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山谷剛史の「アジアIT小話」 第106回

天津大爆発の情報の少なさに見る、中国のネット規制の現実

2015年08月27日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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政府公認のSNS「微博問政」で情報開示に努めるも……

 微博とスマートフォンで人々が実況し、市民記者化した。市民記者とSNSの力を最初に示したのが、2011年の中国高速鉄道事故だった。

 その事故の後に、中国政府は公式情報を素早く出すために「微博問政」を発表。政府各部署が広報役のアカウントをつくり、アカウントからプレスリリースを出したり、質問があれば回答したりする仕組みを作った。

 デマが出たときに素早く対処し、また人々に優しい政府をアピールするための(政府側認定の)もので、企業はそれ以前から誹謗中傷対策で同様のことを行なっていた。

 一方、微博利用者側には微博の実名制を開始した。その2年後の13年8月には、フォロワー10万以上のオピニオンリーダーに“影響を与えるような言説”をつぶやかないよう圧力をかけた。

 結果、微博は「なるほど」とためになるつぶやきの露出が減少し、知人同士の近況報告や政府、企業の広告のためのものとなった。

 2013年6月末で3億3000万人いた微博利用者は、LINEのようなメッセンジャーアプリ「微信」の台頭もあり、2年後の2015年6月末には2億人強まで減少した。

 微博問政では、「心をこめて」「素早い情報を」「隠さず伝える」ことを各所に注文した。誤魔化すことで余計にネット上で炎上するからだ。

 中国政府は各省に対し、大きな事故で微博を含めたネット対応についての成績表を定期的に発表させ、微博問政が不十分な省に対し注意をしていた。

天津の爆発事故では50のサイトが永久閉鎖
新聞社のアカウントも一時的に閉鎖に……

 それほどまでにメディアへの真摯な情報公開が必要と中国全土で訴えていたのに、天津の爆発事故については、非常に強いメディア規制を行ない、情報はほとんど出さないのだ。

 中国のインターネットを担当する部署「国家互聯網信息方公室」は、「正しくない情報を与え、悪い影響を与えた書き込みをした」として、対象の微博、微信アカウントの停止処置を行なった。

 50のサイトは永久閉鎖処置となり、360の微信アカウントが消された。「鄭州晩報」など国営の地方の新聞社のアカウントも一時停止処置となった。オピニオンリーダーの人々は、深い言説を行なわず、「情報が少ない、微博問政の反応が遅い」と無難なつぶやきにとどまっているだけだった。

 微博が市民記者ツール化した高速鉄道事故と比べると、現在は誰もがスマホを所有しているものの、微博や微信への規制・検閲が強まったため、思い切ったことが言えなくなった。

現地レポート「澤西天后:走多遠,作多久」。写真は豊富

現地レポート「澤西天后:走多遠,作多久」。写真は豊富

 また事故現場に市民記者がいられる状況ではないというのも今回の事故の特徴だろう。警察を配備し、誰も事故現場に通そうとしない中、勇気ある人が現地に潜入し現地レポート「澤西天后:走多遠,作多久」を出したが、関心あるユーザーの微博・微信・ブログなどへの転載もむなしく、皆消去され、見られるのは中国の管理が及ばない中国国外のサイトだけとなっている。

 微博問政の掛け声はなんだったのか。中国人気質を知り尽くした中での計算の結果か、情報がない中で、多くの人々の事故への関心は失われたようだ。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「日本人が知らない中国インターネット市場」「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」(インプレスR&D)を執筆。最新著作は「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 」(星海社新書)。

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