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中国政府がMS中国事務所を一斉査察、その理由は?

2014年08月02日 12時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

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ターゲットは米国やIT企業だけではない

 2年前の2012年、中国では主要都市の多くで反日デモが実施され、暴徒化した参加者が日系とおぼしき商店や事務所を破壊した行為が報じられ、多くの日本人が「中国の攻撃ターゲットに日本も含まれている」ことを実感していることだろう。

 個別の付き合いでは普通に接してくる相手でも、ことビジネスの場では2012年に中国を訪れたビジネスマンが現地で冷たい扱いや態度を経験したと語っていたりする。筆者の感覚でいえば「反日」とは理由付けに過ぎず、本当の目的は政府関係者らによる「外国企業排斥や勢力の低下」にあるのだろう。やはり念頭にあるのは自国産業の保護だ。

「3.15晩会」(3.15 Gala)

 中国では国民的人気の「3.15晩会」(3.15 Gala)という番組がある。中国国営中央放送(CCTV)が、「世界消費者権利デー」(World Consumer Rights Day)にあたる3月15日に毎年放送している番組で、その主な内容は市場に流通している欠陥商品やサービスを紹介し、糾弾するというものだ。

 2013年は米Appleの保証サービスと独フォルクスワーゲンの自動車が対象となり、大糾弾大会が行なわれた。

中国では毎年定期的に外国企業の1〜2社をターゲットとし、糾弾キャンペーンを実施している。2013年のターゲットはフォルクスワーゲンとAppleだった

 Appleのケースでは、中国の法制度で「修理交換した製品は再び保証期間が同じだけ延長される」という決まりがあり、これを回避するためにAppleでは中国では製品の新品交換を行なわず部品交換という措置をとり、保証期間を他国と同じ1年としてたことが槍玉となった。

 フォルクスワーゲンでは車のギアボックスに欠陥があるという点が糾弾対象となった。どちらのメーカーも中国ユーザーに対して理解を求める声明を出したものの、結局Appleは保証ルールを中国の意向に沿ったものに変更してCEOのTim Cook氏が謝罪、フォルクスワーゲンでは38万台という大規模リコールという結果になった。

最新の2014年には、ニコンがターゲット

 この「3.15晩会」は外国企業にとって恐怖の存在となっており、Bloombergの報道によれば過去にはマクドナルドやカルフール(Carrefour)といった企業もその対象となっている。

 最新の2014年には、日本のニコンがターゲットとなり、デジタル一眼レフカメラの「D600」が槍玉に挙げられた。

 CCTVでは米国での訴訟を例に挙げ、D600のローパスフィルター部分にゴミが付着しやすく、それが撮影画像に写り込む問題がありながら中国国内での販売を続けているとしてそれを追求する形となった。

 同時期にはすでに後継製品が登場している状態であり、CCTVでの糾弾は過去半年にわたって米国を中心に問題となっていた件を蒸し返したものだが、結果として中国政府からは販売中止対象とされ、さらに保証期間を過ぎても清掃や交換対象とする旨がニコンから発表されている。

 3.15晩会は象徴的なものだが、前述の反日暴動に示されるように、外国企業をターゲットとした攻撃活動は中国において比較的頻繁に行なわれている。場合によっては、外国企業そのものだけでなく、自国の雇用を支えている地元の関連企業もまた対象になる可能性もある。

 まだ憶測が中心ではあるが、日本でも大騒ぎとなった中国の食肉加工メーカー「上海福喜食品」の期限切れ肉再利用問題もこの延長にあるという話がある。

中国で発生した上海福喜食品による食肉加工日改ざん問題では、米国系の多くのフードチェーンが影響を受けた。真相は不明だが、この背景も一連の糾弾キャンペーンの延長にあるという噂もある

 上海福喜食品は米マクドナルドやKFC親会社の米Yum! Brands(ヤム ブランズ)などと契約して食肉を系列店舗に卸していたが、事件発覚後はYum! Brandsから契約が解除されるなど、大きなダメージを被った。

 明らかに食用に適さない状態の肉を使い回してコストを下げる行為を行なっていたと報道されており、これは当然の結果だ。ただその一方で、大手ブランドとの契約を獲得しているような会社が、リスクを冒してまでやることなのかという疑問の声も上がってしまっている。

 ひとつ言われているのは、上海福喜が米OSIグループの傘下企業であり、もともと同社が大手との契約を獲得できたのはシカゴを拠点とするOSIグループの存在があったからという話もある(マクドナルドも同じシカゴが拠点)。問題発覚直後はマクドナルドも契約を維持すると表明していたが、最終的に中国政府通告を受けて仕入れ先変更を検討している。

 真相が解明されない可能性は高いが、いろいろ疑問点の残る事件な点は確かだろう。

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