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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

サイボーグ女子高生とデジタル教科書

2010年05月31日 12時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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 ここ1ヵ月ほど、iPadを米国から取り寄せて使っている。電子書籍や雑誌アプリを落としていじったり、キンドル(Kindle)との使い勝手を比較したり(関連記事)、iBooksで読めるePub形式のファイルを生成するソフトもいろいろ試したりしていた。そうした中で感じるのは、iPadはやはり物理的な形や大きさがすべてだ、といってもいいことだ。

 iPadの9.5インチの液晶画面は、実測で、タテ・ヨコ約19.5ミリ×14.5ミリ。これは、紙のサイズでいえばA5正寸よりやや小さい。本体をヨコにして左右見開きにして読む場合には、1ページがほぼA6判。これは本の高さで新書よりも低く、ほぼ文庫本サイズとなる。


「iBooks = 日本の文庫本」
の表現力

 iPadは、タテ(業界用語でポートレイト)とヨコ(同ランドスケープ)で、画面が自動的に回転するようになっている。これで、文庫本の2倍の広さになるが、それでも週刊誌や大判の雑誌は窮屈な表現にならざるをえない。米国のZinioや日本のMAGASTOREなどは、A4判くらいの雑誌をスケールダウンしてiPadで供給している。これがどう受け入れられるのかは、ちょっぴり疑問ではある。

 しかし、Kindleもリリース直後は書籍というよりも新聞が読めることが受けたという議論もある。アップルが、雑誌の世界をiPadに引き込みたいと考えないのもおかしいと思うのだ。Kindleの「ウィスパーネット」(いつのまにか新聞を配達してきているとか、パソコンで注文した本がいつのまにか入っている)の威力は、使ってみた人にしか分からないと思う。

 2004年頃の電子書籍にくらべて通信インフラが全然違うというわけだが、逆に、電子書籍自体は1990年代前半のCD-ROMタイトルとたいして変わらないという意見もある。iBooksの『クマのプーさん』にしろ、絵本アプリの『Alice in Wonderland』にしろ、アップルも推薦している理科教材の『Elements』も、まあどこかで見たような内容だというのはたしかだ。

 しかし、それでもなおiPadと1990年代のCD-ROMタイトルでは根本的な違いがある。それは、iPadは「手」で持って読むということだ。今年1月にiPadが発表されたときに、ジョブズがソファに座ってデモした姿そのままともいえるが、タブレット型という端末の形状が、「電子書籍」を電子の「書籍」たらしめているのである。

 このあたりの感覚を、実は、東京学芸大学の大学院生たちはキチンと認識していた。だからこそ、彼らの電子書籍端末もタブレット型(+スマートフォンの合体)という形になったということだ。しかし、そこまで理解している割には、彼らの端末は、いくらなんでも多機能過ぎると思われないだろうか。朝起きた瞬間から――そこまではプレゼンはなかったが――寝ている間までお世話になりそうではないか?

 「これって、デジタル教科書というよりもサイボーグですね」とわたしは口走ってしまった。

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