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ASCII.jp働き方研究所 第2回

最新のIT武装はスモールビジネスを大きく変えていく

奥様は経営コンサル?イトウスポーツを変えたクラウド&モバイル

2015年01月27日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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数字の可視化で奥さんが業務コンサルへ

 現在、早苗さんがオフィスではPC、家ではiPadでfreeeにデータを登録している。「iPadだったら、子供が寝た後にささっと作業ができる」(早苗さん)とのこと。そのデータはクラウド上でフィナンシャルプランナーのチェックを受け、アドバイスをもらっているという。freee公認の税理士もいたが、「基本電話やチャットのみだったのですが、個人的には直接会える人じゃないと安心できなかったので」(早苗さん)ということで、地元の知り合いにおねがいしているという。

取材中も高校生が来店し、グローブの修理を依頼していた。地元での信頼度も厚いようだ

 freee導入の効果は、数字が可視化されたこと。税理士ではなく、自らがデータを入力することで、商売の状態や数字の流れが一目でわかるようになったという。しかも、ネット環境があればいつでも会計データが見られるので、気になる時にチェックしている。「自社の売上・仕入れ、銀行の残高もすべて連動していますし、今日の収支もメールでやってきます」(早苗さん)。また、自動化の恩恵で時間が節約されるようになったのも大きい。「子育ての時間がとれるようになった」(早苗さん)「電卓に向かっている時間が減りました」(井藤さん)と夫婦で口を揃える。

 当然の帰結として、早苗さんが売上や仕入れの状態を把握し、井藤さんにアドバイスするというコンサルのような役割を持つようになったという。「今までは商品の仕入れ伝票を調べて、合計するしかなかったけど、今では伝票を見る時間も増えて、freeeから全部見られる。公私混同で夫が買ったTシャツもすぐわかります(笑)。だからいろいろ言いたくなっちゃうんです」と早苗さんは語る。

「いつでもfreeeから全部見られる。だからいろいろ言いたくなっちゃうんです」(早苗さん)

 特に数字の説得力は大きいようだ。「お義父さんはグランド整備とかもやるのですが、やはり昔の人なので、振り込み手数料なしの仕入れ値で請け負ってしまうんです。でも、数字と伝票を照らし合わせると、これがきちんと指摘できます」(早苗さん)。「親族なので直言しにくい」という家族経営ならではの弱点も、数字で解消できるというわけだ。

 一方、freeeの課題は帳票の問題。「現状、テンプレートに文章が1つしか入らないんです。納品書・見積もり書・請求書に関してだけは、相手先に合わせて作ろうと思うと、今までの専用ソフトの方が早いですね」(早苗さん)と、今後の改良に期待している。

AirレジやSquareも!最新のIT武装を続ける理由

 実はイトウスポーツはfreeeのみならず、POSレジアプリの「Airレジ」(リクルート)やスマートフォンやiPadでクレジットカード決済可能な「Square」(スクエア)も導入している。とにかく新しいテクノロジーやサービスにどん欲だ。

クレジットカードはSquare、POSレジはAirレジを採用している

 Airレジ導入のきっかけは、スターターパック無料キャンペーンに当たったこと。通常のPOSレジと異なり、お客様に金額が見えないのが弱点だが、POSレジをイチから導入することを考えたら、はるかに安い。「お客さんは、レジがないことにまずビックリします。iPadでこんなことできるんだと」(井藤さん)。

 一方のSquareは以前からクレジットカード決済を検討していた井藤さんにとって渡りに船だった。「Squareであれば、リーダーがローソンで売ってるし、手数料も安い。決済した週に入金があるし」(井藤さん)とのことで、導入したという。

 今後実現したいのは、在庫管理との連動。現在使っているAirレジもfreeeと連携できるが、「ユビレジだとバーコードを使った在庫管理までできるので、その機能はうらやましい。これができると、売れ筋の製品も一目でわかります」(早苗さん)とのこと。すでにfreeeをマニアックに使いこなしている奥様が経営コンサルになる日は、それほど先ではなさそうだ。

日本技芸・御手洗の視点

「ITは"街の商店の女将"を"CFO"にトランスフォームする」

 

毎日の仕事が忙しくて回らない状況をITで打破したい、というワラにもすがる思いで始まったイトウスポーツ様の経理業務改革は、業務の効率化に留まらず、会計知識のない早苗さんを1年で"街の商店のCFO"にしてしまったようだ。今では会計システム・カード決済に留まらず、さらに先の業務である在庫管理にまでその食指は伸びている。

 誰に勧められたでもなく、本当に業務を進めるために必要なものを自分で地道に検索で探して見つけ出し、気軽にトライアルで使ってみるところからこの大きな変化が始まったことは驚きだ。これまで“ITの暗黒地帯”と言われた中小零細商店・企業におけるITでの事業改革は、足元のより小さな商店・企業からすでに始まっている。

 しかし、今回の改革は商店経営の世代交代によって始まったものだ。真の中小零細のITによる事業改革は、さらにサービスレベルが上がって、高齢世代でも使える優しいITがどこまで普及するかにかかっているのではないか?


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