Windows XP依存度が高い政府関連機関
ただし、先の状況は中国全般の話であり、「中国政府関連機関」に限定すると状況が異なる。ある報告によれば、政府関連機関でのWindows XP依存度はいまだ高く、2014年1月時点の推計で60〜95%ものPCがWindows XPベースだという。中国の地元IT企業であるTencent、Qihoo 360、KingsoftなどがWindows XP向けのサポートサービスを提供しているものの、継続利用に問題があることには違いない。
ここで筆者の推測だが、中国が「Windows 8調達禁止」令を出したり、八大金剛の1つであるMicrosoftをこのタイミングで攻撃する理由は2点あると考える。
- このタイミングで膨大な台数の残るWindows XPを一度にリプレイスするのは予算的に難しい。あるいは中国政府にとって大きな負担
- 一度に大量のリプレイスが発生するのは確実で、Microsoftや関連企業には大きな受注案件となるため当然セールスを繰り広げてくるが、同時に地元中国企業にとってのチャンスでもある
1点目は予算の問題だが、これは当然あるだろう。少なくともOSソフトウェアの更新だけでなく、ハードウェアや関連アプリケーションの新調やテスト工費も含まれるため、膨大な予算が動くことになる。Microsoftを攻撃することによって、交渉を有利に運ぶという動きは十分に考えられる。中国政府自身も期限切れOSを使い続けるリスクは承知していると思われ、遅かれ早かれ全リプレイスを進めていくのは確実だと筆者は考える。
2点目が大きなポイントで、リプレイス需要を巡る争いだ。Microsoftは現在Windows 7を中国政府向けに提供しているようだが、サポート期間や今後の対応を考えれば、次にWindows 8/8.1へのリプレイスを勧めてくるのは自然な流れだ。
Microsoftと中国政府のライセンス契約形態は不明だが、いずれにしろOSリプレイスのタイミングで大金が動くほか、関連ソリューションを持つ企業が一度に押し寄せて製品の売り込みにやってくるはずだ。
ならば、外国企業に予算をそのまま吸い上げられるよりも、地元企業になるべく還元させたいと中国政府が考えるのではないか。
現在、Windowsの直接の代替となる製品はすぐに思い浮かばないが、中国のモバイルOSとしてよく利用されているAndroidのほか、独自開発をうたうLinuxカーネルベースの「COS」(China Operating System)、あるいはUbuntuベースの「Ubuntu Kylin」(麒麟、FreeBSD版の「Kylin OS」もある)など、いくつかの候補がある。
先ほどのグラフでIE比率が下がってChrome利用率が上がっているのも中国にとってはよい兆候で、Windows+IE依存度が下がって国全体として独自環境に移行しやすい状態といえる。
もちろん、NSAの話題にあるような監視エージェントがWindowsにバックドアとして仕掛けられ、中国国内の情報が収集されている可能性も中国政府は検討していると思われる。
だが、実際に「米国政府によるWindowsへのバックドア設置のセキュリティリスク」と「Windows XPの大量リプレイスで発生する資金の海外流出」という2つの問題があったとき、中国政府は前者を理由に抵抗を見せるものの、その実は後者が本当の理由なのではないかという筆者の推測だ。
そしてリプレイス時にWindowsをある程度排除できれば、今後こうした期限切れによるリプレイスのリスクによる負担が減り、国内企業にサポートを安心して任せられるという思惑もあるだろう。なんだかんだで「実利優先」というのが筆者が中国に抱いているイメージだ。