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クラウドを最大活用できる「コンバージェンスサービス・プラットフォーム」

富士通、世界初のビッグデータ対応PaaSを発表

2011年08月31日 09時00分更新

文● 渡邊利和

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8月30日、富士通はさまざまなセンサーから収集されるデータなど、いわゆるビッグデータを蓄積、統合してリアルタイムで処理したり分析を行なうなどの機能を提供するPaaSプラットフォームとなるクラウド基盤「コンバージェンスサービス・プラットフォーム(仮称)」を開発中であることを発表した。

 

ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティを実現する
コンバージェンスサービス

 富士通は、ITCの利活用によって実現する将来の社会のビジョンとして「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ(Human Centric Intelligent Society)」を掲げている。直訳すると、“人間中心のインテリジェント(知的)な社会”という感じになるだろうか。

 

富士通 執行役員常務 コンバージェンスサービスビジネスグループ長 川妻 庸男氏

 概要説明を行なった同社の執行役員常務 コンバージェンスサービスビジネスグループ長の川妻 庸男氏は、具体的なイメージとして「SNSで交換されるメッセージを解析し、“雨”“傘”といった語を含むメッセージの発信密度がある駅の周りで急増したら急な降雨があったと判断してタクシーをその駅に重点配車する」といった例や、「重工業分野のプラントで様々なセンサーからの通常と異なる兆候をいち早くつかんで的確な設備保全を促す」「民家の玄関ドアが開いたことを検出した後に屋内の人感センサーが反応したら居住者の帰宅、屋内の人感センサーが最初に反応し、その後玄関ドアが開いた場合は侵入した不審者が出ていった、と判断する」といった例を挙げた。

 

 現在、おもにストレージ分野での直近の課題として「ビッグデータ」と呼ばれる大量データの生成が予測されており、これを活用することが企業活動において重要な意味を持つようになるといわれている。同社が掲げるヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティは、さまざまな機器や社会のあちこちに大量のセンサーが配置され、そこで得られた膨大なデータを的確に処理/分析することで、より暮らしやすい社会を実現していく、というコンセプトだと考えて良さそうだ。その上で、現時点ではこうしたビッグデータを適切に扱えるコンピューティングプラットフォームが未整備のままになっているので、富士通がいち早く実現に向けて動き出した、ということになる。

 

インテリジェントソサエティとヒューマンセントリック・コンピューティングの関係

 なお、ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティはあくまでもビジョンであり、このビジョンを具体化するためのアーキテクチャが「ヒューマンセントリック・コンピューティング」、さらに、このアーキテクチャを実装し、具体的に提供する形態としては「オンプレミス型」と「クラウド型」の両方が想定されている。今回発表されたのはクラウド型で、オンプレミス型については今後具体化していくことになるだろう。

 

コンバージェンスサービス・プラットフォームの概要

 富士通では「コンバージェンスサービス」を「大量のセンシングデータを収集、蓄積、分析し、知恵を組み合わせ、人々をナビゲーションするサイクルを実現し、企業の課題から地球規模の課題までを解決、豊かな社会を実現していくサービス」だと定義している。

 

世界初ビッグデータ対応のPaaS「CSPF」の特徴

 今回発表されたコンバージェンスサービス・プラットフォーム(CSPF)は、コンバージェンスサービスを実現するための具体的なミドルウェアの組み合わせであり、CEP(complex Event Processing、複合イベント処理)といったコンセプトを取り込んだ、リアルタイム処理とバッチ処理の両方をサポートする。内部では、Hadoopによる分散ファイルシステム(HDFS)や並列分散処理(MapReduce)といったオープンソースソフトウェアが活用されているほか、富士通の既存のアプリケーション実行基盤「Interstage」や、富士通および富士通研究所で開発された新技術なども組み合わされる。

 

CSPFの全体像

CSPFのコンポーネント構成

 データ処理には、センサーから刻々と送られてくるデータをリアルタイムで処理していくCEP的なアプローチに加え、こうしたデータを「ロギング」というプロセスを経てストレージに蓄積した上で、既存のBAやBIといったツールを応用する形でバッチ処理的な分析を行なうアプローチの両方がサポートされる。データの蓄積の際には、イベントの発生日時や地理情報などをタグとして付与し、さらに自動的にカテゴリ分けを行なった上で記録することで情報の管理・統合を効率的に行なう工夫もなされているという。

 

自動カテゴリ格納技術

データから情報、サービスへの流れ

 技術面の詳細を説明した同社のクラウドプラットフォーム開発本部 コンバージェンスサービスプラットフォーム開発統括部長の藤田 和彦氏は、「センサーから送られてくる単なる『バイナリデータ』にタグを付与することで、意味のある『情報』に変えることができる。さらに、この情報の集積から『コンテキスト』を抽出することで人間にとって有用なサービスを実現できる」と語った。

 

富士通 クラウドプラットフォーム開発本部 コンバージェンスサービスプラットフォーム開発統括部長 藤田 和彦氏

 PaaSとして提供されるCSPFはマルチテナントをサポートし、複数のユーザー間を分離してセキュリティを維持するのは当然だが、ユーザー間で安全な情報交換/情報融合をサポートすることも想定されているという。たとえば、ある企業がセンサーを設置して収集したデータを他の企業が独自の手法で分析する、といった企業間の協業がCSPFを介して拡大していくことも考えられる。最初に川妻氏が挙げた例で言えば、気象データサービス企業が収集したデータを元にタクシー会社やコンビニなどがそれぞれ独自のサービスに結びつける、といったシナリオになるだろう。

 

 CSPFは、富士通がアプリケーションの開発までをサポートする「インテグレーション型」、ユーザーが独自にアプリケーションを開発する「アプリ・サービス型」、ユーザーが他者向けにデータ提供を行なう「データ型」など、さまざまな利用が想定されているという。ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティといったコンセプトはこれまでもさまざまな企業がそれぞれに取り組んできているものではあり、その点では特段目新しいというわけでもないのだが、多くは「将来のビジョン」として語られる段階であった。一方、富士通のCSPFは単なるビジョンではなく、具体的な実装やサービスの提供開始が見えてきて段階にある点で、一歩先に進んだと評価できるだろう。

 

CSPFの提供ロードマップ

 今年第4四半期に先行版(V.1)の提供を開始、2012年第2四半期にV.2の提供を開始する予定。価格等の詳細は現時点では未発表となっている。

 

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