日本のITを変える「AWS侍」に聞く 第12回
これからもエンタープライズにクラウドの真価を語り続ける
スーツのSAMURAI渥美さんは60歳を過ぎてもクラウドエバ
2015年07月01日 07時00分更新
33年の長い間、システムインテグレーターの立場で、日本のIT業界に携わってきた渥美俊英さん。AWSの革新性にいち早く気づき、エンタープライズにクラウドの真価を語り続けてきた渥美さんもいよいよ60歳の定年。しかし、引退の2文字はないようだ。
本連載は、日本のITを変えようとしているAWSのユーザーコミュニティ「JAWS-UG」のメンバーやAWS関係者に、自身の経験やクラウドビジネスへの目覚めを聞き、新しいエンジニア像を描いていきます。連載内では、AWSの普及に尽力した個人に送られる「AWS SAMURAI」という認定制度にちなみ、基本侍の衣装に身を包み、取材に望んでもらっています。過去の記事目次はこちらになります。
今までのITの変革と一線を画するクラウドのインパクト
渥美さんがISID(電通国際情報サービス)に入社したのは、今から33年前の1982年にさかのぼる。入社後、15年は金融系のシステムの開発に従事し、その後は全社の技術支援という立場で新しい技術をソリューションに活かすという役割を果たしてきた。こうした中、2009年に出会ったのが、当時米国でもてはやされていたAWSだった。AWSのインパクトについて、渥美さんは「5~10分でコンピューターが好きなだけ使えるなんて、にわかには信じがたかった。ネットワークの向こうにあるのでわかりにくいけど、これはすごいものだなって直感した」と振り返る。
確かにIT業界には、汎用機からミニコンへ、ミニコンからオープンシステムへ、そしてインターネットやOSSへといった変革が10年に1度のタイミングで訪れていた。しかし、これらの変革はあくまで既存のコンピューターの進化の延長上にあるものだ。これに対して、自らコンピューターを所有しないクラウドは、今までと異なる革新があった。「同じ技術の延長ではなく、ビジネスのモデル自体が変わる、ユーザーのITに対する考え方自体が変わる。これまでと一線を画する変革だと思う」と渥美さんは語る。
「今までのITベンダーやSIerは、ハードウェアとソフトウェアを物販として販売し、それに対する人足・工数・エンジニアリングを対価として頂戴してきた。しかし、クラウドの台頭により、今までの物販の部分がなくなり、ソリューションに特化していくことになる。お客様は幅広い選択ができ、余計なコストをかけずにソリューションに注力できる。これこそがクラウドの真価だと思う」(渥美さん)
2010年、渥美さんはAWSのエバンジェリストであるジェフ・バー氏にセキュリティとコンプライアンスの体制について聞いたり、世界中のエンタープライズITベンダーが集まるAWSのパートナーミーティングに参加した。クラウドコンピューティングが、単なる技術的なトレンドではなく、エンタープライズITを大変革する存在になり、グローバルではすでにその流れが進んでいるという確信を深めた。
なにより渥美さんがAWSに惹かれたのは、やはりAWSには「徹底した顧客志向」が根底にあったからだという。今までの多くのITベンダーはある分野で業界を制覇すると、企業を買収して、異なる分野に参入。「顧客重視」を志向しながらも、自身の製品を高価格・高い粗利で販売し、利益を上げてきた。これに対して、AWSは顧客のヒアリングを元にサービスを開発し、価格を一方的に下げて、高価格・高粗利のものを志向しない。「今までのITベンダーにはない行動文化を持っていると感じた。30数年IT事業に携わってきて、こんなベンダーは初めて。目が覚める思いだった」と渥美さんは語る。ITベンダーやSIerとしてはつらい変革だが、お客様のことを考えれば、間違いなく世の中がこの方向に進むという確信があったという。
「徹底した顧客志向」に惚れる!ISIDはクラウドインテグレーターに
2010年、クラウドの価値に将来を見出したISIDは、「エンタープライズの真ん中にAWS」というメッセージを掲げ、AWSですべての製品、商品やサービスを展開するクラウドインテグレーターへの道を歩み始める。「幸いにもISIDは、自営の大きなデータセンターを所有していなかった。しかもITベンダー系や商社系ではなく、独立系だったので、物販に縛られない。そもそもソリューション志向が高かった」とのことで、社内に大きな反対はなかったという。
とはいえ、ユーザーがWebブラウザ上から簡単にコンピューターを使えるようになれば、物を売って利ざやを稼ぐ、導入することで工数に対価を得るという今までのSIerの付加価値は低減する。ライセンスを提供して、初年度に利益を出すという利益構造・営業評価もあるので、クラウドインテグレーターにシフトするのは決して簡単ではなかった。
「一般的に企業組織では、新しいことにチャレンジしようとすると、今までのやり方を変えたくない人たちの無関心、非協力、暗黙の反対があるもの。でも、今後のSIerは『システム開発や新しい技術をお客様のビジネスにいかに適用するか』という、人間にしかできないソリューション開発に特化していく必要がある。当然、求められる人材も、営業のやり方も、利益の構造も大きく変わってくる。なかなかついてこれないインテグレーターもいると思う」(渥美さん)
一方で、実現されるのがSI分野での「ITの民主化」だ。コンピューターにせよ、ソフトウェアにせよ、従来は大きな投資がなければ、ユーザーに対する新しいソリューションは実現できなかった。しかし、クラウドの世界ではビジネスとテクノロジーがあれば、大きな投資を伴わなくても、お客様が真に必要なソリューションを提供できる。「2011年の東京リージョン開設後のパネルディスカッションで、『大きなSIerはいらない』という議論があった。実際、日本で4社しか認定されていないAWSのプレミアパートナーの内、3社は、決して規模の大きくないクラウドインテグレーターだ。この2~3年で、想像よりも早くこの傾向が進んでいる」と渥美さんは指摘する。
(次ページ、金融機関のクラウド導入は15年前のシナリオ)
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