「昨年、大谷さんに記事を書いていただいたバーチャルイベントが、けっこう実績ができてきたので、またご取材いただけませんか?」と、アイティメディアの阿部川さんからメールが来た。一応、御社とは競合なんですけど……。うちはこういう事業やってないし、まあいいか。
好調バーチャルイベントの最新動向
バーチャルイベントとは、文字通りネットで展開される展示会やショールームのこと。アイティメディアは2009年から米国のON24という会社と提携し、日本で独占的に事業展開を進めている。詳細については2010年9月に開催した「ITmedia Virtual EXPO 2010」のタイミングで掲載した記事を一読いただきたい。ちなみに当記事は掲載当初はイベント名でググると、ITmediaの紹介記事より上に(アスキーの私の記事が)リストされていたため、担当としてほくそ笑んでいた次第だ。
つまらない自慢話はともかく、バーチャルイベントは実績を重ねているという。一言でバーチャルイベントといっても、いわゆる展示会形式のEXPOタイプと1社でやるショールームタイプ、そしてWebキャストの3つの商品がある。EXPOタイプのITmedia Virtual EXPOはのべ8000人の来場者があり、会期も延長したとのこと。近々では月に1回ペースでバーチャルイベントを開催しているという。
メモリアルなイベントとしては、年始に行なわれたソフトバンクBBのパートナー向けイベントが挙げられた。「リアルイベントをフォローする形で、バーチャルイベントを行なうという例は多いのですが、ソフトバンクBBさんは全国5箇所のリアルイベントをすべてやめて、1ヶ月間のバーチャルイベントのみ開催したんです」(阿部川氏)とのことで、日本では珍しいケースと話す。20近いWebキャストが用意され、ユーザーの登録数もリアルイベントに比べ、ほぼ2.5倍近くに増加したとのこと。バーチャルであることの不安を払拭した形だ。
サービス面での更新点は、まず3月に価格を下げたほか、イベントとWebキャストをまとめたパッケージ商品の提供を開始した。また、ON24という海外のサービスを使っている関係で、顧客データベースが海外にあるという課題もオペレーションの工夫で解消したという。機能面ではソーシャルメディアとの連携を強化したほか、ウィジェッドを増やして、より使いやすくした。現状はFlashベースだが、近いうちにiOSにも対応。iPadなどを使って、外出先から参加することも可能になる。
やっぱりシャイ?悩みはコミュニケーションの場
出展社やユーザーの満足度も高いという。「登録数が整うと、来場者の来訪率は高いのが特徴です。リアルイベントのフォローとしてバーチャルイベントを行なうと、来場者が7%程度増えるという統計も得られています。また、リアルイベントで見られなかったトラックの閲覧も約2倍増えています」(櫻井氏)。カスタマイズが細かくできるため、リアルイベントでブースを作るのと同じくらい準備に手間がかかるという不満を訴える出展社もあるが、8割方をテンプレート化することで、スピーディな導入も実現できるとのことだ。
一方、運営側の悩みを聞くと、「コミュニケーション」という答えが返ってきた。リアルイベントでは説明員に直接質問できることが大きな魅力だが、バーチャルイベントだとチャットが煩わしいという人もけっこういるようだ。出展者の希望でチャット自体をとってしまったところもあったという。しかし、コミュニケーションはこうしたイベントの目的の1つでもあるので、やはり増えたほうがよいに決まっている。
阿部川氏は、「mixiやTwitterがこれだけ使われているのですから、コミュニケーションができないわけではないと思います。ですので、気軽に聞ける場をうまく演出する必要があります」と話す。たとえば、時間を区切って、特定の話題について討論した「スケジュールチャット」という試みは成功したとのこと。そもそも「チャット」という名称でいいのかという話も含め、コミュニケーションの手段や場所については、今後も試行錯誤していくという。
余震や計画停電を考えれば有効な選択肢
今後の予定としては、「まず弊社の決算発表会がバーチャル化します」(阿部川氏)といった試みのほか、震災の復興や支援を目的にしたサイト「復興スマートジャパン」においても、数多くのWebキャストを展開していく。自らの身をもって、バーチャルイベントを啓蒙していくということだ。もちろん、昨年開催したITmedia Virtual EXPOも開催する予定で、バーチャルイベント全体で昨年の2倍の開催を目指す。
震災で多くのリアルイベントが中止になったが、「今後は、都内の会場に200人とか集めても、停電や余震が起こるリスクがあります」と、阿部川氏は指摘する。これを考えると、確かにバーチャルイベントは有効な選択肢になるといえる。今後はより面白いイベントが期待できそうだ。