11月27日、駒場祭期間中の東京大学で、「エンタメノベルとメディアミックスの関係-電撃文庫の場合-」と銘打たれた講演会が開催された。当日はアスキー・メディアワークスから電撃文庫副編集長の三木一馬が登壇、主催者・観覧者からの質問に対してユーモアをふんだんに交えながら電撃文庫における編集者の役割について語った。
三木副編集長は、『灼眼のシャナ』『とある魔術の禁書目録<インデックス>』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』といったメガヒット作を手がけ、それらのアニメ化にあたっても「プロデューサー」としてクレジットされる人物だ。
果たして三木副編集長はエンタメノベル、そして出版編集についてどんな考えを持っているのだろうか? アニメ化が決定した『アクセル・ワールド』『ソードアート・オンライン』についても最新情報が明かされた講演の模様と共にお伝えしたい。
三木副編集長が考える次世代編集者の姿
電撃文庫は、冬の時代を迎えた出版業界にあって成長を続ける稀有な存在だ。三木副編集長は「一般文庫市場の販売部数伸び率が約85%に縮小しているなか、電撃文庫は1993年の創刊時から980%成長している」という。
そんな電撃文庫の三木一馬副編集長に、主催者から最初に寄せられた質問は「編集者・メディアミックスの仕掛け人としての三木さんとは?」というものだった。
それもそのはず、三木副編集長はこれまで、作品内容や読者層に応じて『とある魔術の禁書目録<インデックス>』のコミカライズをあえて他社媒体で行なったり、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のアニメ化発表を、アキバBlog初出にすることを発案する(関連記事)など、一編集者の枠を超えた活動をしている人物だからだ。
三木副編集長がそれに応えて挙げたのは以下の4つ。
- 作家と読者の間を取り持つ(宣伝・告知)
- 創作のサポート(打ち合わせ・イラストレーター選定)
- 担当する作品のブランドマネジメント(メディアミックスの監修)
- 出版物、派生商品(アニメ・コミック・ドラマCDなど)から利益を生み出す
このうち、1と2はいわゆる一般的な編集者の姿と重なる。しかし、3と4はこれまでの編集者の仕事の範疇を大きく超えた仕事だといえるだろう。出版不況が続く一方、新刊の発行点数が増え続けるなか、書籍を取次、書店に卸すだけでは作品を読者にきちんと届けることができない。
既存の「編集者」を越えた動きが求められており、三木副編集長がアニメにクレジットされるように、「プロデューサー」と呼んでしまったほうが現状には即しているとさえ感じられた。
次に、「電撃文庫がメディアミックスに携わることの理由や意義」を尋ねられた三木副編集長は、「自分の個人的な考え」という前振りのもと、以下の4点をその理由として挙げる。
- ユーザーニーズとして希望されている
- 他媒体、別のクリエイターが描いたとしても物語・ドラマを楽しみたいという人も増えている(お祭りを楽しむ・コミュニティー感)
- 出版社の宣伝チャンネル、プロモーションツールではカバーできないエリア(市場)へのアピールができる(××だけしか読まない、という食わず嫌いにもアピール)
- 別媒体同士の告知により、宣伝の効率化を図ると同時にそれぞれの売り上げアップも見込める
メディアミックスをやるからには、すべての媒体で多くの人の手に取られ、満足してもらいたい、と語る三木副編集長は、「空気を読むメディアミックス」の重要性を説く。具体的には以下のような点に常日頃から気を遣っているという。
- 作品を理解してくれているパートナーに託すこと(腹を割って相談できるか?)
- メディアミックスとは「他人が自分の作品を創作する」ということ。それを、原作者に理解・協力してもらえるよう、打ち合わせすること
- それぞれの業種の方々が、少しずつ妥協し、全員が8割くらいの「納得」でプロジェクトが進むときもある
- 情報が氾濫し、ユーザーの時間を奪い合うなか、曖昧模糊な態度が一番問題。コンセプトを明確に、タイトルならではのアプローチを(興味ない人は仕方がない、興味持っている人には徹底的に)
最初の項目については、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』放送時、頻繁に緊急会議が開かれていたことを明かし、深夜でも労を厭わず集まってくれるパートナーは大事だと語った。また、会場からの「電撃大賞に応募する際、公序良俗といったレギュレーションへの配慮は必要か?」という質問に対し、「出版が決まれば相談するかもしれませんが、応募作執筆時に考慮する必要はまったくありません」と答えている。