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開発者を勢いづけ、カメラ機能を強化し、Macにも波及効果を

WWDC 2014に見るアップルの3つの企み

2014年06月12日 11時00分更新

文● 林信行

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企み2:スマホ最重要機能、
カメラの概念を変えて新iOSへの移行を促す

 すでに記事としては十分長くなってしまったが、あと2点だけ触れたいポイントがある。

 まずひとつは、iOS 8のすぐに伝わる魅力、「カメラ機能」の進化だ。

 HealthKitとHomeKitは、家電の世界におけるちょっとした転換点になると思っているが、こちらの進化がどれだけ早く起こるかは、正直、他のメーカー頼みなところがある。それに画期的なヘルスケアやホームオートメーションの新製品が発表されても、結局はその製品を買った方にしか関係がない話題でもある。

 3点目に触れようと思っている「Continuity」(連続性)の機能にしても、結局はiPhoneと一緒にMacを持っている方にしか関係のない機能だ。

 アップルとしては、そうした時間をかけて利いてくる機能に加えて、iOS 8にアップデートしてすぐに享受できる魅力的な機能を用意して、ユーザーを新OSにアップデートさせなければならない。なぜなら、旧OSを使うユーザーが多い限り、HealthKitもHomeKitもContinuityも絵に描いた餅になってしまうからだ。

 もっとも、OSのアップデート率の高さについてはアップルは常に優れた成績を叩き出し続けており、現在最新版のiOS 7についてもすでに全iOSユーザーの89%が利用しているという(アップルは、これに対してAndroidユーザーで最新OSのAndroid 4.4/KitKatを使っているのは全体の9%に過ぎないとしている)。

最新版のiOS 7は、すでに全iOSユーザーの89%が利用。Androidユーザーで最新OSのKitKatを使っているのは全体の9%に過ぎないとしている

 では、この秋のiOS 8アップグレードでも、ユーザーが忘れずにOSをアップグレードしてくれる起爆剤となる新機能は何だろうか。

 そう考えたとき、すぐに新OSの凄さを享受できるもっとも魅力的を備えるのはカメラ機能になりそうだ。

 改めて言うまでもないが、この3〜4年、iPhoneに限らずすべてのスマートフォン製品が最も機能/性能を競い合っているのはカメラ機能という状況が続いている。

 この激しい競争のおかげで、もはや、コンパクトデジタルカメラは広角撮影と光学ズームくらいしかアピールできるポイントがなくなってしまい、デジタルカメラ業界には大打撃となっているほどだ。しかしその代わり、世界中で何億という人々が、毎日の生活の中で何枚も写真を撮る習慣が生まれた。

iOS 8の公式ページで明らかになった
タイムラプス撮影機能

 そんなスマートフォンの主要機能は、iOS 8でどう進化するのか?

 まず、飛び道具的な機能としては、iOS 8のカメラ機能には新たに指定した間隔で写真を撮影し、それを早回し再生の動画として加工するタイムラプス撮影機能が追加される。アップルの重役が慌てたのか、なぜか基調講演では触れられなかったが、iOS 8の公式ホームページに明記された発表済みの機能だ。

タイムラプス撮影機能。なぜか基調講演では触れられなかったが、iOS 8の公式ホームページに明記されている

 これによって、雲が流れていく様子や日の出日没の風景、道路を走る車や湾や河を渡る船などの幻想的な動画が標準機能で撮影できるようになる。

アイコンタップで自動調整、自分で細かな修正もできる補正機能

 タイムプラスだけでも魅力的だが、iOS 8のカメラ機能では、さらに新たに構図を直すツールと色味を調整するツールがつく。構図を直す機能では後から自動的に写真がちゃんと水平になるように補正する機能もあれば、逆光などで顔が見えづらい写真でも自動的に簡単な操作で補正できる機能も備える。調整できる項目は明るさ、コントラスト、絞り、ハイライト、シャドウ、色など多岐にわたるが、こうした難しいパラメーターの意味がわからない方でも、色味と明るさのどちらかのアイコンをタップして指を左右にスライドさせるだけで、自動的に他のパラメーターが破綻のない最適な状態に補正される。

撮影後でも、写真アプリケーションが自動的に傾きを補正してトリミングを行なう

他者提供の画像加工用フィルターも利用可能に

 これに加えて写真に表情を加える加工用フィルターが標準で何種類か用意される。

 さらに、「Extensions」(機能拡張)として、他社が提供する画像加工フィルターの利用も可能になる。実際、写真を水彩画のように加工する人気アプリ、「Waterlogue」もそうした機能拡張プラグインを開発しているようで、WWDCの基調講演でデモが行なわれた。

