本格的IPv6時代に向けてIPv4アドレスがいつか枯渇するという話は10年以上も以前から語られてきたが、ついにそれが現実のものとなった。これまでNATなどの技術によってIPv4アドレスの延命が図られきたが、それもまもなく限界を迎え、IPv6への移行を迫られることとなる。IPv4アドレスが枯渇することによって、われわれにどのような影響がおよぶのだろうか
※この記事は弊社刊行ASCII.technologies2011年3月号の特集1「IPv6 最終案内」の一部を抜粋したものです。最新のASCII.technologiesは、オンラインショップおよびお近くの書店でお求め下さい。
目前に迫ったIPv4アドレス枯渇
2011年は、IPv6が多くのネットワークエンジニアにとって対応すべき緊急課題となるかもしれない。昨年末の時点で、IANA(Internet Assigned Numbers Authority)の未割り当てIPv4アドレスブロック(/8のアドレスブロック)は残り7つとなった。実際には、IANAのアドレス分配のポリシーにより、残り5ブロックとなった時点でRIR(Regional Internet Registry:地域インターネットレジストリ)と呼ばれる5つの下部組織に1ブロックずつ分配されることが決まっている。そのため、実質的な残りブロックは2ブロックである。しかも、割り当ては2ブロック単位で行なわれるため、あと一度の割り当てで枯渇が決まる。IANAにおけるアドレス枯渇のXデーは、2011年3月ごろと予測されているが、前倒しになる可能性は高い。
今回注目されているのは、IANAのアドレス在庫である。実際には、まだRIRに在庫が残っているので、いきなりユーザーがアドレス不足に直面するわけではない。とはいえ、日本が属するAPNICの声明によれば、APNICのアドレス在庫が枯渇するXデーは2011年第4四半期ごろと予測されている。IANA のアドレス枯渇から若干時間の余裕はあるが、それでも2011年中には日本も新たなIPv4アドレスの割り当てができなくなる事態が予想される。
IPv4アドレス枯渇でなにが困る?
現在、IANAからRIRへ分配されるアドレスブロックは「/8」ブロックだ。RIRから下位組織へは、需要に応じて細分化した形で分配される(下図)。RIRごとに分配最少サイズの規定は異なるが、日本に関係するAPNIC(Asia Pacific Network Information Centre)では、「/22」を最少ブロックとしている。最終的には、NIR(National Internet Registry:JPNICなど)やLIR(Local Internet Registry)がRIRからIPアドレスの分配を受け、エンドユーザーにアドレスブロックを割り当てる。
IPv4アドレス枯渇が目前に迫っているとはいうものの、テレビの地デジ対策ほどの大がかりなキャンペーンは行なわれていない。漠然とした、IPv4アドレス枯渇という危機感だけが伝えられているのが実情だ。このまま、安穏としていてよいのだろうか。IPv4アドレス枯渇によって、インターネットの利用にどのような影響があるのか考えてみたい。
まず1つの事実として、IPv4アドレス枯渇したからといって、すでに利用しているWebサーバーやメールサーバーに割り当てられた固定IPアドレス(グローバルIPv4アドレス)や、ISPからIPCPやDHCPで割り振られるアドレスが突然使えなくなるわけではないということを確認しておきたい。結論からいうと、これまでどおり問題なくインターネットを利用可能だ。
IPv4アドレス枯渇の影響は、新規にWebサイトを構築するような場合に固定IPアドレスが割り当てられないといった状況が考えられる。新規サイトの立ち上げにおいてIPアドレスがもらえない場合、ホスティングサービスを利用するユーザーが増えることになるだろう。
ホスティングサービスを提供する事業者にとっては、サーバー機1台あたりの稼働率を高められるメリットはあるが、ハードウェアの処理能力には限界がある。つまり、利用者が増えればサービス品質を維持するためにも機器を増設しなければならないわけだ。これでは、IPアドレスを必要とするポイントが別のところに移ったにすぎない。
また、インターネット接続を提供しているISPとユーザーのあいだでも困ったことが起こることが懸念される。現在のインターネット接続は、安価なブロードバンド回線の普及にともなって「常時接続」が一般的となっている。企業や個人宅に設置されたブロードバンドルーターは、ISPから割り当てられるIPアドレスを常時接続環境で握り続けることとなる。これは、ISPのユーザーの数が、ISPの保有するIPアドレス数に制限されることにほかならない。
影響を受けるサービスとしては、モバイル端末のインターネット接続も大きい。モバイル環境であっても、インターネットに接続するためにIPアドレスが必須なのは変わらない。モバイルインターネットの実現手段には、3Gケータイのデータ通信サービス、WiMAX、Wi-Fiスポットなどがあり、端末契約数は優に1億台を超える。
ほかにも、IPアドレスが使われるところにIP電話がある。古くから使われている固定電話サービスも、多くがIP電話へと移行した。このように、IPアドレスが必要となるシーンが増えている。IPアドレスが枯れようかという状況で、このままISPがアドレス在庫以上にユーザーを抱えることになれば、いずれ端末にアドレスを割り当てられなくなり、インターネット接続ができなくなるかもしれない(下図)。
(次ページ、なぜIPv6の採用が遅れているのか)
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