2泊3日の「イノベーション・キャンプ」
千葉県柏市に'14年春、完成する環境未来都市。この街にできる「柏の葉イノベーションセンター」を使ってビジネスキャンプを行うとき、どんな内容で誰と参加したいかを論議するアンカンファレンスが「イノベーション・キャンプ」。テーマはイノベーションでそれ以外の内容は自由という設定だ。
「参加者を数人のチームに分けて、カテゴリを決めて論議しては?」という提案がなされ、すぐさま「ハードウェア」「シニアイノベーション」「新興国」「大企業(の研修)」の4チームを編成。それぞれのテーマで論議してその結果を発表するという内容にまとまった。
論議の前に数分間、どんなキャンプにしたいかを各自付せんに書き出す。それを発表し、面白いアイデアからはさらに面白いアイデアが生まれ、付せんが増えていく、という論議の方式。結論ありきの話ではないが、多数のキーワードが生まれ、今後実際にイノベーションキャンプを行う際の最初の提言としてまとめられた。
このようにしてアンカンファレンスの各会議室では、「教育」「シニアライフ」「復興」などさまざまなテーマが語られた。参加者の誰もが自由に発言し、その発言に触発されて続く発言が深まっていく。アンカンファレンスの醍醐味を感じられる2日目だった。
ウェブのない世界!?
イノベーションを模索する国内メーカーによるアンカンファレンスも多い。例えばパナソニック(株)は、目に見えないものが見えるカメラ「もしもスコープ」をテーマに据えていた。これは、ショッピングモールで買う気があるかどうかを数値化できるカメラのように、明確な実現方法があるわけではないものの「もし存在するとしたら」という可能性から多様なアイデアを引き出すものだ。
アンカンファレンスでは、タクシーで話しかけられたくないことを数値化したり、初めて会った人との共通の話題を探り合うプロセスを省略したりするツールといったアイデアを出し合った。司会役がこうしたアイデアを「見せたいことを言葉に表さずに見せる」「見えないことを見えるようにする」「人の次の行動を予想する」の3つに集約し、イノベーションの方向を探った。
凸版印刷(株)によるアンカンファレンスでは、「五感でいいね!」をテーマに、音や臭いなど五感でユーザーを引きつけ、Facebookの「いいね!」を獲得するデバイスの応用が話し合われた。
例えば、無印良品の有楽町店に設置された店頭ディスプレーでは、店内に設置されたお菓子の家で作られたジオラマで来店者の注意を引き、「いいね!」に誘導する仕掛けが昨年末まで展示されたという。アンカンファレンスでは、マネキンの各部位にタッチすると「いいね!」ができるセンサーを組み込み、コーディネート全体が気に入ったのか、それぞれの商品が気に入ったのか投票し、結果を画面に映し出す仕組みなどが話し合われた。
多くのアンカンファレンスに共通した特徴は、「ウェブのない世界」の実現だ。国内で「イノベーション」というと、いまだに新規性のあるウェブサイトやアプリケーションが紹介される。しかし、MITメディアラボのアンカンファレンスでは、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアの存在を前提に、現実世界からスマホなどを介さずにアクセスし、いま起きていることを表示させる方法が話し合われた。また、どんなニーズがあるか、どんな未来を実現させたいのかといったことから実現方法を検討するアンカンファレンスは、実現方法のない目標を「空想」と冷やかす日本人には刺激的な体験だ。
ビジネスモデル・ジェネレーションのアンカンファレンスで講師役が説明した「どうやって実現するかではなく、どんなニーズがあるかから考えてください」の言葉こそ、イノベーションを繰り返すMITメディアラボの精神そのものかもしれない。