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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第101回

プロが仕事を諦める時 対談・佐久間正英×佐藤秀峰【業界編】

2012年08月05日 12時00分更新

文● 四本淑三

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 音楽プロデューサー・佐久間正英さん、漫画家・佐藤秀峰さん。佐久間さんのブログエントリー「音楽家が音楽を諦める時」に呼応して書かれた、佐藤さんの「漫画家が漫画を諦める時」をきっかけに、異業種対談が実現した。

 2人とも緊張し、遠慮気味にお互いのプロフィールを探りながら話が続いてきたが、実は佐久間さんは漫画家に憧れていた時代があり、佐藤さんには音楽の才能はないと諦めていた過去が判明(「職業編」をお読みください)。

 現在の本業ではお互い「諦める時」をイメージしつつ、現実にはひとつも諦めていないように見える、二人の話のその続きをどうぞ。

コンピューター化とコストの関係

―― 音楽はコンピューター化が進んで今の状況があるんですが、漫画はコンピューター化で効率が上がったとか、制作費が安くなったということはありますか?

佐藤 漫画の場合、ほとんどが人件費なんですね。コンピューター化しても人は減らないんです。制作時間が短縮しているという人もいますけど、描く部分については本当に描くしかない。パソコンで描いても、新しいことをやってみようとすると、逆に時間がかかってしまうんですね。昔ながらのやり方をしていれば、3/4くらいのスピードでできるかなというくらいです。

―― 音楽の場合はコンピューターがあらゆるところに効きましたよね?

佐久間 デジタル化しやすいデータなんですね、音楽は。コンピューターの上で組み立てることもできてしまうので。漫画の場合はそうは行かないでしょうね。コピペもあんまり効かないし。コピペできないのってつらいですよね?

佐藤 すぐ手抜きって言われちゃいますから。

音楽は複製技術で発展してきた歴史がある。だが漫画にそれを使うと「手抜きって言われちゃいますから」と佐藤さん

―― あの、佐久間さん、そんなにコピペしてるんですか?

佐藤 あははは。

佐久間 いやいや、僕はそういうのがいいとは思わないけど、音楽って1コーラス目が出来れば、極端な話、2コーラス目はコピペでできるわけじゃん。歌詞が違うところだけ歌えばいい、みたいなことになっていく。漫画はそれができないから。

―― 漫画にはループもないですからね。すると漫画は人手が必須ということで、佐藤漫画製作所のような制作現場もある。若い人が入って仕事する環境があるわけですけど、佐藤さんはどんなことを教えられていますか?

佐藤 基本的な遠近法だったり、パースの引き方とか。基本だけですね。最初に30分くらい教えますかね。あとは言ったのに間違ってるじゃんほら、とか定規当てながら。ほらここずれてるよと、それくらいのことは都度言いますけど。でも基本は自由に悩んでくださいという感じです。

―― 一方、音楽の制作現場は、若い人が自由に悩める環境もなくなりつつあって、どんどん制作も個人作業になっていきますけど。

佐久間 実際、スタジオもつぶれてなくなってきたからね。一人でやる音楽を目指す人には構わないけど、そうじゃない音楽を目指している人も、そうせざるを得ないというのが問題。ただ、僕はスタジオをつぶしていった、ある意味では責任者なんです。大きなスタジオはいらないといって、自分でdog house studioみたいなコンパクトなスタジオを作ったし、エンジニアまで自分でやりはじめて、エンジニアの仕事もなくしちゃうみたいな。それは僕の音楽の作り方であり、シンセサイザーでどこまで表現できるかという可能性を追求してきた結果なんだけど。まあ、もともとテクノの人だから。

佐久間さんは自らのスタジオを作り“音楽技術の小規模化”を進めた。「僕はスタジオをつぶしていった、ある意味では責任者なんです」

―― そういう佐久間さんの追求してきた制作スタイルが成功例として一般化した、とも言えなくないですか?

佐久間 でも、同時に生楽器の演奏家としての部分もあり、そのバランスを自分で取りながらやってたんだけど。たとえばストリングスを入れたいなと思っても、お金がかかる。仕方がないからサンプラーで代用するんだけど、実際の生の弦の音を知らない人が、アレンジをしたり、音を作ったりすれば、もちろんクオリティーは下がるに決まっている。それとサンプラーでやることを目的にストリングスを追求してきた僕みたいなやり方では、やっぱり意味が違うと思うんです。

佐藤 漫画でもそういうことはありますね。漫画は、スクリーントーンという、ドットがプリントされたシールみたいなものを、カッターで切り抜いて貼って濃淡を表現しているんです。それが今はグレーを直接モニター上で塗れるんですね。グレーは印刷するとお金がかかるんで、2値化したものしか印刷できない。なのでグレーをドットに分解するんですけど、印刷は2値だからと分かっていてグレーを塗るのと、そうでない人が出てきて、おかしな表現になっているものを見かけます。

はじめからコンピューターで漫画を描く世代と、「紙に手描きする漫画」の世代とで、表現の食い違いがあることもあるという

―― これから漫画がすべて電子化すると、それは問題にはならなくないですか?

佐藤 すると「紙用に描くべきか、モニター用に描くべきか」という問題が。2色しか使えないからできることがいっぱいあったんです。自由になったようでいて、実は何でもありになって、漫画の要素だったと言えるものが消えてしまっているんですね。「だったらアニメでいいじゃん」と。

佐久間 そこは音楽と似ていますね。

佐藤 モニター上で白黒の静止画を描くことって、意味がないんじゃないかって。静止画でモノクロである意味というのを、もう少し考えないと。

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