ハイエンドを欲したインテル
既存システムの置き換えを狙ったHP
HPはそれ以前に、イリノイ大学サイエンスラボラトリー内にある「IMPACT」という研究グループと共同で、このEPIC向けのコンパイラーの開発をスタートしている。一般論として、VLIWはコンパイラーが性能の鍵となるからで、これはインテルによるコンパイラー開発とは別に進められた。2001年10月はこれにある程度目処が付いた時期であるが、IMPACTとの共同開発によっても、800MHzのPentium IIIと大差ない性能だったというのはどう評したものか……。
性能の話は後で触れるとして、まずはインテルとの共同開発について話そう。インテルはインテルでこの当時、製品ラインナップにハイエンド向けCPUがどうしてもほしかった。というのも、Xeonをベースにしている限り、最大でも4プロセッサーまでの構成しか提供できなかったからだ。もちろんXeonをベースにした6~8プロセッサーや、それ以上のシステムは現実に存在する。だが、これらは各サーバーベンダーが独自に実装した製品であり、インテルのチップセットを使ったものではなかった。
インテルはその後、Xeonで8プロセッサー構成をサポートする「Profusion」チップセットを提供していた米Corollary社を買収。8プロセッサー構成をサポートしたチップセットをリリースすると発表したものの、話はそこで消えてしまった。このProfusionもインテルの黒歴史のひとつだったりするのだが、今回は割愛する。
現在であれば、「4プロセッサー構成のXeonサーバーを複数台使い、クラスターを組めばいい」という発想になるが、当時クラスターの技術は今ほど進んでいなかった。だから、どうしても密結合の大規模マルチプロセッサーシステムでないと、IBMやSun Microsystemsが握っていた大規模サーバーの牙城を崩すのは難しいと判断されたわけだ。
また、既存のアーキテクチャーのリプレースも期待された。COMPAQは1997年にTandem Computerを、1998年にはDECを買収していた。Tandem ComputersはMIPSベースのCPUを、DECはAlphaを利用したスーパーミニコンを提供しており、両社のシステムは広い範囲の顧客に販売されていた。
特にTandem Computerが提供していた「NonStop」シリーズは、その名のとおり「絶対に止まらない」ことを売りとした製品で、こうした特長を必要とする銀行・証券会社や、広い意味での産業インフラ向けに採用されていた。Alphaも似たようなもので、こちらもさまざまなインフラ向けに採用されていたから、これらの製品ラインを維持することはCOMPAQにとって必須事項であった。
だからといって、COMPAQ一社で両方の製品ラインを維持してゆくのは困難である。COMPAQはさらにx86ベースの製品を、これも自社製チップセットで提供していたりしたから、合計3アーキテクチャーを維持する必要が出てきたためだ。これはいくらなんでも無理というもので、結果としてTandem、Alphaの製品ラインは両方とも、COMPAQの買収直後にItaniumベースへと移行することが決定された。
Tandemの方はローエンドをx86ベースで置き換えて、ハイエンドをItaniumに移行する。Alphaの方はそのままItaniumに移行することが決定され、それぞれOSの移行やアプリケーションの移行を、急ピッチで進めることとなる。そのCOMPAQは2001年にHPに買収されたが、HPとしてはPA-RISC/Alpha/Tandemの3アーキテクチャーをすべてItaniumベースでまとめられることになるわけで、これはインテル・HPの両社にとって都合のいいものだった。
こうした流れはさらに続く。やや後になるがNECは2004年に、これまで自社でプロセッサー開発をしていたサーバー製品「ACOS」シリーズを、Itaniumでリプレースすることを決定した。同社の場合、やや下位モデルにあたる「NX」ファミリーにはPA-RISCを採用しており、こちらはいち早くItaniumに置き換えられた。
ハイエンドに当たるACOSの場合、もちろん既存ソフトとのバイナリー互換性は皆無なのだが、これをエミュレーションで対応するという大胆な決断を下した。結果として、NECが顧客として保持している基幹システムに、Itaniumが全面的に採用される形になった。HPやインテルが当初想定したペースには到底達していないとはいえ、ハイエンド向けのソリューションが欲しいというインテルの希望は事実上叶えられたことになる。そんな理由もあって、“Itanium全体”を黒歴史扱いするのは、適当ではないというのが筆者の見解である。
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