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科学と財布の限界を超え、初音ミクを“3次元”に

2011年12月06日 12時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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 暗闇の中、1枚の透明なスクリーンに初音ミクが浮かんでいる。ちょっと手を伸ばせば、長い髪にもさわれそうだ。透明スクリーンの中から、“彼女”がこちらに出てきてくれている。妄想でも幻覚でもなく、最新の立体映像技術によって。

 スクリーンに映像を出しているのは23台のプロジェクター。市販のビジネス用プロジェクターだ。特殊な合成処理を施した23枚のCGを、やはり特殊な加工を施したスクリーンに投影すると、映像の部分部分が重なり合い、あたかもそこに本物の“ミクさん”がいるような映像が合成される

 開発者は浜松市に住むAono.Yさん(25)。「Future Vision Projector」(FVP)と名付けられたこのシステムは、Aonoさん曰く「たぶん世界初」。複数台のプロジェクターを使った立体映像技術は以前からあったが、透明なスクリーンで、しかも理論ではなく実際に立体映像を映せたのは初めてという。

 Aonoさんに頼み込み、実際に見せていただいた“ミクさん”は、想像以上の出来だった。スクリーンの10センチくらい前にふわふわと浮かんでいるようなイメージで、地球をかかえているようなCGでは、本当に丸いボール状のものがそこに浮かんでいるように見える。

プロジェクターはパソコン3台で制御する。ファンからの排気音でものすごい音が響いていた

地球をかかえたようなCG。本当にボールが空中で止まっているかのように見える

 ところがだ。驚くべきことにAonoさんは研究所の職員や、大学の研究者などではない。メーカーに勤めている、ごくごく普通の会社員だ。

 こんな技術が一人で作れるものなのか。開発環境が進化しているのはもちろんだが、そこには並はずれた努力と、大量の時間、そして一個人としてはけっこうな額のお金が使われている。そこまで彼を動かしたものは、“ものづくり”そのものへの純粋なエネルギーだった。

※ モデルとなる3DCGは、角度ごと23枚に分割されたもの。合成処理が施され、現実にはありえないような遠近がつけられている。それをやはり加工を施したスクリーンに投影すると、プロジェクターからの光(映像)を縦方向に拡散。すると角度ごとに複数の映像の一部が重なって見えるようになり、それが立体のように見えるという仕組み。

ホログラフィーじゃないんだよ

―― 今回のアイデアを思いついたのはいつごろですか?

Aono 構想は大学院時代からあったんです。専攻自体は電気/電子だったんですが、研究室で偶然ホログラフィーに携わることができて。その当時、2010年の「ミクの日感謝祭」が話題になってたんですよ。

Aono.Yさん

―― ありましたね、3Dの初音ミクが出てくる。

Aono ライブとしてはすごく楽しかったんですが、Web上で「これはホログラムだ!」という書き込みを見かけたんです。それに釈然としない思いを抱いて、どうにかこれを“本物の立体映像”にできないかと。

―― あれは本物の立体映像……じゃないんですね。ぼくも漠然と立体っぽいなと思ってしまった1人です。

Aono そうなんです。透明なスクリーンに映し出すのが新しかったのと、コンテンツ(CG)の作り込みがすごく良かったというところで“立体っぽく見える”んですが。カメラ越しだと特に立体映像に見えますが、1台ないし2台のプロジェクターで投影しているだけで普通の映像なんです。透明じゃないスクリーンもあったと思うんですが(ミクパ 東京公演/2011年)、イメージ的にはリアプロジェクションテレビと似たような仕組みです。

ミクの日感謝祭(2010)

―― ホログラフィーというのはどういうものなんですか?

Aono 要は3次元の写真といったイメージと思っていただければいいです。

―― 3次元の写真?

Aono 写真というのはレンズを通して見た映像を2次元の平面に記録する媒体なんですが、ホログラフィーは同じような感覚で、3次元的な情報を記録するものなんです。ホログラムのフィルムに、干渉縞という縞を記録する。ものすごくいろんな情報を持った干渉縞がフィルム上に記録されると、人間がそこにいるときと同じだけの情報量になると。

―― なるほど、それを考えると確かに全然ちがいますね……。

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