なぜ真空管なのか
シリーズの主役は、ずばり真空管搭載の「歪み系」と呼ばれる3台でしょう。なにしろ真空管を高電圧で駆動する「Hi-Volt」がメインフィーチャーなのですから。電源は単3乾電池6本、あるいはDC INの9V。それで真空管を200Vで駆動するという技術です。
しかし、なぜ、真空管なのか。その昔「ソ連のミサイルや戦闘機はまだ真空管を使ってるんだって」とバカにされた時代もあったくらいで、控えめに言ってもロストテクノロジーの代表のようなものです。
ところが、楽器の世界では違います。特に60年代以降のギターサウンドは、いかに美しく歪ませるかに力点が置かれてきました。オーディオ的に歪みは大敵ですが、楽器の世界では気持ちのイイ音が出れば何だっていいわけです。で、ギターを歪ませると最高に気持よかった。その気持ちのいい歪は真空管がもたらしたわけです。
と言っても、その昔のアンプは真空管が主流でしたので、単にボリュームを上げると歪むよね、というやむを得ないことだったのですが、70年代になってトランジスタが普及し、ギターアンプにもソリッドステート式の製品が出てくるに及び「なんか音がでかくなるだけじゃん」「歪んでも汚い」といった不満が出てきます。そして「やっぱ真空管のほうが良かった」という話になってくる。
一方で、そんな評価は後ろ向きであると、技術の進歩を信じ「管」より「石」にかける姿勢を崩さない人々がいた。なぜなら後者のほうが安く小さく作れるから。それも正義です。で、数多くの真空管アンプっぽさを狙ったトランジスタのエフェクターが登場しました。が、どうしたってホンモノの音に近づけるのは難しく、話は21世紀までもつれ込むわけです。
そして2013年の今現在どうなっているかと言えば、真空管を積んだ安くて小さいToneGarageシリーズが出てきた、というわけです。これは真空管の設計技術を維持したまま、ソリッドステート側の技術が進歩した結果ともいえ、時空を超えた技術の組み合わせが導いた未来なのであると、そう大げさに言ってみたい気もします。
とはいえ、このジャンルで真空管を使ったエフェクターは別に珍しくありません。ポイントは「乾電池の9V電源を使って真空管を200Vで駆動している」ところで、これはおそらく世界中探してもないでしょう。それでいてコンパクトエフェクターのサイズに収まっているのは画期的です。
そんな気合が入っていそうな製品の割に「FLAT 4(水平対向4気筒。スバルとかポルシェとかのエンジン)」、「Straight 6(直列6気筒。スカイラインGT-RとかBMWとか)」、「V8(V型8気筒。でかいアメ車に多いです)」と、レシプロエンジンの構成で命名してしまうこのセンス。いかに気合を入れようとも「結局これは男の子のオモチャなので」と主張しているようで素晴らしいです。