ネットワーク・オーディオはなぜ来なかったのか
では10年前、なぜネットワーク・オーディオは来なかったのか。答えは簡単。「分かりにくいから」。その一言に尽きます。
「パソコンがなくとも専用のホームサーバーがあれば利用できる」。
これがネットワーク・オーディオの利便性として、昔も今も、まず最初に挙げられるわけですが、このメリットが理解されにくい。まず、データを貯めこむという行為と、そのためのサーバーの必要性を、具体的な製品で、わかりやすく展開できなかったわけです。
思えば、iPod以前のMP3プレイヤーは、マニア向けのパソコン用周辺機器でしかありませんでした。リッピングも転送も別々のソフトで、データ管理も面倒。使えば便利であっても、そのメリットはなかなか一般には伝わらなかった。
それが2001年にiPodが登場して状況が変わります。面倒な操作をひとつのソフトに統合し、ドライブにCDを入れれば勝手にリッピングして曲名を付けてデータを貯めこみ、ケーブルでプレイヤーをパソコンにつなぐと音楽が自動的に転送されて、そのまま聴ける。そうしたトータルでの利便性が知れ渡ると、急激に売れていくようになります。
もうひとつ言うなら、パソコンのリビング進出が失敗に終わったのは、情報機器は常にパーソナルなものに向かって進化し続けているという現実を無視した結果でもあります。
そもそもパソコンは“パーソナル”コンピューターとして降りてきたからこそ普及したわけです。“ファミリー”コンピューターが携帯ゲーム機になったのも同じ。そして現在、パソコンも携帯ゲーム機も苦戦を強いられております。それはスマホの時代がやってきたからです。
ソニーのTVチューナーを内蔵したNAS「nasne」が人気なのも、ネットワークを介してスマホやタブレットからテレビ番組が観られるというわかりやすいメリットが後押ししているからでしょう。