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1時間で1分しか遅れを取り戻せない飛行機の真実!

JALの本物すぎるフライトシミュレーターを体験したぞ!

2014年06月07日 14時00分更新

文● 藤山 哲人

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シミュレーターの総額は約20億円!
設置には家4件分の空間が必要

 さて読者の中には、このシミュレーターがおいくらくらいなのか気になる人もいるだろう。詳しくはメーカーサイトを見てほしいが、価格はおよそ20億円といわれている。

手前が777、奥が767のシミュレーター。屋根上にあるのがプロジェクターで、コクピット前には鏡があり虚像を見せているようだ。だからリアルな奥行き感

 また、シミュレーターを設置するためには、最低でも3階建ての一般住宅が4棟建つ土地と空間が必要になる。さらにシミュレーター本体とは別に、メインフレームなみのデカイCPUを置ける空調が完備された部屋、事業用の電源も必要だ。

足元のアクチュエーター。3本の足で装置を傾けGを作り出す

JA8981の機体番号と、GR-JPの無線符号がJALの777第1号機の証

 さらに運命的な出会いを感じたのは、このシミュレーターがJALの777一番機、機体番号JA8981だったということ。シミュレーターはソフトウェアを入れ替えれば老朽化することはないが、実機のJA8981は取材日の4日前(2014年5月23日)にJAL塗装が落とされ真っ白なボディーとなり、18年間のフライトに終止符を打った(ラストフライトは同年4月30日)。これはJALの777で初の退役機となる。

電車と違って空で遅れを取り戻せないのが飛行機

 ここで機長からうかがった話で、面白いエピソードをかいつまんで紹介しておこう。それはJALのパイロットがモットーとしている「お客様視点」の心がけだ。先の入国審査のためにできるだけ早く着陸するというのもその1つのようだ。

 まずは安全と安心だが、これはモットーよりも土台の基礎にあるため当たり前となる。筆者がソレはちょっとやりすぎ? と思ったのは、1人がトイレに行く際は、もう1人が酸素マスクを装着して操縦するという規則だ。2人がコクピットにいるときに装着義務はないが、1人になる場合は万が一の場合を考えてマスク装着義務があるという。

上段が自動操縦装置。機種方向や高度を設定できる。現在方位337、高度5000フィートに設定中

 安全と安心の上での心がけは、快適的、効率性、定時性の3つだという。快適性は、揺れ少ないフライトを実現するために操縦技量を磨いたり、気象などを予測して飛行経路などをプランニングする能力を差す。

 さらに臨機応変な機内アナウンスもあるという。ビジネス客が多い場合や深夜便などは、少しでも早くくつろげるように機内アナウンスは最小限にしているとのコトだ。またシートクラスによって、機内アナウンスを入れる・入れないなど細かな設定をしているという。

オーバーヘッドパネルは、かなり欲しいアイテム。ダイヤルがたくさんついている前側はエンジンや燃料関係のものが多い

 効率性は、自社の燃料代の節約をするためだけにしているのではないという。経済的な飛行高度や経路を飛ぶだけでなく、地上を走行中に片方のエンジンを切って走行するなどして、できるだけCO2の削減をするという。燃料を多く消費する飛行機だけに、ちょっとしたことで大きく環境負荷の軽減に貢献できるということだ。

 定時性は、パイロットだけでなく地上職員、そして旅客の協力があってこその定時運行という。先日世界各国のエアラインのリアルタイムフライト情報などを提供するFlightStatsが発表した2013年の定時到着率は、JALが2年連続して世界ナンバーワンとなった。その実績は88.94%。

 意外と低いと思われるかもしれないが、台風や大雨、雪や強風などの悪天候でダイヤが乱れやすい点を考えてほしい。さらにJAL○○便と付くグループ各社を含むと定時到着率が89.75%となる。

 近藤機長は「定時到着率はお客様の協力の賜物」と何度も繰り返していた。なぜなら定時に出発しないと定時に到着できないからだ。電車と違いスピードを出して遅れを回復できないのが飛行機なのだという。ここまでに説明したとおり、パイロットが風を味方にできたとしても、1時間で1分を回復するのがやっと。

定時運行は乗務員だけでなく、旅客の心がけも必要。同じ機体に乗る運命共同体なのだ

 旅客の1人がせっかく余裕を持ってチェックインを済ませても、買い物をしていたら出発時刻を過ぎてしまったなんてことがあると、他の何百人の旅客の到着が遅れてしまう。

 しかも乗り遅れとなってしまうと、いったん貨物室に積み込んだ荷物を下ろさねばならず(安全確保のため乗っている旅客以外の荷物は積めない規則がある)、何十分と出発時刻が遅れてしまうのだ。なぜそんなに時間がかかるかは、「空港の裏側に密着! JALの預け手荷物がロストしない秘密」の記事を見てもらいたい。

 JALでは定時出発できると「お客様のご協力をもって当機は定時出発できました。ありがとうございます」という感謝のアナウンスを行なうこともあるのだという。

「JALなら9割がた遅れない」世界No1の定時運行の主役は旅客
安全と安心はパイロットの技量と訓練の基礎に成す

 PC用のフライトシミュレーターなら、難なく離着陸できる筆者だが、実際のシミュレーターで操縦してみて実機の難しさを知った。それはゲームのEasyとVeryHardの違いというわけではなく、難しさの次元の違うものだった。

PC用のフライトシミュレーターとは大違い。操縦テクニックだけでなく、危険予測や安全管理はもちろん、乗客の快適性まで考えるパイロットという仕事は、まさに職人芸といえる

 しかしJALのパイロットは、それをいとも簡単に飛ばし、イレギュラーが発生しても、流れるようなスイッチの操作で危険を回避し、安全運航している。しかも気象を予測し、入国審査の待ち時間まで考えて快適な空の旅を演出するディレクターという一面も持っている。

 そして定時運行には、我々旅客の心がけも大切であるということを、改めて認識させられるものだった。「JALに乗れば遅れない」は、「JALに乗るなら遅れない」があってこそなのだ。

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