Linuxザウルスは世界にはばたけるか?
SL-A300の型番にある「SL」は「Sharp Linux」の略で、組み込み版のLinuxを搭載していることを示している。
シャープは以前から海外向けのザウルスには、開発者や企業ユーザーに通りのいいLinuxを採用すると公言しており、2001年11月には開発者向けの「SL-5000D」、今年3月には一般向けの「SL-5500」を欧米市場に投入している。国内向けモデルでは引き続き従来の独自OS(Zaurus OS)を搭載した製品も販売されるが、2種類のOSをサポートしていく負荷は大きい。今回日本市場向けに新設計のLinux搭載ザウルスが登場したことで、ザウルスにおけるLinuxのプレゼンスが高まったことは確かだろう。
画面3~8 「LinuxザウルスのGUI」。SL-A300のGUIはLinuxを意識させないものになっている。ホーム画面は上部のタブ切「アプリケーション」「設定」「ファイル」の3種類に切り替え可能。また、SDカードの有無やバッテリ残量、時刻といったステータス情報は右下、サスペンド/再起動といった処理はWindowsのスタートメニューに似た左下のメニューから選択できる。 |
操作系については、ペン入力もしくは液晶の下側に装備された「Home」「Cancel」「OK」「Menu」ボタン+十字キーのカーソル操作が中心。ホーム画面には「アプリケーション」「設定」のランチャに加えて、「ファイルマネージャ」が追加されており、フォルダによるファイルの分類や作成日時やファイルサイズの参照が可能となっている。
OSがマルチタスクに対応したことで、ブラウザとメーラで個別にダイアルアップ接続を行う必要があったMI-Eシリーズよりも操作性は確実に上がっているが、アプリケーション切り替え時の動作にキビキビとした印象はあまりなく、場合によっては数秒待たされることもある。CPUがXscale(PXA210)-200MHz、メモリ容量が64MB(うちユーザーエリアが23MB)と比較的余裕あるスペックのマシンとしてはいささか不満だ。ただし、ソフト面の改善は発売直前まで行われているそうなので、製品版では多少の速度向上が図られる余地はあるだろう。
シャープがLinuxを採用した秘密
ザウルスは、これまで日本市場のニーズを色濃く反映した独自の進化を遂げてきた。しかし、国内市場ではPalmやPocket PCといった外憂に悩まされ、世界に打って出る際にはZaurus OSという独自プラットフォームが壁となった。
そこで、シャープが活路を見出そうとしたのがLinuxだ。Linuxのオープンなイメージを武器に、世界市場で一挙逆転を狙おうという算段である。その上で急務と言えるのが開発環境の整備である。シャープは、オープンソースのLinuxの採用、アプリケーション開発に必要なハードウェア情報の開示、開発キットの無償配布などを通じてザウルスの認知度の向上と開発者の参加を呼びかけていく。また、英Insignia Solutions社のJava実行環境「Jeode」も標準搭載する。圧倒的なシェアを持つPalmや、大手ハードベンダーの強いバックアップのもと急成長を果たすPocket PCに対して、「情報公開とLinux/Java開発者の潜在能力」を武器に戦っていこうというわけだ。
また、オープンな環境を用意すれば、企業でザウルスを導入しようとする際にもメリットが大きい。企業への導入では、周辺機器の追加やハードウェアの変更などに柔軟に対応できるプラットフォームが必要になる。従来のザウルスでは、これら細かなカスタマイズに対して、そのつどシャープが対応しなければならなかったが、公開されたOSを利用すればそういった作業をSIヤーに任せることができる。
Linuxの採用には、ライセンス料のコストを大幅に抑えられるというメリットもある。シャープがLinux搭載PDAの市場開拓に成功すれば、第2、第3のメーカーが参入し、市場そのものも拡大していく。ハード/ソフトの両面をオープンにすることで、ザウルスのアプリと100%の互換性を持つ、安価で独創的なクローンPDAが将来的に登場してくる可能性もあるが、市場そのものが大きくなることによりシャープが得るものも大きいはずだ。
「オープンな開発環境」というキャッチフレーズのインパクトは、欧米向けに販売されているMI-E21ベースのLinuxザウルス「SL-5500」の出荷数がすでに2万台に達し、デベロッパ登録した開発者の人数が3万人(うち日本人は500人強)を数えるという事実が端的に示している。SL-A300を初めとしたLinuxザウルスがPDA市場にどのような影響を与えるかは現時点で未知数だ。その一方で、Linuxの採用や従来のコンセプトを大きく変更する端末の発表は、少なからず過去の資産を切り捨てる必要も出てくる。例えば、SL-A300では、MI-Eシリーズ用に書かれた「MOREソフト」(ザウルス用アプリケーション)は動作しない。「アドレス帳」や「スケジュール」データのインポート行うことは可能だが、アプリケーションはPIMを中心にした最小限の構成で、使い勝手の良かった縦型のWebブラウザやMPEG-4/Nancy形式の動画再生ソフトが使えなくなったのは残念な部分だろう。
初代ザウルスから10年の節目を迎えた2002年、ザウルスは「日本のザウルス」から「世界のザウルス」へと飛翔する。大手PDAメーカーとしてはほぼ初めて組み込みLinux市場に漕ぎ出すシャープの施策が吉と出るか凶と出るかは、数年後のPDA市場が教えてくれるだろう。
特別インタビュー SL-A300開発者に訊く
ザウルスを、PCとPCとをつなぐインターフェイスとして使ってほしい
私なんかがやっているのは、家のPCと会社や出張先のPCの連動です。ザウルスをインターフェイスとして使っている。ドライバを組み込まないといけないという問題はあるが、複数の場所で手軽にデータを編集できて、必要であれば移動中でも、ザウルスを使って内容を参照できるわけです。
Zaurus SL-A300の主なスペック | |
製品名 | Zaurus SL-A300 |
---|---|
CPU | PXA210-200MHz(Intel) |
メモリ | 64MB(SDRAM、ユーザーエリア:約23MB) |
画面表示 | 240×320ドット/6万色 |
液晶 | 3.5インチ反射方カラーTFT(フロントライト付き) |
バッテリ(連続表示時間) | 専用リチウムイオン充電池(12時間) |
接続端子 | I/Oポート、ステレオヘッドフォン端子、コミュニケーションアダプター端子、IrDA(115kbps) |
本体サイズ | 69.4(W)mm×113(D)×12.5(H)mm |
重量 | 約120g(カバーなし)/約138g(カバーあり) |
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