Apple Watchに見るAppleの新しい販売戦略
Apple WatchはTim Cook氏がCEOに就任してから初めての新規カテゴリーへの進出となる。Cook氏にしてみれば、思い入れのある製品であり、その販売方法もこれまでとは大きく異なる。スマートウォッチの課題に対するAppleの回答は、ここにあるように思う……冒頭の「試着」だ。
AppleはApple Watchで初めて、発売前の製品をApple Storeで触れることができるようにした。Mac/iPhone/iPadなどの製品でも購入後に製品の使い方を学べるOne to Oneを提供してきたが、Apple Watchはこれにさらに踏み込み、製品を一方的に提供するのではなく購入前から製品コンセプトを伝え、使い方をしっかりサポートしていこうという狙いがみえる。
3月のMWCで、ブース内にスマートウォッチを展示していたあるスマホメーカーの担当者は、「ユーザーが使っている機能が限定されている」と自らがスマートウォッチに感じている課題を語っていた。また別のベンダーは、購入者は熱心なアーリーアダプターにとどまっており、最初は熱心にあれこれ使っていたが途中で使わなくなると言っていた。このような課題を各社が感じている中、AppleはApple Watchを長期間かけて育てていくつもりなのだろう。
そんな販売戦略に一役買ってるのが、Cook氏が2013年にファッションブランドBurberryから引き抜いたAngela Ahrendts氏だ。Ahrendts氏はオンラインとオフラインの両方を統括するリテール担当上級副社長となり、Apple Storeに顔を出すこともしばしば。
Business Insider(関連リンク)が入手したAdrendts氏による従業員向けメモでAhrendts氏は、これまでの小売方法から大きく変えていく方針を明確に示している。具体的にはオンラインを受注のメインとするもので、Apple Watchと最新のMacBookからはオンラインに誘導していくという。Appleの新製品ローンチの風物詩ともいえる行列をなくし、来店したが売り切れだったという状況をなくしていくと目的を明確にしている。
これはAppleの販売が、これまで多くの技術製品で用いられている「触ってみて購入する」から、購入前のコンサルや「試着」を含む包括的な購入体験へと変えていくことを意味する。Adrendts氏がApple入社時に言われた、”Appleはファッションなど高級ブランドを指向する”戦略という点から考えても合点がいく。
というのも、スマートウォッチは既存の時計メーカーとの戦いをも意味するのだ(たとえばTAG HauerはGoogleとIntelとの提携を発表している)。これらはファッションブランドであり、多くが高級ブランドだ。
その成功が約束されているのかというと、まだなんともわからない。だが誕生から約2年、離陸には程遠いスマートウォッチ市場をApple(Cook氏)が注目市場にしているというだけでも、Appleの戦略力を見せつけられたと感じる。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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