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山谷剛史の「アジアIT小話」 第93回

規制一杯の中国流インターネットが世界に輸出される日が来る!?

2015年02月26日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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独自OSへ突き進む中国

中国のデスクトップPCはこのような形になるかも

中国のデスクトップPCはこのような形になるかも

 中国政府はWindows 8を購入しないことを発表している。Windows 7のサポートが切れる前に、中国独自OSを作って、そちらにPC用のOSのトレンドを持って行こうとする動きが見られる。

 前回の「中国でWindows XPがまだ使われている」という記事で、中国ではオリジナル製品をゼロから出すのは非常に苦手だが、既存の製品をゆっくりと改造するのには長けているとし、何かPC向けOSが出れば、それをベースに改造したOSが出るだろうと書いた。

Console OSはゲームにも向いている。中国人に喜ばれそうだ

Console OSはゲームにも向いている。中国人に喜ばれそうだ

 そんな中で、Mobile Media VenturesがAndroidベースのPC向けOS「Console OS」をリリースした。中文Androidアプリの資産は非常に多く、政府が舵をきり、中国の有力ソフトメーカーを動かせば、Console OSのようなAndroid系デスクトップOSへの移行は現実的となろう。

Googleアプリなき小米のカスタムROM

Googleアプリなき小米のカスタムROM

 「OSレベルから外国産のクラウドサービスを使うべからず」という考えのもと、すでに中国では、Android搭載スマートフォンにおいては、AndroidからGoogle関係のアプリを排除したカスタムROM搭載の製品が目立つ。

すでにSTBではコンテンツやアプリがコントロールされている

すでにSTBではコンテンツやアプリがコントロールされている

 またスマートテレビやSTB(セットトップボックス)においては、root化ができず、許可されたアプリしか導入できない「TVOS」という官製OSをインストールしている。iOS向けクラウドサーバーも、中国ユーザー向けのそれは、中国電信に移行された。

インターネットのようでそうじゃない中国流インフラを
国民の自由が小さな国に輸出する!?

 2014年6月には、GFWの父と呼ばれる「方濱興」氏が、人民日報の取材で「中国はインターネットの国境を作るべきだ、領土や領空のような『領網』を作るべきだ」と言っている。

 この『領網』という言葉は初めて登場したが、最近になって、2001年に当時中国科学院の副総裁だった江沢民の息子「江錦衡」氏が、「中国は国際ネットワークと分離されたネットワークを作らねばならない」と発言していたことが知られるようになった。実は現在のインターネットの方針は少なくとも2001年の段階で、ひとつの方向性として決められていたらしい。

 2010年には、中国は各国がネットの権利をコントロールできるという「インターネットの主権」を発表し、2014年11月には中国が主催し、米国ネット企業の役員クラスを呼んで開催した「世界互聯網大会」(世界インターネット大会)で、「各国のネットの主権を尊重すべき」という内容の「烏鎮宣言」を一方的に発表した。

 「中国」ではなく「各国」のネットの主権を尊重すべき、という言い回しがどうにもひっかかる。中国国内のネット環境を固めた次のステップとして、デジタルテレビや、4GのTD-LTEや高速鉄道を外国に展開するのと同様に、各国に中国的なネットインフラを輸出するつもりなのではないかと思うのだ。

 圧倒的多数派の中国人は、外国のサービスが使えなかろうが、VPNが使えなかろうが、多くの中国製サービスに囲まれて、ネットライフを満喫している。中国政府は、阿里巴巴(Alibaba)のニューヨーク株式市場への記録的上場などをあげ、ネット政策が正しかったからこそ、今の中国ネット企業の興隆があると正当化している。

 貧しさから開放されたからいいではないか、という考えは、中国人の間でも刷り込まれている。

 例えばチベットやウイグルについては、中国が支配しなければ貧しいままだ。支配されたからこそインフラが整備された、いいことではないか、という考えを持つ。

 政治的理由を背景にFacebookやYouTubeなど、インターネットの一部サービスに規制をかけている国がある。こうした国々に対し、豊かにするという大義名分のもとに、中国のマネーパワーで、ネットインフラを入れるのではないかと思うのだ。

 世界が繋がるはずのワールドワイドウェブの概念は、ワールドワイドウェブから独立した中国をもって変わった。

 それだけでなく、この先、政情不安な国や経済的に弱い国が、中国のマネーパワーで中国式のインターネット環境を導入する時代がやってくるかもしれない。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)、「日本人が知らない中国インターネット市場」「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」(インプレスR&D)を執筆。最新著作は「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立 」(星海社新書)。

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