NVIDIAの対抗馬といえば、AMDであり、その前はATI Technologiesであった。AMD(ATI)のプロ向け製品をこれまで取り上げていなかったので、まずこれを説明したい。
ATIといえばFireシリーズ
Fireシリーズの源流は、SPEA Software AGというドイツのビデオカードメーカーまでさかのぼる。この会社はS3やTseng Labsのビデオチップをベースにコンシューマー向けビデオカードを製造・販売しており、米国ではVideo Sevenという会社を設立して製品販売を行なっていたが、1993年に破綻する。
幸い(?)にも同社は破綻前に、新たにプロフェッショナル向けの製品に転換を図ろうとしており、この部隊が1995年にDiamond Multimediaに買収された。Diamond Multimediaは以前GPU黒歴史でも少し触れたが、独立系のビデオカード(と若干の伝説級マザーボード)を作っていたベンダーである。
最終的にはS3に買収され、さらにVIA Technologiesに買収されるが、それ以前はグラフィックチップベンダーからチップを購入、これをベースに自社製品を仕立てていた。
同社はコンシューマ向けにSpeedStar/Stealth/Monster/Viperといったサブブランドの元で多くの製品を提供していたが、これとは別にプロフェッショナル向けの「数は出ないが相対的に高価格」なラインナップを手に入れるのは、製品ポートフォリオを考えれば自然な成り行きである。
SPEA Softwareは3DLabsのGLINT 300SX+S3 86C968ベースのFireGLという製品を開発しており、Diamond MultimediaはこれをPermedia+GLINT Deltaという構成のFireGL 1000を発表する。
これに続きPermedia 2ベースのFireGL 1000 Pro、初代FireGLとほぼ同じ構成のFireGL 2000、Glint 500TX+Glint DeltaのFireGL 3000などを出した後に方針を転換、三菱電機が開発していた3Dpro/2MPベースのFireGL 4000やiMPAC-GEベースのFireGL 5000をリリース。
さらにその後はIBMのOasis RasterrizeやRC1000+GT1000ベースのFireGL 1/2/3/4といった製品をラインナップする。
この頃はOpenGLがきちんと動いてドライバーがあれば、必ずしも同一メーカーのコントローラーでなくても問題はなかったのだが、こういうことをし始めたメーカーはだいたい長くないという経験則があり、同社もこの例に漏れずS3に買収されてしまう。ただその前にFireGLの部隊はATIに買収されることになった。
ATIは部隊を買収したとはいえ、それは製品というよりはブランドと開発部隊(特にソフトウェア対応)が欲しかっただけであり、ATIはすぐさまラインナップをRadeonベースに切り替えて、まず2001年にはFireGL 8700/8800を発売。この後も新しいRadeonの発表にあわせて新しいFireGLを投入してゆく。
ちなみにRadeonとの差別化の要因は、主にOpenGLの最適化である。そもそもRadeon向けのドライバではOpenGLのAPIのサポートは最小限であり、また特定のアプリケーションに向けたチューニングはまったくなかった。チューニングは、単に性能だけではなく、例えばCADなら描画精度や重ね合わせの際の表現などが正確に行なわれることの保証なども指す。
FireGLはこうしたOpenGLのサポートをフルに行なうことでRadeonとの差別化をはかり、こうした作業にDiamond Multimediaから買収した開発チームが貢献したことになる。
Fire GLシリーズは猛烈な数が出ている。それこそRadeon 8500からRadeon HD 3870あたりまで、主要な製品はすべてFire GLでもリリースされた。
またデジタル広告やトレーディングルーム、多機能表示システムなど複数画面表示が必要とされる用途にはFireMV(Multi-View)というラインナップが用意され、さらにGPGPU的な用途に利用するためのFireStreamというラインナップも追加された。
ちなみにこの最初のFireStreamはATIブランドであって、まだAMDではない。搭載されているコアはR580で、Radeon X1900あたりの製品と同じものだ。もっとも、外観を見ると、単にRadeon X1900にFireStreamというラベルを貼っただけ、という気もしなくはない。
とはいえ、連載310回で説明した通りATI Stream SDKが実行できる貴重な製品ではあった。
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