1月18/19日の2日間にわたり、米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ主催の「MIT Media Lab @Tokyo 2013」が開かれた。MITメディアラボはデジタル技術を用いた学際的研究で世界的に名を馳せる研究所。「レゴ マインドストーム」や電子ペーパーをはじめ、さまざまな技術を生み出している。
今年のテーマは「Brain and Borg(脳とボーグ)」。イベント初日はさまざまな研究機関から8名のプレゼンターが登壇し、それぞれの専門分野から刺激的なセッションを繰り広げた。
リスクと「幸福」の意外な関係
イベント自体と同じテーマ「Brain and Borg」と題した第1セッションには、4名の研究者が登場。エド・ボイデン氏は、都合により米国からSkypeでの参加。人間の脳を解明するプロジェクトを紹介した。アルツハイマー病や睡眠障害といった、脳の機能障害によって引き起こされる病気を解決する手がかりになるという。
続いて北野宏明氏が、「2001年宇宙の旅」や「ブレードランナー」などを引用しつつ、人工知能の進化を解説。人工知能はチェスやクイズといった特定の領域に限定すればすでに人間を追い越しているものの、想定外の事態に対応できない脆弱さも併せ持っている(「ロバストネス・トレードオフ」)。だからこそ、今後の研究においては「Heterogeneity(異質なものが混交すること)」が重要なのだと語った。
脳科学者の茂木健一郎氏は、不測の事態に対応できない日本の社会と文化について疑問を呈する。日本では思いがけない失敗ですべてをあきらめ、進歩を止めてしまう。同氏が比較対象として挙げたのは「アポロ計画」だ。
米国初の有人飛行計画である「アポロ1」は、演習中に爆発・炎上。3名の犠牲者を出す致命的な事故を引き起こしたが、計画は中止されず進められた。結果的に2年後の「アポロ11」で月面着陸を成し遂げるなど、宇宙開発史上に偉大な足跡を残している。リスクを引き受けたことが、成功につながったわけだ。
この教訓は私たちにとっての「幸福」を考える大きな手がかりになる。もはや想定外の事態を避けられない以上、安定した環境を求めても意味がない。そうではなく、自分の周囲に人のつながり(ネットワーク)を作り、そこを安全地帯としてリスクを取りにいくこと。茂木氏はこれが強固な「幸福」を実現する条件なのだと強調した。
独立行政法人理化学研究所の藤井直敬氏は、現実と同質の仮想現実空間を実現する「SRシステム」を紹介。「SR(Substitutional Reality)」は「代替現実」のことで、現実と仮想の境界線を乗り越える。
ライブ映像とあらかじめ撮影しておいた録画映像を組み合わせる点が特徴。ヘッドマウントディスプレーを装着した被験者に気づかれぬよう、ライブ映像から録画映像(時間的に仮想のライブ映像)に切り替えると、現実と仮想の境界を認識できないため、現実世界と同じ感覚で仮想現実に足を踏み入れることになる。新しいユーザー体験の可能性を感じさせるユニークな研究だ。