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ASCII.jp働き方研究所 第4回

働き方のアイデアを集めて実践する「#HappyBackToWork」が目指すモノ

女性はなぜ働き続けられない?Women Willでは男性も考える

2015年06月16日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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グーグルが進める「#HappyBackToWork」は女性の働き方について具体的なアイデアを出し合うというプロジェクト。女性だけではなく、周りの男性も巻き込んで制度とテクノロジーを考えるというユニークな取り組みの舞台裏をグーグルの山本裕介氏に聞いた。

新連載「ASCII.jp働き方研究所」では、TECH.ASCII.jpの大谷が日本技芸社長の御手洗大祐さんとタッグを組み、クラウドやモバイルの登場で変わりつつあるワークスタイルを現場目線で掘り下げていきます。連載立ち上げの背景はこちらをご覧ください。

テクノロジーがあるのに会社で使えないのはなぜ?

 Women Willは「アジア太平洋地域の働く女性をテクノロジーでサポートしよう」という目的でGoogleが進めるプロジェクトになる。グーグルでWomen Willプロジェクトを担当する山本裕介氏は、「アジア各国のジェンダーギャップ(男性・女性間の格差)を埋めるべく、テクノロジーをいかに活用すべきか考えるのが大きなテーマ」と説明する。

グーグル ブランドマーケティングマネージャー Women Will プロジェクト兼務 山本裕介氏

 プロジェクトの中身は各国でさまざまだ。たとえば、インドでは教材を村に持ち込んで、コンピューターの使い方自体を女性に教えるところからスタートしている。「インドはインターネットに接続している人の7割が男性。女性がそもそもネットに接続できておらず、これでキャリアが抑圧されているという状況がある」(山本氏)とのことで、まずはネットにつなげるところまでをサポートする。また、教育機関でのネット接続がある程度進んでいるタイでは、親に比べ、子供の方がネットに明るいという事情がある。そのため、家にいるお母さんにインターネットを教えようというのが、タイでのWomen Willの取り組みになる。

 一方、ネット接続率がきわめて高い日本ではGoogle for Workなどを活用したリモートワークのツールや環境はすでに整っている。ただ、テクノロジーはあるのに使えていないという状況があるのではないかという仮説がある。実際、TV会議システムなどのツールが用意されているにも関わらず、使われないことも多い。「テレビ会議で自宅から会議に参加するという文化が根付いている企業は多くはない」(山本氏)という。これを調べるため、グーグルでは2013年から女性の働き方に関する調査から始めた。

女性が働き続けられない理由は物理的な場所と時間

 25~49歳を対象とした2013年の第1回調査は、女性固有の事情で退職予定の女性、そして再就職を希望する退職した女性に対し、「女性が働き続けることを阻む課題」と「その解決」を調べた。また、第2回の調査では、同じ25~49歳を対象に同じ末子の年齢が小学校3年生以下のフルタイム勤務の女性に「職場の制度の活用」「テクノロジーの活用」「仕事の満足度・生活の幸福度」の関連性を調べている。

 1回目の調査の結果、女性が働き続けるのを阻む課題が働く場所と時間の制限にあることがわかった。離職を予定している人の過半数が、「通勤に時間をかけられない」「自分の働きたい勤務エリアが限られる」「子供に手がかかり、十分な時間を確保できない」「子供の風邪や病気への緊急対応に備える必要がある」などの理由を挙げる。これは「求められるスキルや資格がない」「キャリアを伸ばすのが難しいから」「満足のいく待遇や賃金が得られないから」といった理由より高くなっており、物理的な場所と時間が大きな問題になるわけだ。

離職を予定している女性に聞いた「働き続けることが難しい理由」

 こうした女性たちが働き続けるためにはテクノロジーが鍵になる。「自宅で会社の資料を共有できる」「会議に参加できる」「同僚のスケジュールを確認できる」といったことが実現されると、女性が働き続けられる可能性は大きく伸びる。そして、このテクノロジーと制度を組み合わせると、現在の会社で働き続けたいという勤続意識がより大きくなるという。「お話しを聞くと、制度はあるんです。時短も産休も、育休も全部使っているけど、働き続けられない。制度とテクノロジーの組み合わせが必要になるんです」と山本氏は語る。

働くママの周りの人たちにフォーカスする意味

 調査をひもとくと、そもそもこうしたテクノロジー自体を知らない人も多く、役立つはずなのに認知されていないという問題も浮き上がってきた。こうした現状の壁は「自宅から会議に参加するのはなんとなくしのびない」といった心理的な障壁。「ITツールを『なぜ使ってないんですか?』という質問に対して、『使ってないから』という答えが返ってくることも多い(笑)。同語反復なんですけど、使い方を教えてくれる人もいないし、周りに使っている人がいないと、やはり根付かない」と山本氏は指摘する。これを解決すべく、昨年からグーグルが開始しているのが、「#HappyBackToWork」というプロジェクトになる。

 #HappyBackToWorkは、働くママを応援するためのアイデアを収集するというシンプルなプロジェクト。「働き方の議論って、愚痴で終わることが多く、こうなったらいいのにというアイデアが世の中に出ていかない」といった課題意識から、こうした投稿形態になった。ポイントは働くママではなく、周りの人の支援アイデアを募っているところ。「働くママがんばれ!とママにプレッシャーをかけるだけではなく、周りの人たちがいかに支援できるかに焦点を当てているんです」と山本氏はコンセプトを語る。

 こうして周りの人を巻き込むことで、男性も女性の働き方について考えることができる。男性の立場でWomen Willのプロジェクトを推進する山本氏も、ダイバシティ関係のイベントで居心地悪い思いをした1人。「女性だけの働き方の議論は、打倒男性という方向になる傾向がある。こうなるとポジティブに物事を変えることができないと思ったんです」(山本氏)。そのため、「意見」ではなく、「アイデア」を募る形で投稿できるようにした。これにより、なかなか議論に参加しづらい男性も気軽に投稿できる環境を醸成し、ポジティブに課題を解決していこうという狙いがある。

 実際、集まったアイデアを見ると、いわゆるワーママとしての立場の意見のみならず、会社としてどうすべきかという前向きな意見も多いという。とある北海道の中小企業は、保育園に子供を預けている時短勤務の女性が終業間際にそわそわしてしまって、生産性が上がらないという問題があった。そこで、子供を迎えに行ってもらって、さらに会社に連れてきてよいことにしたという。しかし、これだけだと“かけ声”に過ぎないため、オフィスの床をフローリングに子供が遊んでもいいようにした。こうした小さい一工夫が導入企業を増やし、ひいては社会を変えるとグーグルは信じているという。

さまざまなアイデアが投稿され続ける#HappyBackToWork

(次ページ、アイデアを実践してもらい、社会を変えていく)


 

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