まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第49回
アニメを変革する“3DCG”という刃――サンジゲン松浦裕暁社長インタビュー
劇場版公開中『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』がアニメに与えたインパクトとは?
2015年02月17日 17時00分更新
手描き作画と同規模の予算でも
フル3DCGのハイエンドなテレビアニメは作れると証明
―― フル3DCGでも、現状の2Dと同等のクオリティーや予算規模で作れると?
松浦 もちろん作画で作ったほうが描ける人が多くなりますし、コストの安い海外にも発注できます。そういう意味では作画で作ったほうが安くできるとは思うんです。
ただ、ハイエンドのテレビアニメーションを作る際には1話当たり1500万~2000万円くらいかかります。それと同じ規模感で僕たちはフル3DCGの作品を作ることができる、また、そうでなければ継続的に作り続けることができないだろうと。
―― ウルトラスーパーピクチャーズ(以下USP)取締役でグッドスマイルカンパニー社長の安藝貴範さんに伺ったところ、「ホントに売れるの?」とずっと思っていたということでした。
松浦 (笑)。彼はアルペジオに限らず『キルラキル』などいろんな作品で必ずそう言いますね。
僕は潜水艦や女の子たち――それも「メンタルモデル」という人間のようでいて人間ではない――が活躍するという要素は3DCGに向いているし、受けるはずだと思っていました。
ただ、フライングドッグさんから企画が持ち込まれたときは正直わからなかったですね。マンガの人気はありましたし、僕も面白いとは思っていましたが。アニメとしてヒットするかどうかは未知数でした。
ですが僕は2013年の秋に、誰よりも早くフル3DCGでハイエンドのテレビアニメを世の中に出すことが重要だと思っていましたから、企画自体はまさに「渡りに船」でしたね。シドニアも出てくるということは聞いていたので、いつだ、いつだって凄く気にしながら(笑)。
―― 競争だったんですね(笑)。
松浦 それで「(シドニアは)2014年の春」だと聞いて、よかったなと(笑)。ポリゴン・ピクチュアズの塩田さんは飲み友だちでもありますし、CG制作会社は、微妙に各社得意分野が異なってもいますが、もちろんライバルでもありますので(笑)。
―― サンジゲンとしては、CG制作会社が群雄割拠するなかでどのように独自性を出して行こうとしていますか?
松浦 セルルックという技術は、いずれあまり差別化できなくなると思います。ですから僕たちは、優良なIP(作品から生まれる著作権)を数多く保持することを目指しています。
そのために、アルペジオのような1クール作品だけでなく1年間=4クールの作品も手がけていきたいと考えています。そういった目標に向かって走って行けるディレクター、クリエイターを育てていきたいですね。
より人間らしく――物語とシンクロした「技術」の進化
―― 人間のようで人間ではないメンタルモデルが登場するアルペジオは、「人間とは何か?」という根源的な問いがテーマでした。これは楽園追放も同様です。さらにシドニアも光合成可能なクローン人間が多数存在するという世界設定でした。このように、フル3DCGアニメは「人間とは何か?」をテーマに内包することが多いように思えますが、これはなぜでしょうか?
松浦 アニメの中では「作画」がリアル、現実なんですよね。そして「CG」はその世界の中ではフェイクのように見える……そういう面は影響しているかもしれません。
アルペジオでも、物語後半に向かうにつれて、僕たち自身、より自然なアニメーションをつけられるようになっていたんです。それが、イオナたちメンタルモデルが人間に近づいていく物語とシンクロした面もあると思います。
―― それは技術が向上した、ということですか?
松浦 はい。アニメーターの成長があったと思いますね。アニメーターはCGソフトを使って関節を動かし、モーフィングで形を変えるといった技術は持っているんです。でも「より可愛い」「よりユーザーに気に入ってもらえる」形や動きはどうやったら実現できるのか、という点については経験値がありませんでした。
だから彼らもテレビでアニメを見て、「こういうシーンではこんな表現をすればいいのか」とアニメーターの本質=どう芝居をつけるかの域まで技術を磨いていったんだと思います。
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