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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第47回

セルフパブリッシングの未来(6)

ベストセラー連発の投稿小説サイトE★エブリスタは4年間で書籍化300作品!

2014年08月29日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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変化する“編集”の意味合い
“n対n”で切磋琢磨する場を作る

―― E★エブリスタに投稿され、多くの作品が書籍化されてきたことがわかりました。そこで気になるのが、エブリスタと従来の出版社との違いです。特に、デジタルマンガの世界では、マンガ家さんの側から“企画・ネームや原稿の段階における編集者からのアドバイス”の重要性が指摘されたりします。

池上 「E★エブリスタ、つまりスマホで読む段階での作品に対する編集は多くの場合我々で。一方、書籍=紙になる段階では出版社さん側で行なうケースが多いですね」

―― 場合によっては2回そのチャンスがあると。

池上 「そうですね。スマホファースト・デジタルファーストなので、書き始める前にスタッフが、『次にどんな作品を書きますか?』とやり取りをさせていただくこともあります。できあがった作品はスマホ向けに書かれていますから、書籍化の際は、そこから紙向けの直しがまた入るという感じですね。

 ただ我々も、企画の相談に乗ることはあるものの、連載中に“てにをは”を直すといった校正は特にやっていません。したがって、厳密には“編集”と呼べるかはわかりません。本来の編集は紙になる際、出版社さんが行なっている、というイメージかもしれませんね」

―― なるほど。ただ、単なる投稿サイトや、KDPのように投稿・個人販売して終わりという世界ではないということですね。

池上 「ハードとしてのプラットフォームだけでなく、ソフト面での手当もあるということはアピールしたいポイントです」

―― そのためのスタッフはどのくらいいるのでしょうか?

池上 「中の人間は、じつは5人くらいなんですよ」

―― えっ!あれだけの作品数があるなか、5人ですか!? 少ない(笑)。

池上 「少ないですね(笑)。そこは少人数で回す工夫がいろいろあります。1つは出版社の編集者さんも、スマホ掲載の段階でやり取りできるような仕組みを作ってしまっている部分が大きいと思います。

 例えば漫画の例ですが、START!! マーガレットという企画があります。ネットで言わば“持込み”ができるようになっていて、イラストや漫画に対して、マーガレットの編集部の方がアドバイスし、宿題を出して、またそれを戻すというやり取りを、みんなの見える前で続けるというものです」

―― そのやりとりは読者からも見えている? 作家志望の方からすると、そういうやり取りを見られたくない、という人もいそうですが。

池上 「読者からもコメントという形で見えています。たしかに、そういうやり取りを見られることを嫌な方もおられるとはおもいますが、しかしネットの世界ではいずれにしても、叩かれたり、厳しい意見を寄せられたり、というのは避けられません。個人的には、ネットとそうやって向き合うのは、これからの作家に求められるスキルの一種ではないかとすら思っています。

 そして、E★エブリスタでは作品にコメントという形でレビューが付きます。そこでは、ユーザーが編集者の役割をある程度担うという面はあるかと。

 また、月に1回“スマホ作家会議”という作家が集まる場を用意しています。そこで作家同士知り合いになってもらって、今どういう作品を書いているとか、困ったらどうしているとか、悩みを打ち明け合う場にもなっているんです。

 そういう場があることで、結果的に社員が一対一で対応しなくても回る部分が増えているという面もあると思います。編集というと“一対一”で編集者と作家が向き合って、2人でモノを作るイメージがあると思いますが、我々は“n対n”で切磋琢磨できる場を作っているわけです」

―― わかりました。人数は少ないけれど、そういった新しいタイプの“場作り”に手間はかけているわけですね。

池上 「普通のIT企業はイベントの運営などはやりませんし、うちの本社(DeNA)も『リアルは面倒だ』なんて言って、あまりやろうとしませんから(笑)」

―― IT、特にソーシャルゲームでの行動履歴の解析などで培った高い技術をDeNAは擁しています。デジタル小説では、例えば完読率などを測定して、作品の改善に役立てるといった取り組みはしているのでしょうか?

池上 「定量面では作家自らがサイト上でブログのアクセス解析のようなグラフが見られるようになっています。リファラーも取って、どこからの訪問が多いか、日別にどんなアクセス傾向があるか、年齢性別の分布なども見られます。

 そして同時に、作家会議に編集者の方をお招きして、数字だけでは見えないところを議論する場も設けています」

―― 定量と定性を組み合わせて、作家自身も自分のスキルを上げていくことができる。作品数に対して人数少ないE★エブリスタのスタッフも、効果的にアドバイスできる仕組みとなっている、というわけですね。

池上 「はい。そういう場を目指していますね」

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