索性を高めることで、情報にたどり着く時間を短くしてきたましたが、IBM Verseはメールのアプローチ自体を変えたということなんでしょうか?

ブリル:IBM Verseはこれまで培ってきたWatsonプロジェクトやIBMの技術革新、買収した企業の技術をベースにした「コグニティブテクノロジー」によって作られている。これによって、「あなたのために必要な情報」「自分に直接関係のあるもの」を見つけやすくなっている。自分のいる場所、特定のカレンダー、関わってきた人々などを分析し、その日に必要な情報を自分にとって意味のある形で提供してくれるメールの仕組みとなっている。

「(IBM Verseは)その日に必要な情報を自分にとって意味のある形で提供してくれる」

これにより、今までのように必要なメールを受信箱から見つけるという作業から開放され、異なるメールの使用感を得ることができる。今後はどのような人とミーティングを持つべきか、サジェストしてくれるようなリコメンデーション機能も付いてくるだろう。

大谷:なるほど。IBM Verseはメール自体を再定義したとのことですが、グループウェアや社内SNSの導入によって、「メールを捨てる」という選択肢はなかったのですか?

ブリル:メールは「材料」であって、それが「全体の食事」を完成させるものではない。社内のデプロイにおいてはIBM Connections Cloudという1つのプラットフォームに、メール、ファイル共有、プロジェクト管理、ドキュメント管理、リアルタイム会議、ブログ/Wikiなどを統合している。IBMの社員はこのツールセットをIBM Verseを介して使いこなすことができるようになり、さまざまなノウハウも溜まってきた。今後は、このノウハウとツールセットをあわせて、顧客に対しても統合されたオファリングを行なっていきたいと考えている。

(次ページ、全員CIOのようなIBM社内での展開はこうして成功した)


 

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