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Apple Geeks 第138回

高効率ビデオコーデックとApple製品の関係を読む

2014年01月24日 15時30分更新

文● 海上忍(@u_shinobu

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 本連載「Apple Geeks」は、Apple製ハードウェア/ソフトウェア、またこれらの中核をなすOS X/iOSに関する解説を、余すことなくお贈りする連載です(連載目次はこちら)。

 UNIX使い向けを始め、Apple関連テクノロジー情報を知りつくしたいユーザーに役立つ情報を提供します。

次世代ビデオコーデックの動向

 4K Ultra HD(3840×2160、16:9、ITUの4K)、DCI 4K(4096×2160、約17:9、映画系の標準化団体DCIによる4K)の波がApple製品にやってきた……という主旨を第136回『2014年はMacにとっての「4K元年」となるか?』で記したところだが、そのときはプラットフォームをMacに限定して話を展開した。もちろん、iOSとOS Xの融合が進められる現在、その波はいずれiOSデバイスにも到来することだろう。問題は、その時期だ。

 なにぶんAppleのこと、4K対応の時期はもちろんのこと、対応するかどうかすら事前に知ることはできないが、他社の動向から推測することはできる。Apple製品とて厳しい市場競争にさらされる身、機能/品質で上回る他社製品/サービスが発表されれば、高みの見物を決めこむわけにはいかないはずだからだ。

 2014 International CESでは、Googleが新ビデオコーデック「VP9」のデモを披露した。VP9は高効率なビデオコーデックで、圧縮率はVP8 — 後日Googleに買収されたOn2 Technologyが開発、Googleが推進するビデオフォーマット「WebM」のコーデックとして採用された — の約2倍に達する。つまりはVP8と同水準の画質を半分のビットレートで実現できるわけで、画素数がフルHDの4倍となる4K映像でもデータ量の増加を2倍に抑えられる計算だ。

Google I/O 2013で行なわれたVP9のデモ。半分の帯域でH.264レベルの画質を得ることができる

 このVP9、国際電気通信連合(ITU)に正式承認されたH.264/AVCの後継規格「H.265/HEVC」を意識していることはいうまでもない。VP8とH.264はWebビデオ標準の座を巡り争った経緯があるが、市場を制したのはH.264。Web動画の80%以上(ITU調べ)というH.264の圧倒的なシェアは、その効率のよさはもちろん、家電メーカーなど多くのハードウェアベンダーに支持されたこと、そしてインターネット動画配信向けライセンスを恒久的に無償化したことが要因だ。

 だから今回のCESで、Google(YouTube)が家電メーカーにデモの協力を仰いだのは当然だ。いまやYouTubeはテレビやスマートフォンの必須コンテンツであり、そこで採用される次世代コーデックへの積極姿勢を示すことはメーカーにもメリットがある。すでにGoogleは、ARMやIntel、Broadcomといったチップベンダーに対してもVP9への協力を呼びかけている、との報道もある。

BroadcomがH.265のハードウェアデコードに対応した「BCM7445」のサンプル出荷を開始するなど、チップベンダーも4K Ultra HD対応を進めている

 Appleは次世代コーデックに対する態度を表明していないが、特許技術などの関係で家電メーカーがH.265を支持すると考えれば、ハードウェア(チップ)と開発フレームワーク(AVKit?)の両方でH.265をサポートすることが順当だろう。フルHD映像に使用すればH.264と同等の画質を保ちつつビットレートを半分に抑えるメリットもあるため、4Kとは異なる文脈でサポートが進む可能性もある(映画系のDCI 4Kの標準コーデックはJPEG 2000)。

 一方で、コンテンツプロバイダとしてのGoogle(YouTube)の存在感は軽視できないレベルにある。ネット全体のトラフィック軽減を追求するGoogleのこと、H.265もサポートするだろうが、自前の技術であるVP9を"推す"はず。VP8もすでにNVIDIAやBroadcomなど各社のチップでサポートされていること、同様にVP9についてもハードウェアベンダーに協力を呼びかけていることからすれば、今後VP9もチップレベルでサポート(ハードウェアデコード)される可能性は大だ。ロイヤリティフリーであるだけに、iOSデバイスではあえてこの機能を無視/封印しないでほしいと思うが……。

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