HTC Firstとキャリア、OSの役割とは
Facebook Homeの発表では、AT&TからFacebook HomeをあらかじめインストールしてあるAndroidスマートフォン「HTC First」のリリースも同時にアナウンスされました。黒、白、ミントグリーン、赤の4色を揃えていますが、性能は必ずしもハイエンドとは言えず、2013年の春のラインアップとしてはミドルレンジの性能といったところでしょう。価格は2年契約を前提に99ドルと安めの設定です。
Facebook HomeはAndroidの上にかぶせるメニューアプリといった位置づけです。説明してきた通り、スマートフォンのユーザー体験がFacebook仕様に変わるわけですが、携帯電話会社やOSを作っているGoogle等からすれば、そこまで単純な話ではありません。
まず携帯電話会社ですが、利益の源泉を完全にデータ通信に追いやることになります。これまで通話やSMSなどの通信料のビジネスで利益を上げてきました。しかしコミュニケーションをFacebookのプラットホームが担うようになると、携帯電話会社が担うのはデータ通信部分のみへと進んでいきます。SMSがFacebookメッセージに、音声通話がSkypeの音声・ビデオ通話へと移行していけば通話とSMSからの収入は見込めなくなります。
日本ではSMSはあまり使われず、データ通信を利用するケータイメールでモバイルメッセージングが普及してきましたが、ウェブ側のコミュニケーションが主となれば、キャリアのアドレスがついたメールアドレスに縛られることはなくなります。すでに日本ではナンバーポータビリティーが行えるようになっており、キャリアをまたいで電話番号を引き継げるため、より自由にユーザーがキャリアを渡り歩くことにつながるでしょう。
またFacebook HomeのベースにあるAndroidにとっても、複雑です。Facebook Homeのようなメニュー環境を実現することができるのは、よりオープンな環境であるAndroidの特権と言えます。iOSやWindows Phoneでは、Facebookが自由にこうしたソフトウェアを作って配布することはできないからです。
その反面、ソフトウェアをインストールすれば、現状の完成度は低いとはいえ、いわゆる「Facebookフォン」になってしまうという点で、もともとのAndroidの使い勝手や、提供したいGoogleのサービスが隠されてしまうという事実もあります。ウェブのプラットホームがスマートフォンの手元までそのインターフェースを進出させる「チャンス」をAndroidは与えているという気づきにもなりました。
筆者としては、当面iPhoneがメインのスマートフォンになっていくと思いますが、Facebook HomeをインストールしたAndroidも1台、手元に置いておきたいと思いました。Google Glassも来ることですし。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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