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Flash for iPhoneの衝撃 これから何が起こる?

2009年10月17日 15時27分更新

文● 深津貴之/fladdict

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「Flash for iPhone」という新たな一手

 MAXの基調講演では、次期「Adobe Creative Suite」(CS5)に含まれるFlash Professional CS5にて、iPhoneアプリを直接作る「Flash for iPhone」をサポートすると発表していた。

 この機能を使えば、ActionScript 3.0(AS3)によって作成したコンテンツを、iPhone用のネイティブアプリとして書き出せる。つまりFlashの開発者は、iPhoneアプリの開発に必要な言語(Objective-C)やツール(XCode)の使い方を習得せずに、自分のFlashコンテンツを直接、iPhoneアプリ化できるようになるのだ。

 ここには大きな発想の転換がある。iPhoneにFlash Playerを搭載したり、Flash PlayerをApp Storeで公開することはできないが、FlashコンテンツをiPhoneアプリにしてしまうならどうだろうか?

 Flash for iPhoneは、Low Level Virtual Machine(LLVM)を用いることで、AS3からARMアセンブリコードを出力して、iPhone用のネイティブアプリを直接作成する。書き出されたバイナリは、XCodeによって作られる通常のiPhoneアプリと何ら変わりがない。iPhoneアプリはアップルの審査を受けてから公開されているが、その審査基準に抵触しない限りは、アップルとしても拒否する理由はないだろう。

 Flash for iPhoneを使うことで、基本的にFlashで制作されたコンテンツの大半は、そのままiPhoneアプリとして利用可能となる。もちろん出力されるアプリは、マルチタッチや加速度センサー対応など、Flash Player 10.1およびAIR2でサポートされた新機能を使うことができる。

 例外は、Flash for iPhoneで作られたアプリでは、ネットからSWF(Flashの再生ファイル)を動的に読み込んだ場合、そのSWF内に含まれるAS3のコードを実行する権限がないことと、「PixelBender」と呼ばれる画像処理スクリプトエンジンが使えないことである。これは、iPhoneのプログラム開発者ライセンスに、スクリプトエンジンおよびJITコンパイラの組み込みを禁止する条項があるためだ。

アドビが公開しているFlash製のiPhoneアプリ一覧

 MAXの基調講演では、iPhone上で動くFlash製のコンテンツとして、アニメ「サウスパーク」風のキャラクターを作れる「South Park Avatar Creator」(iTunes Storeで見る)など、いくつかのアプリが紹介された。アプリの一覧はアドビのサイトで確認できる。これらは開発中のCS5で作成されており、すでにアップルの審査を通ってApp Storeで購入できる。

 公開されたアプリを実際に試してみた限り、多少フレームレートが低いものの、Flashを用いて十分に実用に足るiPhoneアプリが作れるという印象だった。

South Park Avatar Creator


iPhoneアプリをウェブでPRできる

 iPhoneアプリの開発環境にFlashが加わることで、何が変わるだろうか。単純に考えれば、ウェブ系制作会社やFlashの個人製作者におけるiPhoneアプリ参入が増えて、FlashゲームのサービスなどもiPhone化が積極的に押し進められるだろう。App Storeで公開されるアプリは爆発的に増えることとなる。

 ただ、変化はそれだけには留まらない。

 Flashで作られたiPhoneアプリは、ほんの数行の修正、iPhone依存の処理を取り除くだけで簡単にウェブ版やAIR版を作り出せる。これを利用すれば、ウェブ上で体験版を無料で提供しつつ、App Store上でiPhone版を有料を提供する、といった新しい配信モデルが実現できるようになるのだ。

 iPhoneデベロッパーにとって、App Storeでのアプリ販売は、ランキングと新着以外で露出を確保することが難しいという問題点があった。Flashベースのアプリなら、ウェブブラウザー上で実際に動く体験版も作れるので、この問題を克服できる可能性がある。

 Flash Professional CS5のパブリックβは、2009年末にアドビの実験サイト「Adobe Labs」にてリリースされる予定だ。Adobe CS5および同Flash Pro CS5の具体的な発売日、および価格についてはまだ発表されていない。現状は、Flash Pro CS5のみの対応だが、将来的にはFlash Builderなど、ほかの関連開発環境からの出力も可能になる予定である。


筆者紹介──深津貴之


iPhoneにて、「ToyCamera」や「TiltShift Generator」といったカメラアプリを中心とした作品を発表するインタラクティブデザイナー。FlashとiPhone両方のコンテンツ制作を手がけている。今後は、国内アプリのブランド化や海外展開、アプリケーションユーザインターフェースなどのコンサルティングを始める予定。自身のサイトはこちら



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