「Extensions」(機能拡張)として、他社が提供する画像加工フィルターの利用も可能になる。WWDCの基調講演では、「Waterlogue」の機能拡張プラグインを使ったデモが行なわれた

 このフィルターを購入しているユーザーは、これまでのようにわざわざ「Waterlogue」アプリを起動する必要はなく、iOS標準の写真機能やTwitter、Facebookなどのアプリ内から水彩画エフェクトを呼び出して画像を加工できるようになる。これは大きな変化だ。

 さらには「写真」アプリ内で編集/加工した写真を、PinterestなどiOSが標準ではサポートしていないアプリやWebサービスに書き出す機能拡張も追加可能だ。

 iOS 8では、「加工した画像をアルバムにいったん保存して、目的のアプリに切り替える」といった、これまでのような煩わしい操作が一気になくなりそうだ。

ほぼ無尽蔵に昔の写真をさかのぼれる!?
「iCloud Photo Library」

 これだけでも十分魅力があるカメラ機能だが、iOS 8のカメラ/写真機能にはもっと凄い、スマートフォンと写真の関わりを根本から変えてしまいそうな機能がある。それが「iCloud Photo Library」だ。

 iOS 8以降では、iPhone/iPadで撮影した写真やビデオは、設定さえしておけばすべて自動的にiCloudにアップロードされ保管される。そしてすぐにiPadなど他のデバイスでも参照可能になる。

 「え!? そんなことすでに実現していなかったっけ?」と思う方もいるかもしれない。確かに、これまでのiOSにもフォトストリームという機能があり、撮影した写真や動画はiCloudに自動アップロードされていた。

 だが、従来のフォトストリームは、あくまでも一時保管場所という考えで写真/ビデオは最新の1000本しか保管できず、1001本目が追加されると古いものから自動的に削除されていた。

 iCloud Photo Libraryはそうではない。iPhone/iPadで撮影したすべての写真、あるいは「Lightning - USBカメラアダプタ」などを通してiPadに取り込んだデジタルカメラのRAW形式の写真にいたるまで、すべて品質を落とさずそのままの形でiCloud上に保管しようという考えに基づいているのだ。

「iCloud Photo Library」は、iPhone/iPadで撮影したすべての写真、アダプターを使って取り込んだ写真などの品質を落とさず、そのままの形でiCloud上に保管しようという考えに基づいている

 この新機能のために、アップルは5GB分の写真保管用ストレージを全iOSユーザーに無償で提供する。あまり写真を撮らない方なら、これでも十分そうだが、さらに毎月99セント(約100円)の月額料金を払えば20GBまで、毎月3.99ドル(約400円)で200GBまで写真が蓄積可能で、料金設定は不明だが、最大1人当たり1TBまでの写真をiCloud上に保管できる。

毎月99セント(約100円)の月額料金を払えば20GBまで、毎月3.99ドル(約400円)で200GBまで写真が蓄積可能で、料金設定は不明だが、最大1人当たり1TBまでの写真をiCloud上に保管できる

 これはほとんどのユーザーにとって、普通に使っていたら数年間撮り貯めても到達しない容量だろう。

 つまり、中学、高校の入学式から卒業式くらいまでの間のできごとの写真をすべてiCloud上に保管しておき、必要に応じて検索して呼び出すというカメラの使い方が可能になる。

 これは、飛行機内のような(通信しにくい)場所でも見返したくなるような重要な写真を除いて、iPhone/iPad上からすべて消去してしまって、iPhone/iPadの限られたストレージをより有効に活用しようという提案でもある。

 また、やるからには何事も徹底的に使いやすくブラシュアップするまで行動に移さないというアップルらしさが、ここでも発揮されている。iCloud上に膨大に蓄積された何千、何万枚もの写真から、目的の写真を簡単に見つけられるように、写真を月日や出来事(撮影した場所と時間情報で判断)による検索に加えて、アルバムの作成やお気に入り登録など、少ない手間で写真を仕分けするための機能もいろいろと用意する模様で、こちらも楽しみでならない。

iCloud上に膨大に蓄積された何千、何万枚もの写真から、目的の写真を簡単に見つけられる機能、少ない手間で写真を仕分けるための機能も用意する模様

 iPhoneは、世界で毎日、もっとも多くの写真を記録しているカメラだと言われているが、その人気のカメラが、ほぼ無尽蔵に昔の写真をさかのぼれる究極のアルバムにもなることで、カメラとしてのiPhoneへの愛着は、さらに他社を引き離すことになりそうだ。

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