最高裁判所は今月20日、P2P通信ソフト「Winny」開発者・金子勇さん(41)への上告を棄却し、無罪確定を言い渡した(決定全文)。京都府警が金子氏の元に捜査が入ったのは2003年。実に8年越しの“戦い”に、これでようやく終止符が打たれたことになる。
現在、金子氏は株式会社Skeedの社外取締役(工学博士)として働いているが、訴訟中は“容疑者”と呼ばれつづけた。これから弁護側は金子氏への刑事補償を求め、ふたたび国を相手どって戦いはじめることになる。
プログラム開発者に対する直接捜査をともなった刑事訴訟は類例がない。今回の判決は日本の立法機関(政府)に何を示すものなのか、そして今回の事件は日本の何を変えたのか。司法記者クラブ取材後の金子氏と、担当弁護士の壇 俊光氏に話を聞いた。
開発者が“可能性”だけで有罪はありえない
―― 今回の判決について教えてください。「最高裁が明確な条件を提示した」という報道もありますが、具体的にはどんな条件だったんですか?
壇 いや、明確ではないですね。高裁は明確だったんですよ。高裁は「用途」を問題にして、「著作権侵害の用途として(ソフトを)提供したかどうか」という基準をとったんです。それはハッキリしてるじゃないですか。一方で最高裁は、「(ユーザーの)多数が著作権侵害をしているのが例外的かどうか」という基準をとっている。
例外的といっても、それが10人以上なのか50%以上なのか、具体的に分からないところがあるんですよね。そうなると、やばいので(開発を)やめようかな……ということになりやすい。しかも、それを認識するってどれくらい認識したらいいのかと。「なんか誰かが悪いことしてるかもしれないなー……」で(開発者が)有罪になったりしたら、たまりませんよ。その点で最高裁の基準の方が問題点は多いと思います。
―― Winnyの開発が“無罪”なら、Winnyの“提供”も合法と言えるんでしょうか。
壇 提供の方法によります。それによっては有罪になることもあると思います。最高裁にしたがえば、「雑誌などで悪用方法を紹介した」というくらいでは足りませんが、実態調査を経るなどして、「かなりの数の著作権侵害が発生しているのは確実」と認識された場合は、ソフトの提供を中止しなければならない、ということになると思います。
―― 普通に“フリーウェアです”と書いてあれば問題ない、というわけではないんですね。
壇 可能性だけで有罪になるということはなくなったけども、フリーウェアと書いてれば良いというわけではないです。検察側は「可能性だけでも有罪」だと言っていたんですけど、そこから比べたら一歩前進かなと。8年かけて一歩前進って、遅いよって気もしますけど。
金子 まあ、「ここまでOK」というのがとれたのは大きいですよ。
―― これから日本国内でWinnyに類似したソフトウェアを作っても大丈夫、ということになるんでしょうか。
壇 民事ではかなり厳しい判決が出ているので、「なんでも作ってOK」というわけにはなかなかいかない。ただ、警察もまた逮捕して無罪になったら困るので、そう簡単に刑事事件になることはないでしょう。