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サイボウズのプロデューサーがクラウドについて考える

2014年07月28日 16時00分更新

文● 伊藤達哉(Tatsuya Ito)/アスキークラウド編集部

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 サイボウズの社長室でデジタル・ビジネス・プロデューサーを務める中村龍太氏は以前、日本マイクロソフトに勤めていた当時に「オフィス365」の立ち上げに携わった経歴を持つ。サイボウズに入社してから8カ月。サイボウズの「kintone」は、1500社以上の企業が導入している業務用アプリ作成ツールだ。DeNAでは2000名以上の社員が利用している。顧客からの評価が高いkintoneの特徴は誰でも簡単に操作できる点と、完成したアプリが他人と共有できる点だ。中村氏はkintoneのエバンジェリストとして、新しい分野を開拓するためにさまざまな企業・団体と接している。これまで印象に残った3つの事例を語った。

サイボウズ 社長室 デジタル・ビジネス・プロデューサーの中村龍太氏。

専修大学 経営学部

「僕が若かったらこういうスキルを持っていたら会社に入ったら便利だな」という発想から、中村氏はいろいろな大学の教授にkintoneをプレゼンしている。エクセルやオフィスを使いこなすようにkintoneを使ってもらいたいが、「理系はあまり乗り気ではない」(中村氏)という。理由はデータベースを構築するだけで、共有する意識が低いからだ。データベースを共有することは、自分の知識を盗まれるだけと考える教授もいたとか。
 かといって文系の学生に使わせると、中村氏が想像もしなかった使い方をする。専修大学の関根ゼミでは、神奈川県で毎年実施している産学プロジェクトに参加している。神奈川県の企業から出される課題に対して、学生たちが改善案を提案するプロジェクトだ。関根ゼミは成果を上げるためにkintoneを導入。テーマに対してスケジュールを決めて役割分担や進捗などを管理するのが通常の使い方だが、関根ゼミの学生たちはテーマに対する周辺情報を書き込んだり、ファイルを添付したりと「ある種、LINEのような使い方」(中村氏)をし、チームのkintoneをコミュニケーションツールとして使い始めた。企業では業務データベースとして使うことが多く、最初はコミュニケーションツールして使われない。「これからの企業が若い社員の力を会社力として活用を最大化させるには、タイムラインのようなコミュニケーション環境も用意することが大切」(中村氏)。ちなみに、ゼミの関根教授関根ゼミでは、今後カリキュラムにkintoneを組み込むことを検討している。

専修大学の経営学部の学生が企業からの課題に対して、kintoneのメッセージ機能を使ってアイデア出しをしている。


特定非営利活動法人グリーンバレー (徳島県 神山町)

 神山町は光ファイバーが整備されていることからIT企業が多く集まる町として有名だ。2013年には転出者よりも転入者が増えたことで総務省から過疎地域自立活性化優良事例の総務大臣賞の表彰を受けた。現在でも神山町への視察を希望するIT企業が後を絶たない。視察の依頼はNPO法人グリーンバレーが請け負っている。電話で受け付けを始めたところ、電話が鳴り止まずに応募が殺到した。そこで中村氏はグリーンバレーにkintoneとフォームクリエーターを使ってNPOのサイトから直接情報を取り込み、複数でスケジュールの調整や管理を勧めた。当然、グリーンバレー内で視察データが共有され業務は劇的に改善されたが、使いこなすに従って「想定していない組織が入ってきた」(中村氏)という。
 グリーンバレーは定期的に、徳島県庁に視察状況などをまとめたリポートを提出していた。当初は、スケジュールカレンダーをエクセルに落とし込んで紙に印刷していたが、現在は徳島県庁もkintoneのIDを所持し、グリーンバレーのデータベースを共有し、紙のリポートを提出させることなく見たいときにアクセスしてデータを確認している。「一つの情報に異なるチームや組織が入ってくるのはまさにクラウドの醍醐味です」(中村氏)。今後は神山町もIDを購入する予定で組織を超えたデータベースが構築される。

視察者の申し込み状況をリアルタイムにグリーンバレー、徳島県庁、各サテライトオフィス企業で共有し戦略的な活用をしている


ワインツーリズムやまなし

 合同会社セツゲツカは、2日間で1400名を集め県内のワイナリーを周ってワインを楽しむ地域活性のイベント「ワインツーリズムやまなし」を企画・開催している。2013年度グッドデザイン・アワードを地域づくりデザイン賞として受賞した。従来は誰が来るか分からないイベントだったが、2013年にチケットを購入する際に参加者からkintoneを使ってアンケートを取り、どういった顧客がどこから来るか、ワインの予算はいくらかなど細かい情報が事前に把握し、クラウドならではのkintoneのIDをワイナリーさんに渡して共有できる環境を提供した。「ワイナリーさんが喜ぶデータだと思ったが、反応はイマイチでした」(中村氏)。多くのワイナリーは、データを出されなくても毎年開催しているイベントなので肌感覚で分かっているからだ。
 しかし、ワイナリーツアーのイベントは山梨県以外の県も自治体からの補助金を受けてイベントを開催し競合が参入している。ワインという市場において職人の勘だけでなく、データの活用は避けられないと中村氏は考える。事実、セツゲツカでは参加者のデータをつけてプレスなどに共有をすることにより、イベントのノウハウを横展開できるようなパッケージの企画が外部の知見者から持ち上がっているという。kintoneのデータが想定外の応援者を引き入れ、山梨のワインファンを集められるかもしれない。

ワインツーリズムやまなしが、プレスなどの対外的な組織に共有しているワインツーリズムイベントのkintoneによる参加者属性グラフ。


 クラウドサービスには中村氏が想像もしない学びがある。「これからはクラウドサービスを利用し、現場ごとに情報を集めて共有し新しい価値を生み出す人たち、既存の関係者とは異なる共感を持ち人にアクセス権を与える。それによって、新たな組織が創られることでしょう。単にものを売って買うという既存のビジネスや組織の利用だけではなく、同じ目的のために情報に価値を生み出す人たちが入ってくると思います。それがクラウドならではの成長モデルじゃないでしょうか」


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