「ニコニコ超会議2の赤字は8000万円。前回より3億円近く減りました」
赤字額が表示されたディスプレイを背景に、ニコニコ顔で話をしているのは、ニコニコ動画を運営するドワンゴ取締役の夏野剛氏と、会長の川上量生氏。
千葉・幕張メッセを使った巨大イベント事業。その赤字額にまつわる二人のコメントは、いつもどおり気楽すぎるものだった。
「(赤字が)1億円に届かなかったんですよね」
「2億円くらいになってると思ってたんだけどね」
「次回も黒字にしない。『金返せ』とか言われそうで」
「なので、“ぎりぎり赤字”にしようと思ってます!」
ニコニコ超会議2は今年4月に開催されたイベントだ。
入場料1500円の有料イベントにもかかわらず、入場者数は10万人。ネットでの観覧者は500万人を超えた。赤字が減ったのは、「ご協賛をたくさんいただいたこと」(夏野氏)が大きく、経費としては逆に膨らんでいるという。
いくらキャッシュフローベースの赤字とはいえ、なぜそんなことが許されるのか。それは超会議に会員を増やし、会員離れを防ぐという両面のねらいがあるからだ。
今月22日、ニコニコ動画では月額525円の有料会員が200万人を超えた。会員数が順調に増えている理由は、退会者が少ないためだ。
有料会員のメインは10~20代。彼らが年月を経てもニコニコを卒業せず、ニコ厨と呼ばれるヘビーユーザーでありつづけるため、ずっと彼らを相手にサービスを続けられる。ニコニコ超会議は会員たちを楽しませ、大切な友だちを作ってもらうためにある。
そして重要なことに、会員たちは黒字が嫌いだ。
日本のインターネットには、金儲けが生理的に嫌われる"嫌儲"という独特の性質がある。ドワンゴはそれをよく理解し、イベントでもわざと赤字をねらう。月額課金で稼げる120億円の年商も、動画をアップした作者たちに「奨励金」として流してしまっている。
それでビジネスとして成立するのはなぜか。
それは、会員たちが半ば勝手に作り出す流行が、企業を巻き込んだ産業システム(エコシステム)になっているからだ。
ニコニコの中ではしょっちゅう新しい流行が生まれている。初音ミクのようなヒット商品があらわれたり、いきなりマイナーな商品が売れたりすることがある。ちょっとした呼びかけで数百人、数千人が集まる“フラッシュモブ”のような現象も起きやすい。
そこで生まれる流行をネタにビジネスをする企業が増えていく。初音ミクは100億円市場と言われ、その市場規模は年々拡大している。結果、ドワンゴの外には「ニコニコがないと困る」利害関係者が増えていく。彼らはニコニコ動画の維持・継続を望むことになる。
企業の売上に貢献するとあれば、メディアとしての商品価値は上がっていく。テレビ局にとってのスポンサーとはまた違う形で、ドワンゴは企業の支持を獲得しているのだ。
ニコニコ超会議はこれからも赤字を出しつづけるだろう。テレビ局がネット事業を黒字化しようともがいている一方で。