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ネットワークの禁忌に触れる 第8回

FTTHを支えるケーブルの特性を知ろう

光ファイバは曲げるとどうなる?

2011年01月11日 06時00分更新

文● NETWORK MAGAZINE

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 FTTHサービスの普及に伴い、一般家屋にも光ファイバが引かれるケースが増えてきた。建物内の配線に既存の電話回線を使うマンション用コースでは、光ファイバを直接目にすることは少ないだろう。しかし一戸建て用コースでは、屋内に終端装置を設置し、そこまで光ファイバを引き込む方式が一般的だ。そのため、実際に光ファイバを見ることも増えている。

 さて、FTTHを導入したら、引き込み工事終了後に「このケーブルを折り曲げないように注意してください」と工事担当者にいわれた経験を持つ人もいるだろう。100BASE-TXなどで使う銅線は、結んだり、踏みつけてもあまり問題はない。しかし、光ファイバは曲げに弱いため、扱いに注意が必要とされているのだ。

曲げてはいけないケーブルを曲げてみた

 いったい、光ファイバを曲げるとどうなるのだろうか。光ファイバにはいくつもの種類があるが、今回は、光を通す「コア」の直径が9μm(0.009mm)の「シングルモード光ファイバ(SMF)」と、直径50μm(0.05mm)と62.5μm(0.0625mm)の「マルチモードファイバ(MMF)」を用意した。

写真1 曲げに弱い光ファイバケーブル

 SMFは長距離通信に適したケーブルで、最大伝送距離が5kmの1000BASE-LXに使われているタイプだ。FTTHに使われるケーブルもSMFが多い。SMFは、コアが細いことから製造コストがかかり、また曲げにも比較的弱いとされている。一方のMMFは、製造コストが安価な代わりに、伝送距離が短いケーブルだ。最大伝送距離550mの1000BASE-SXなどに使われている。

 これらのケーブルを曲げた状況を作るため、半径50mmから5mmまでの11種類の木柱を用意した(図1-1)。この木柱に光ファイバを巻き付け(図1-2)、その際の通信状況をフルーク・ネットワークスの「DSP-4000」で測定する(図1-3)。DSP-4000は、銅線のCAT6ケーブルや光ファイバに対応した、ハンディタイプのケーブルテスタである。

図1 光ファイバを曲げて通信状態を測定する

 測定の結果が、表1となる。曲げ半径35mmまでは、どのファイバもいっさい損失が見られなかった。30mmでは、50μmのMMFにわずかな損失が現われたが、データ通信に影響は出ない程度と思われる。ちなみに、多くの光ファイバメーカーでは、伝送損失の増加や通信の信頼性低下がほとんど生じない限界である「最小曲げ半径」を30mmとしている。

表1 曲げ実験の結果

 その後、半径を小さくするにつれ損失が増えてきたが、7.5mmまでは全ファイバで通信が行なえている。最後の5mmにしたところ、SMFだけが通信不能となった。SMFは曲げに弱いとされていることが実証された形だ。

なぜ、曲げてはいけない?

 そもそも、光ファイバはなぜ曲げに弱いのか。それは、光ファイバで光信号を伝達する仕組みに由来している。光ファイバは、屈折率の高い材質で作られたコアを屈折率の低い「クラッド」で覆う構造になっている。コアに光を送ると、コアとクラッドの境目(境界面)を反射しながら、コアの中を進んでいく(図2)。なお、空気中から水の中など、光は別の物質の中に入ると、その境界で方向が変わる。この角度が屈折率で、物質の種類のよって値は異なる

図2 光ファイバの仕組み

 光ファイバがまっすぐな状態では、光は境界面に対して一定の角度でぶつかり、一定の角度で反射してくる(実際の角度は材質や直径によって異なる)。ところが、光ファイバを曲げると、境界面の角度が変わるため、光がぶつかる角度が異なってしまう。すると、光が境界面で反射せずクラッドに漏えいしてしまうことがある。曲げの角度が大きくなり、漏えいが増えると、通信できなくなってしまうのだ

 また、光ファイバを強く曲げると、コアが断線する危険もある。実は、コアが断線しても断面がぴたりと合わさっていれば、光が通るため通信は行なえる。しかし、曲げによって断線した場合、断面がずれてしまう。そのため、光が通らなくなり、通信できなくなる。当然、こうなったら光ファイバごと交換しなくてはならない。

 こうしたことから、光ファイバは曲げに弱いのだ。曲げに強い光ファイバの開発も進んでいるが、やはり曲げすぎたり踏みつけることのないよう注意したい。

 本記事は、ネットワークマガジン2007年1月号の特別企画を再編集したものです。内容は原則として掲載当時のものであり、現在とは異なる場合もあります。

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