iPhoneユーザーの4人に3人はGSMを利用
そんな中国におけるiPhoneユーザーの実態はどうなのだろうか。中国の調査会社「iResearch」の調査結果「中国iPhone用戸使用調査報告(iResearch China iPhone User Research report)」から紐解いていこう。どれも日本のユーザーとはかけ離れていて面白い。
iPhoneを扱うキャリアは、中国でも例外に漏れずWCDMA方式を採用する「中国聯通(China Unicom)」である。「中国移動(China Mobile)が採用する中国独自規格の方式『TD-SCDMA』版のiPhoneを出してほしい」と中国側からアプローチがかかったが、今のところ未発売だ。
さて、中国聯通はソフトバンクモバイル同様「長期特定プラン契約で端末無料」といったお得なプランを提案している。にも関わらず、ユーザーの利用するキャリア実態は中国移動が60%、中国聯通が40%と、なぜか中国移動が人気だ。
実はこれ、中国移動の3G(TD-SCDMA)ではなく2G(GSM)をユーザーは利用しているのだ。全体の4割のユーザーを抱える中国聯通に関しても、3Gを利用する人は66.4%で、残りが2G(GSM)であるということも判明している。
つまり、全iPhoneユーザーのうち、3Gを利用しているのは40%×66.4%=26.56%、およそ4人に1人で、残りの4人に3人はGSMを利用しているわけだ。どうも3Gなしの無印iPhoneでも通信スペック的には多くの中国人は気にしないらしい。
ちなみに、そんなGSMのSIMカードを挿したiPhoneが多い中国でも、iPhoneを用いたインターネット利用頻度は「毎日複数回(54.5%)」が最も多く、その他の回答は「毎日1回(20.6%)」「毎週1~2回(9.6%)」「毎月2~3回(3.5%)」「利用しているが頻度はばらばら(9.4%)」となった。
「iPhoneでインターネットを利用しない」としたのは僅か2.4%である。となると「iPhoneから毎日2G回線でインターネットを利用している」というのが、多数派の中国人のiPhone利用実態らしい。
ひょっとして「初代iPhoneユーザーが多いのでは?」と、ユーザーのハードウェアバージョン別シェアを見てみると、実に初代iPhone(8GB)が全体の23.7%と最大派閥であった。初代16GB(12.7%)と合わせれば、iPhoneユーザー全体の36.4%が初代ユーザーである。
逆に最新のiPhone4ユーザーは同全体の22.5%(内訳は16GBモデルが17.6%、32GBモデルが4.9%)である。2G利用か3G利用かは不明だが、最新製品を利用したい層もそれなりにいて、ストレージのサイズよりも処理速度を重視する傾向にあるようだ。
半数以上がAppStore以外でコンテンツを入手
iPhoneといえば「AppStore」だが、中国人ユーザーはそれだけを使ってソフトをダウンロードするわけではない。「iPhone向けアプリをダウンロードする際に最も利用するサイト」は、AppStoreがトップではあるがその割合は僅か42.5%。半数以上がAppStore以外をメインにソフトをダウンロードしているというのだ。
普段利用するアプリのジャンル別では「ゲーム(73.9%)」を筆頭に「音楽(70.0%)」「天気(66.7%)」「ニュース(66.3%)」「エンターテインメント(66.0%)」とある。ただ、そもそも質問項目自体に「ビジネス」の選択肢が入ってないだけに、中国での常識はiPhoneはエンタメマシンなのかもしれない。
同レポートでは「iPhoneユーザーがダウンロードするコンテンツ」に絞っての調査も実施されており、それによれば最もダウンロードするコンテンツは「音楽(32.9%)」となっている。以降は「映画(19.4%)」「着信メロディ(11.2%)」「雑誌(9.7%)」「壁紙(5.8%)」「個人撮影のオリジナル動画(5.8%)」「テレビ番組(5.0%)」という順番だ。
それとは別に、73.9%のiPhoneユーザーが頻繁にゲームを遊び、85.1%のユーザーが頻繁に電子書籍を読む。音楽と映画が突出して人気であること、電子ブックが人気であることからも想像できようが、現にAppStore以外の中国系サイト(どことは言わないが)では日本オリジナルのものも含めた漫画・テレビコンテンツ・映画などの海賊版コンテンツが多数アップされているし、無許可で中国の雑誌をiPhone向けに配信して民事訴訟となったケースもある。
有料コンテンツによるビジネスは厳しいが……
その他のデータを紹介すると、男女比はインターネット利用者全体ではほぼ1:1だが、iPhone利用者に絞ると男性が68.4%となる。
年齢別では、インターネット利用者全体と比べてiPhone利用者は25~34歳に集中(58.6%)しており、学歴でも大卒ないし院卒が多い(69.7%)。インターネット利用者の平均よりも高いのが特徴である。
携帯電話でのインターネット利用歴は1~3年、PCでのインターネット利用は10年前後のオールドユーザーが多い。
ユーザーの34.4%が月収5000元(約6万3000円)以上の高所得者だが、それでも前述のとおり、特に外国版コンテンツを中心にAppStore以外を通した海賊版ダウンロードが容易にできる状態にあり、有料コンテンツによるビジネスが難しいことは頭に入れておくべきだろう。
逆にAppStoreで、中国のリッチユーザー向けに日本(企業)をPRする内容の中文コンテンツを用意できれば、リッチな消費者が読んでくれるとも解釈できる。
中国での出版やサイト開設が難しいことを考えると、iPhone向けアプリは中国人に直接訴えることができるプラットフォームになりえよう。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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